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第2章 お城の外へ。常識を知る
異世界の軍隊
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朝の街を歩く。澄んだ空気が心地よい。
「なんとも気分の良い朝じゃな?」
オレは隣を歩く、狐耳の女性に話しかけた。
それに対する返事は「寒いだけ」というそっけないものだった。
ファロンは、不機嫌さを隠そうともしない。
……だがそれも仕方ないことだ。オレが本物のディニッサではなく、偽物だと知らせたのだから。オレだって、陽菜が誰かと入れ替わっていたら怒るだろう。
これが普通の反応だと思う。むしろ、あっさりと受け入れた、ユルテとフィアがおかしいのではないか。なんとなく、ディニッサの外見だけを求めているようで、多少イヤな気分になる。
とは言えオレ自身も、相手の心だけを評価できるとは言い切れないのだが。
たとえばある朝、陽菜が巨大なゴキブリになっていたとして、それでもオレは変わらぬ情愛を持てるだろうか……?
* * * * *
昨日に引き続き、今日もケネフェトに会いに来た。
まだ聞かなければならないことが、山ほどあるのだ。昨日は変態オヤジとのやりとりでグッタリして、そのまま城に帰ってしまったから。
まだ早朝だというのに、ケネフェトは当然のごとく仕事をしていた。
昨日よりも多くのエルフたちも、いっしょに忙しく働いている。
「ケネフェト、今日は軍のことについて聞きに来たのじゃ」
オレは、あいさつもそこそこに話をはじめた。
あるていど政権の形が整うまでは、時間を節約して動きたい。
「まず敵軍の情報じゃ。ゲノレの領主の戦力は? 戦争になった場合、どれほどの軍勢で攻めてくるのじゃ」
「そうですね……。戦の前にどのていど騎士を雇うか不明ですので、はっきりとは言えませんが、50人は覚悟しておいたほうが良いと思います」
ん?
「……50万人?」
「50万!? そんな軍勢いるわけがありませんよ! 50人です」
しょぼっ! 50人ってどういうこと?
ちょっとした喧嘩レベルじゃねーか。
「なんじゃ、それならこちらのほうが倍の戦力があるということじゃな」
「え?」
今度はケネフェトが驚いた。
なにか話が噛み合っていないようだ。
「ディニッサ様、平民は戦争には参加しません。戦場にいくのは魔族だけです」
「ああ、そういうことかの……」
戦争は貴族と騎士──つまり、魔族だけでやるのか。
なんかあらゆることがオレの常識からはずれていくな。ふつうは農民とかも徴兵して、どんどん大規模な軍隊になっていくはずなんだけど……。
「もしかしてそれも、魔王会議とやらで決められたものかの?」
「いえ、ふつうはそうであるというだけで、平民の参戦も禁止はされていません。平民を集めて部隊を作った領主も、まるでいないわけではないようです」
ルオフィキシラル教徒を動員する。おそらく数万の軍勢は作れるだろう。
さすがにそうなれば、たった50人に負けるわけがない。
……けれど、信者たちに多くの戦死者が出る。
平民の動員は却下だな。第一に、犠牲者が多すぎる。
第二に平民を戦わせるのは、この世界のマナーに反する行動のようだからだ。
軽蔑されるのは望ましくない。その後の行動に大きな制約がかかるだろうから。
となるとこっちも、魔族だけでなんとかしないといけないわけだ。
オレ、侍女3人、ケネフェト、武官5。仮に全員戦わせたとしても、10人しかいない。戦力差1対5。厳しいな。まるで勝てる気がしない。
しかも困ったことに、陽菜に頼んだことも無意味になってしまいそうだ。
戦略や戦術は関わる人数が増えるにつれ、より真価を発揮するものだろう。
たった50人の争いでは、作戦より個々の腕力のほうが重要になってきそうだ。
火器の研究も同じく。火縄銃の部隊でもつくれれば、戦闘を有利に進められると考えていたのだが……。たった10丁の火縄銃では、どれほどの効果が期待できるか心もとない。
平民に持たせれば、大量の小銃部隊も編成できるかもしれないが、平民の動員は却下済みだ。選ばれた魔族だけが争うというのなら、その原則は崩さないほうがいいだろう。
最新鋭のライフルや機関銃は有効だろう。が、技術的に作れない
そもそも絵もなしに、陽菜の説明だけで理解できる自信もないし。
ああ、オレがミリオタだったらなあ。
たった一人で勝てるどころか、相手の戦意を喪失させて、戦い自体を無くせるような兵器を作り出せたかもしれないのに。
「ケネフェト、兵士の募集をするのじゃ。魔族だけでなく、平民もな。通常より好条件でよい。いまのところ資金に余裕があるからの」
「平民なんて、戦いの役にたたないと思うよー?」
つまらなそうにしていたファロンが、はじめて口を開いた。
「その、ボクもファロン様に賛成です……」
「いや、ほかの用件に使うだけじゃ。戦わせるつもりはない」
戦闘に参加させるのではなく、情報収集をメインとした運用をするつもりだ。
どうもこの世界には、相手のことを知れるような便利な魔法がなさそうだから。
それに領内の治安維持のためにも、もう少し人員が必要だ。
「そうじゃな、応募者を雇い入れるかどうか決めるのは、本職の武官に任せたほうがよかろう。彼らは、今どこにおるのじゃ?」
「一人はこの街の警備をしています。他4名は、領内にあらわれた魔物討伐をしているところです」
「ではこの街を守っている兵士は、21人だけかの?」
「いえ、武官は1名ですが、兵士は80人残っています。魔物退治に大勢の兵士を連れて行っても意味がありませんし」
「ふむ。ならばその者達に追加人員の選別をさせよ」
そう言ってからファロンを見た。
「街の外に出てみようと思うのじゃが、ファロンはどう考える?」
「お外? いいよー。久しぶりのお散歩、楽しそう」
その日、初めてファロンの機嫌が良くなった。
ユルテだったら危ないと止めそうなものだが、ファロンは違うらしい……。
「なんとも気分の良い朝じゃな?」
オレは隣を歩く、狐耳の女性に話しかけた。
それに対する返事は「寒いだけ」というそっけないものだった。
ファロンは、不機嫌さを隠そうともしない。
……だがそれも仕方ないことだ。オレが本物のディニッサではなく、偽物だと知らせたのだから。オレだって、陽菜が誰かと入れ替わっていたら怒るだろう。
これが普通の反応だと思う。むしろ、あっさりと受け入れた、ユルテとフィアがおかしいのではないか。なんとなく、ディニッサの外見だけを求めているようで、多少イヤな気分になる。
とは言えオレ自身も、相手の心だけを評価できるとは言い切れないのだが。
たとえばある朝、陽菜が巨大なゴキブリになっていたとして、それでもオレは変わらぬ情愛を持てるだろうか……?
* * * * *
昨日に引き続き、今日もケネフェトに会いに来た。
まだ聞かなければならないことが、山ほどあるのだ。昨日は変態オヤジとのやりとりでグッタリして、そのまま城に帰ってしまったから。
まだ早朝だというのに、ケネフェトは当然のごとく仕事をしていた。
昨日よりも多くのエルフたちも、いっしょに忙しく働いている。
「ケネフェト、今日は軍のことについて聞きに来たのじゃ」
オレは、あいさつもそこそこに話をはじめた。
あるていど政権の形が整うまでは、時間を節約して動きたい。
「まず敵軍の情報じゃ。ゲノレの領主の戦力は? 戦争になった場合、どれほどの軍勢で攻めてくるのじゃ」
「そうですね……。戦の前にどのていど騎士を雇うか不明ですので、はっきりとは言えませんが、50人は覚悟しておいたほうが良いと思います」
ん?
「……50万人?」
「50万!? そんな軍勢いるわけがありませんよ! 50人です」
しょぼっ! 50人ってどういうこと?
ちょっとした喧嘩レベルじゃねーか。
「なんじゃ、それならこちらのほうが倍の戦力があるということじゃな」
「え?」
今度はケネフェトが驚いた。
なにか話が噛み合っていないようだ。
「ディニッサ様、平民は戦争には参加しません。戦場にいくのは魔族だけです」
「ああ、そういうことかの……」
戦争は貴族と騎士──つまり、魔族だけでやるのか。
なんかあらゆることがオレの常識からはずれていくな。ふつうは農民とかも徴兵して、どんどん大規模な軍隊になっていくはずなんだけど……。
「もしかしてそれも、魔王会議とやらで決められたものかの?」
「いえ、ふつうはそうであるというだけで、平民の参戦も禁止はされていません。平民を集めて部隊を作った領主も、まるでいないわけではないようです」
ルオフィキシラル教徒を動員する。おそらく数万の軍勢は作れるだろう。
さすがにそうなれば、たった50人に負けるわけがない。
……けれど、信者たちに多くの戦死者が出る。
平民の動員は却下だな。第一に、犠牲者が多すぎる。
第二に平民を戦わせるのは、この世界のマナーに反する行動のようだからだ。
軽蔑されるのは望ましくない。その後の行動に大きな制約がかかるだろうから。
となるとこっちも、魔族だけでなんとかしないといけないわけだ。
オレ、侍女3人、ケネフェト、武官5。仮に全員戦わせたとしても、10人しかいない。戦力差1対5。厳しいな。まるで勝てる気がしない。
しかも困ったことに、陽菜に頼んだことも無意味になってしまいそうだ。
戦略や戦術は関わる人数が増えるにつれ、より真価を発揮するものだろう。
たった50人の争いでは、作戦より個々の腕力のほうが重要になってきそうだ。
火器の研究も同じく。火縄銃の部隊でもつくれれば、戦闘を有利に進められると考えていたのだが……。たった10丁の火縄銃では、どれほどの効果が期待できるか心もとない。
平民に持たせれば、大量の小銃部隊も編成できるかもしれないが、平民の動員は却下済みだ。選ばれた魔族だけが争うというのなら、その原則は崩さないほうがいいだろう。
最新鋭のライフルや機関銃は有効だろう。が、技術的に作れない
そもそも絵もなしに、陽菜の説明だけで理解できる自信もないし。
ああ、オレがミリオタだったらなあ。
たった一人で勝てるどころか、相手の戦意を喪失させて、戦い自体を無くせるような兵器を作り出せたかもしれないのに。
「ケネフェト、兵士の募集をするのじゃ。魔族だけでなく、平民もな。通常より好条件でよい。いまのところ資金に余裕があるからの」
「平民なんて、戦いの役にたたないと思うよー?」
つまらなそうにしていたファロンが、はじめて口を開いた。
「その、ボクもファロン様に賛成です……」
「いや、ほかの用件に使うだけじゃ。戦わせるつもりはない」
戦闘に参加させるのではなく、情報収集をメインとした運用をするつもりだ。
どうもこの世界には、相手のことを知れるような便利な魔法がなさそうだから。
それに領内の治安維持のためにも、もう少し人員が必要だ。
「そうじゃな、応募者を雇い入れるかどうか決めるのは、本職の武官に任せたほうがよかろう。彼らは、今どこにおるのじゃ?」
「一人はこの街の警備をしています。他4名は、領内にあらわれた魔物討伐をしているところです」
「ではこの街を守っている兵士は、21人だけかの?」
「いえ、武官は1名ですが、兵士は80人残っています。魔物退治に大勢の兵士を連れて行っても意味がありませんし」
「ふむ。ならばその者達に追加人員の選別をさせよ」
そう言ってからファロンを見た。
「街の外に出てみようと思うのじゃが、ファロンはどう考える?」
「お外? いいよー。久しぶりのお散歩、楽しそう」
その日、初めてファロンの機嫌が良くなった。
ユルテだったら危ないと止めそうなものだが、ファロンは違うらしい……。
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