シスコンリーマン、魔王の娘になる

石田 ゆうき

文字の大きさ
8 / 148
第1章 異世界へ。現状を知る

魔力覚醒

しおりを挟む
 階段を上がり、豪華な部屋に案内された。
 広さは何十畳だろう、ちょっとわからない。8畳くらいなら感覚的にわかるけどこうも無駄に大きいとな……。

 壁と天井の基調はやはり金。他の場所よりもさらに細かい装飾がほどこされている。奥に、真っ赤な天蓋付きのベッドがあった。ベッドもまた大きい。五人くらい横に並んで寝られそうだ。

 オレは布団の上に降ろしてもらい、仰向けに寝転がった。
 体の力を抜き、ゆっくりと腹式呼吸をはじめる。目を閉じて、軽く丹田あたりに力を入れた。

(我がこの気海丹田、総にこれ我が本来の面目、面目なんの鼻孔かある)
(我がこの気海丹田、総にこれ我が唯心の浄土、浄土何の荘厳かある)
(我がこの気海丹田、総にこれ我が己心の弥陀、弥陀何の法をか説く)

 丹田に意識を集中しつつ、三節を頭の中で繰り返す。

 ……べつに宗教にかぶれているわけでも、頭がおかしくなったわけでもない。
 これは「内観の法」という健康法だ。体に力を入れるだけではダメだったので、精神的な技法を試してみようと思ったのだ。

「姫様、お腹のあたりに強い魔力が集まっていますよ!」

 五分ほど続けるうちに、ユルテが声をかけてきた。
 おお、成功しちゃったよ! 正直、とりあえずやってみただけで、ここまでうまくいくとは思っていなかった。

 「内観の法」は禅寺で覚えた、数少ない事柄の一つだ。
 研修が終わったあとも家で寝る前によくやっていたのだ。これをやると、なんとなく体調が良くなる気がする。気のせいかもしれないけれども。

 社長、本当にありがとう。和尚さんもありがとう。
 世の中には、無駄なものなんてないんだね。

 頭を振って、もう一度集中する。
 今度は両手をお腹の上においてみた。

 そして両手でボールをつかむイメージをしながら、調息と文言を繰り返す。
 今度は数回繰り返すだけで、変化を感じた。
 手のひらの間に何かがあるのがわかる。

 ──不意に世界が変わった。
 目で見なくても、ユルテがいるのがわかる。それだけじゃない。集中するとこの近くに二つ、だれかの魔力があることも感じられたのだ。

 イメージとしては熱……というより光、か?
 気を抜くと消えてしまう反応だけど、集中するとさらにはっきりと感じられる。
 ……超能力を覚えた実感がわき、少し嬉しくなった。

「うまくいきましたね。じゃあ次はその魔力の使い方を教えましょうか」
「うむ。頼むのじゃ」

「まずは下級の元素魔法。魔力を地水火風の四種に変化させます」

 ユルテはそういうと、手のひらの魔力を水に変えてみせた。
 こぼれ落ちた水がバシャバシャと床にたれる。

「っておい、部屋が水浸しになるだろ!」

 しかしオレの非難にも、ユルテは涼しい顔だ。

「よく見てください」

 そう言って床を指差す。
 今さっき、びしょ濡れだった絨毯がすっかり乾いていた。

「魔法は時間がたてば、もとの魔力に戻ってしまうんです。残るのは他に及ぼした影響だけ」

 出したものが消える?
 つまり水を出して飲んでも、その水分は体に補給されないわけか。
 ……うーん。不便なような、使い方によっては便利なような?

「さあ、今度は姫様がやってみてくださいな」

 手のひらに魔力をためる。
 それが水に変わることをイメージする。
 ──あっさりと、手のひらから水があふれだした。

 オレは、魔法が使えた……!
 感動で体が震える。

 次に魔力が金塊になるイメージ。成功。
 これ売れれば大金持ちなんだけどな。残念ながら、すぐに金塊は消えてなくなった。さらに火、風と試してみる。両方成功。思ったより簡単だった。

「なんと……。姫様は四元素すべて使えたんですね」
「どういうことじゃ?」

「普通は、得意魔法と不得意魔法があるんです。私は風と水しか使えません」
「へー。さすがは魔王の娘じゃな」

 つぶやいてから、首をかしげた。

「なんで侍女のそなたが、わらわが四元素使えることを知らなかったのじゃ。もしかして本当はあんまり仲が良くなかったとか──」

「失礼な! 姫様は私のことが大好きですっ」

 顔を真赤にして怒るユルテは、ちょっと可愛かった。
 でもどうなんだろう。もしかして、ディニッサが逃げ出した原因は、ユルテの溺愛に疲れったってセンもあるのかな……?

「姫様は、面倒だから魔法を使わないんです。私が見たのは過去一度だけ。城の他の者たちも、その一回しか姫様の魔法を見ていないはずです」

「一回だけ……。せっかく魔法が使えるのにもったいない。魔法を使えば生活が便利に──いやそうか、何から何まで世話してもらうから必要ないんじゃな」

 オレからすると羨ましい能力だが、生まれた時から自然に使えるならまた違うのだろう。空を飛ぶ鳥は、自分が飛べることに特別な感慨はもたないだろうから。

「その一回とは、どんな魔法を使ったんじゃ? 緊急事態だったんじゃろうが」

 ユルテは過去を振り返るように目を閉じた。
 懐かしそうに微笑む。

「それは死の魔法です。姫様は『皆殺し姫』と呼ばれているんですよ」

 ──ひどく物騒なことを、満面の笑顔で言われた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

処理中です...