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第2章 お城の外へ。常識を知る
魔力と階級
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船で逃げるか、国にとどまって戦うか。
2つの選択のうち、オレはどちらも選ばなかった。
といっても、カッコいい第三の道を考えついたわけじゃない。ただの保留だ。
まだ二ヶ月ある。すぐに逃げなくてもなんとかなるだろう。
すべては情報を集めてからだ。
とはいえ、情報収集より先にやることがある。それは魔法の訓練だ。
なにをするにしても、自分の身を守れる程度の力は必要だ。
というわけでオレとフィアは、魔法特訓のため城にある塔を登っていた。
練習中に予想外の事態がおきても、周囲に被害をもたらさないように塔を選んだのだ。
塔の中の急な階段をフィアが登っていく。
オレは例によって、お姫様抱っこ状態なので楽チンだ。
フィアの顔が赤くなっている。さすがにキツイのかもしれない。
「フィア、苦しいなら、わらわは自分で歩いてもよいのじゃぞ」
「苦しくは、ない。この程度で音を上げる魔族なんて、いない。ただ……」
「ただ?」
「体は姫様でも、心の中が男の人だと思うと、ちょっと、恥ずかしい」
ああ、なるほど。この城、女の子しかいないしな。男に免疫がないのか。
「恥ずかしいなら、無理しなくてもよいじゃろ」
「それは、ダメ。大事な、役目」
お姫様抱っこでの移動が、重要なことだとは思えないのだが。
まあ、考えたかたは人それぞれだ。
「フィアも魔族なんじゃな」
「? もちろん」
「ファロンとコレンターン──」
「コレット。ユルテ以外はコレットって呼んでる」
「ああ、そうか、ならその──」
「ファロンは魔族、コレットはただの猫人族」
こちらの言葉を先読みして答えてくれる。頭のいい子だ。
しかし、魔族の基準がよくわからんな。
「同じ種族にしては、お互いの姿が違いすぎんか? 羽があったり、尻尾があったり」
「この世界では、あらゆる生き物が魔法を使える可能性がある。その中で意思疎通ができるものは魔族。できないものは魔物とよばれる」
「なるほど、そういう定義なんじゃな。魔法が使えるものが魔族か」
「ちなみにミドルネームで起源がわかる。姫様のロニドゥはエルフ族、私のデルフィレは氷精族」
あー、称号とかじゃなかったのか。
日本でいったら氏になるのかな? 源氏とか平氏とか。
「じゃあわらわは、エルフ族のディニッサというわけかの」
「違う。魔族は元の種族名では呼ばれない」
「なぜじゃ?」
「魔族は簡単に混じるから。姫様の起源はエルフだけど、竜の翼がある。魔族は代を重ねるごとにどんどん変わっていって、元の姿などわからなくなってしまう」
こっちの世界では異種族婚が盛んなんだろうか?
オレだったら、あんまり見た目が人間と違うヤツとは結婚したくないけど……。
「そうだ。この世界の地位を大雑把に教えてくれんか。一番偉いのは誰じゃ?」
「一番は魔王、次が──」
フィアの話を総合するとこうだ。
魔族の中で飛び抜けた者が魔王と呼ばれる。現在は6人。
次が貴族。魔族の中で領地を持っている者のことだ。他の貴族を支配下においているものは王と名乗っても良いらしいが、さほど重要視されていないらしい。
その下が騎士。これには領地をもっていない魔族すべてが含まれる。誰にも仕えず放浪の旅をしていようが、街でパン屋をやっていようが関係なく騎士なのだ。
一番下が平民。魔法を使えない種族すべてがこれに含まれる。
驚いたことに、この世界には奴隷がいないらしい。いや、それ自体は素晴らしいことなのかもしれない。ただ疑問が残る。ある程度文明が発展すれば、自然発生的に生まれてしまうものだと理解していたんだが……。
* * * * *
明るい日差しが差し込んだ。話しているうちに屋上にたどり着いたようだ。
空が青い。塔の上から眺める景色は、素晴らしいものだった。
前方に青い山脈が見える。山の方を指差しながらフィアにたずねた。
「あっちが北かの?」
「そう」
やっぱりそうか。なら、あのあたりに鉱山都市テパエがあるんだな。
山の方から川が流れてきている。その広い川は、さらに街の東側を通って南に向かっていく。
南には畑が広がっていた。海は見えない。
ディニッサの話だと海までは船ですぐ、みたいなイメージだったんだが、どうなんだろう。
近くを見下ろすと、整然とした街並みが広がっている。
予想よりルオフィキシラリアの街は大きかった。
城のまわりに城壁。そのすぐ外には、敷地の広い立派な邸宅が立ち並ぶ。
その家々を囲むように高い壁が立つ。その壁の外には、小さな家が数多く見え、さらにその周囲を壁が取り囲んでいる。
街が拡大するたびに、新しく壁を作っているのだろう。
最後の壁の外にも民家が集まっていたが、遠目でもボロく貧相な造りだった。
いかにも治安が悪そうに思える。もし行くことがあれば要注意だな……。
「姫様、なにする?」
「ひなたぼっこ──」
……え? 自分で言って驚いた。
フィアの質問に、ごく自然に「ひなたぼっこ」という返事をしていたのだ。
なに考えてるんだ、オレ、特訓にきたんだろ?
どうもおかしい。これでも日本の社畜だぞ。朝一からこんな甘ったれたことを言うはずがない。
──となると、おそろしい仮定が成立するのではないか。
このディニッサの体に引きづられてしまっている、という仮定が。
つまり油断してると、ディニッサのようなダメ人間になってしまうということだ!
「そういうと思って、準備してある」
見ると、フィアが布をはってハンモックのような物を用意していた。
ああ、いいな、アレ。
あんなのに寝転がってさ、さわやかな風を感じながら昼寝するのはどんなに心地良いだろう。
いや、いかん。首を振って邪念を追い払う。
「ひなたぼっこは中止。魔法の特訓をするのじゃ!」
2つの選択のうち、オレはどちらも選ばなかった。
といっても、カッコいい第三の道を考えついたわけじゃない。ただの保留だ。
まだ二ヶ月ある。すぐに逃げなくてもなんとかなるだろう。
すべては情報を集めてからだ。
とはいえ、情報収集より先にやることがある。それは魔法の訓練だ。
なにをするにしても、自分の身を守れる程度の力は必要だ。
というわけでオレとフィアは、魔法特訓のため城にある塔を登っていた。
練習中に予想外の事態がおきても、周囲に被害をもたらさないように塔を選んだのだ。
塔の中の急な階段をフィアが登っていく。
オレは例によって、お姫様抱っこ状態なので楽チンだ。
フィアの顔が赤くなっている。さすがにキツイのかもしれない。
「フィア、苦しいなら、わらわは自分で歩いてもよいのじゃぞ」
「苦しくは、ない。この程度で音を上げる魔族なんて、いない。ただ……」
「ただ?」
「体は姫様でも、心の中が男の人だと思うと、ちょっと、恥ずかしい」
ああ、なるほど。この城、女の子しかいないしな。男に免疫がないのか。
「恥ずかしいなら、無理しなくてもよいじゃろ」
「それは、ダメ。大事な、役目」
お姫様抱っこでの移動が、重要なことだとは思えないのだが。
まあ、考えたかたは人それぞれだ。
「フィアも魔族なんじゃな」
「? もちろん」
「ファロンとコレンターン──」
「コレット。ユルテ以外はコレットって呼んでる」
「ああ、そうか、ならその──」
「ファロンは魔族、コレットはただの猫人族」
こちらの言葉を先読みして答えてくれる。頭のいい子だ。
しかし、魔族の基準がよくわからんな。
「同じ種族にしては、お互いの姿が違いすぎんか? 羽があったり、尻尾があったり」
「この世界では、あらゆる生き物が魔法を使える可能性がある。その中で意思疎通ができるものは魔族。できないものは魔物とよばれる」
「なるほど、そういう定義なんじゃな。魔法が使えるものが魔族か」
「ちなみにミドルネームで起源がわかる。姫様のロニドゥはエルフ族、私のデルフィレは氷精族」
あー、称号とかじゃなかったのか。
日本でいったら氏になるのかな? 源氏とか平氏とか。
「じゃあわらわは、エルフ族のディニッサというわけかの」
「違う。魔族は元の種族名では呼ばれない」
「なぜじゃ?」
「魔族は簡単に混じるから。姫様の起源はエルフだけど、竜の翼がある。魔族は代を重ねるごとにどんどん変わっていって、元の姿などわからなくなってしまう」
こっちの世界では異種族婚が盛んなんだろうか?
オレだったら、あんまり見た目が人間と違うヤツとは結婚したくないけど……。
「そうだ。この世界の地位を大雑把に教えてくれんか。一番偉いのは誰じゃ?」
「一番は魔王、次が──」
フィアの話を総合するとこうだ。
魔族の中で飛び抜けた者が魔王と呼ばれる。現在は6人。
次が貴族。魔族の中で領地を持っている者のことだ。他の貴族を支配下においているものは王と名乗っても良いらしいが、さほど重要視されていないらしい。
その下が騎士。これには領地をもっていない魔族すべてが含まれる。誰にも仕えず放浪の旅をしていようが、街でパン屋をやっていようが関係なく騎士なのだ。
一番下が平民。魔法を使えない種族すべてがこれに含まれる。
驚いたことに、この世界には奴隷がいないらしい。いや、それ自体は素晴らしいことなのかもしれない。ただ疑問が残る。ある程度文明が発展すれば、自然発生的に生まれてしまうものだと理解していたんだが……。
* * * * *
明るい日差しが差し込んだ。話しているうちに屋上にたどり着いたようだ。
空が青い。塔の上から眺める景色は、素晴らしいものだった。
前方に青い山脈が見える。山の方を指差しながらフィアにたずねた。
「あっちが北かの?」
「そう」
やっぱりそうか。なら、あのあたりに鉱山都市テパエがあるんだな。
山の方から川が流れてきている。その広い川は、さらに街の東側を通って南に向かっていく。
南には畑が広がっていた。海は見えない。
ディニッサの話だと海までは船ですぐ、みたいなイメージだったんだが、どうなんだろう。
近くを見下ろすと、整然とした街並みが広がっている。
予想よりルオフィキシラリアの街は大きかった。
城のまわりに城壁。そのすぐ外には、敷地の広い立派な邸宅が立ち並ぶ。
その家々を囲むように高い壁が立つ。その壁の外には、小さな家が数多く見え、さらにその周囲を壁が取り囲んでいる。
街が拡大するたびに、新しく壁を作っているのだろう。
最後の壁の外にも民家が集まっていたが、遠目でもボロく貧相な造りだった。
いかにも治安が悪そうに思える。もし行くことがあれば要注意だな……。
「姫様、なにする?」
「ひなたぼっこ──」
……え? 自分で言って驚いた。
フィアの質問に、ごく自然に「ひなたぼっこ」という返事をしていたのだ。
なに考えてるんだ、オレ、特訓にきたんだろ?
どうもおかしい。これでも日本の社畜だぞ。朝一からこんな甘ったれたことを言うはずがない。
──となると、おそろしい仮定が成立するのではないか。
このディニッサの体に引きづられてしまっている、という仮定が。
つまり油断してると、ディニッサのようなダメ人間になってしまうということだ!
「そういうと思って、準備してある」
見ると、フィアが布をはってハンモックのような物を用意していた。
ああ、いいな、アレ。
あんなのに寝転がってさ、さわやかな風を感じながら昼寝するのはどんなに心地良いだろう。
いや、いかん。首を振って邪念を追い払う。
「ひなたぼっこは中止。魔法の特訓をするのじゃ!」
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