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第8章 穂向け
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禊は片膝立ちに、神依には珍しく語気鋭く洞主に向かい合っていた。
「神依様は御令孫が直々にお取り立てあそばされた巫女です。それを、何の臆面もなくお求めになる神々など――」
「まあ、お待ち。……無論私かて、自ら降る男気もなく、私ごときの助力なければ御令孫に申し開きもできぬような浅慮短慮の殿御にこの可愛い娘巫女を差し出すことはいたしますまい。しかし――選べるというのは、巫女に取っては多大なる幸い。禊……お前ならば、わかるであろ?」
「……ッ」
「……長く続く生じゃ。最初が理性なき荒ぶる男神であっては……巫女としても女としても、あまりに哀れであろ。ゆえに私は、御令孫の御威光はあれ――それを真摯にわきまえ、讃え、受け入れる度量さえ持った気性穏やかなる神ならば、それも神依には良いかと思うておる。――本来、巫女に選ぶ権利などない。それを御令孫は意図せずお作りくださったのだから、より良き縁を結ばねばそれこそ無礼であろ」
「御令孫は……御令孫は、ご存知でいらっしゃるのですか」
「……あの方は、あの御気性だ。残念じゃが、端の巫女など相手にはすまい」
「……」
「あ、あの……」
禊が黙ってしまったのを機に、置いてきぼりをくらったまま、気まずそうな空気を纏い神依がおずおずと口を挟む。
「洞主様……その、つまどいって……何ですか?」
そして再度その問いを投げかけたところで、
「神依……そなたは、いささか他の巫女とは勝手が異なる。それでも、巫女の役目については理解しておろうな?」
「は……はい。名前をもらったときに……。巫女は神々に信仰を、歌や舞を捧げてその魂を慰め……その、寄り添って契りを結ぶ、と」
「うむ……ならばよい。妻問いとは、神々がその一夜の契りを求め、淡島の巫女や覡の元へ天降ること。逆から申せば……巫女が、神の一夜妻となることじゃな」
「え……っ、と」
その洞主の言葉を聞いた神依は、呆然としたまま硬直した。
「巫女や覡はそれを数多重ね、いずれ求められれば高天原へと召し上げられる。身の回りの世話や、その才こそあらば政や祭祀を補佐する役目も与えられる。あるいは巫女なれば……いずれかの男神の、神たる子を生めばその伴侶と認められる」
「あの……あの、待って下さい。わたし……わたし。それが、巫女の役目だとわかってはいるんですけど、でも――」
「なに……恐れることはない。巫女としてこれほどまで求められるは、至って幸いなことなれば――契りの証として身に戴く朱印の数を競うても、いずれそなたに敵う巫女はおらなくなるかもしれませぬえ」
「っ……」
そう言ってころころと笑う洞主だったが、その言葉が進むに連れ神依は何を考えたのか真っ赤な顔をして気まずそうに縮こまり、代わりに禊はどんどん無表情になっていく。
(あーあ……)
そしてそれを何でもないような面持ちで眺める童だったが、そのちぐはぐなやりとりは呆れを通り越していっそ滑稽だった。
(たしかに、並の巫女ならいいだろうけど……姉ちゃんはなあ)
改めて語るべくもなく、主はその奇異な漂着と相まって巫女として持っていて当然の感覚が欠如していた。
風呂も最初は一人で入りたがったし、皆で食卓を囲むのもそうだし、自分の立場がわかっていないのか少しも偉ぶらない。禊や童がして当然のことにもいちいち礼を言ってくれるし、その価値を高めてくれるし――だからこそ地位を持たない者たちからも好く思われている。
それはたしかに淡島の巫女の中では異質かもしれない。だがしかし、そこには何より心がある。
だから今回も、見ず知らずの神との無意味な契りを嫌がることは安易に想像がついたし、童は童として、禊の前で朱印云々の話をされることは少し不快なものだった。禊が何も語らないぶん、禊という存在の心中を知る童はいっそう哀れな気持ちになる。
しかしそれは大兄も同じだったようで、ややあって禊に声をかけた。
「大弟。お前は何もお伝えしておらなかったのか」
「話す必要がないことに関しては、元よりお話する気はありません。祭祀までは……という思いもありましたし、以降も御令孫の目を憚ってしばらくはないのではと」
「まあ、一理ある。……しかし、これが現実だ。神々も永き時に膿んでおられる。一時の欲が始まりだとしても……神々の寵愛深き巫女は禊の誉れ。それは……わかるな」
「……はい」
「……迷いがあるならばまた訪ねてこい、愚痴くらいは聞いてやる。それが俺や、玉衣様の仕事だからな。それに、早々に高天原に召し上げられた方が良いこともある」
「うむ。神依、ようお聞き」
「は……はい」
神依は肩を縮こませたまま、飼い主の機嫌を窺う犬のように上目遣いで洞主を見上げる。
まさかお菓子を食べただけでこんな話をされるとは思わず、流れ着いた日に童から聞いた話もあったし、奥社を降った時に朱の楼閣がどんなものか禊からも聞いて理解はしているつもりだったが……それがこんな形で我が身にふりかかるとは、思いもしなかった。
そもそもこの件に関しては、自分と洞主の間に感覚で大きな齟齬がある。
洞主はそれを当然のように話しているが――契りを結ぶのは心を決めた男神と時を経て、もっと自然に行われるものだと神依は思っていたのだ。そして、原初の女神もそれを示していたような気がする。
(なのにまさか……まさか、こんな話になるなんて)
困惑する神依に、洞主は小さな子に言い聞かせるように説く。
「今の豊葦原にはさほど巨きな神は生まれぬが――まだ神と人とが共に在った時代には、そなたが興した斎水別神のように天津神にも御し難い神が多々あられた」
「龍……の神様、が?」
「この国元は水と山の国ゆえな――しかしそうした龍や大蛇の姿をした水の神は、時に土地も命も、すべてを等しく無慈悲に呑み込んでしまう。先の御霊祭しかり……ゆえに他の神は力で、人は信仰と技とでそれを治めようと長い間対峙してきた。けれどもそれもままならぬもの……人々はやがてその荒ぶる神に、娘を差し出すようになった」
「あ……」
洞主がなぜそんな話をするのかはわからなかったが、神依はその言葉にいつか鼠軼と話したことを思い出した。たしか……。
「生贄に、女の子を求める大蛇がいたと聞いたことがあります。あの子龍が石を食べるのが心配で……わたしの家の、屋敷神様にお聞きしたんですけど」
「うむ――間違いない。人々はそうしたまつろわぬ神に娘を人身御供として差し出し、その荒御霊を鎮めようとした」
洞主は一口茶を含み、仕草で神依にもそれを勧める。神依は再び楊枝で花弁を切り分けるが、口に運ぶ気にはなれなかった。
洞主はさらに言葉を続ける。
「八俣大蛇という」
「やまたのおろち?」
「そう――名のとおり、一つの体に八つの頭と八つの尾を持ち、腹が常に血に爛れておるという巨大な蛇の化け物じゃ。おそらく、その話であろう」
「や……八つの頭!?」
「おぞましかろう。しかし、巫女としておぞましきはここからじゃ。今は昔の話ゆえ、私も匠らが記す書物や絵巻物で目にするばかりだが……」
「……?」
そこでふと落ちてきた沈黙に、神依も意味なく花弁ごとに菓子を切り分けていたその手を止めた。そしてそのまま先を促すように洞主を見上げれば、彼女は悲痛に満ちた面持ちで続ける。
「……そこでは、差し出された娘らは皆、巫女の姿で描かれる。ここまで申せば……そなたにももう、わかるであろ?」
「あ……っ」
――そしてそれを問われた瞬間、神依の背筋にぞわっと鋭い寒気が駆け抜けた。
なぜ今その話をされたか脳が一気に理解して、同時に凄惨な光景を勝手に想像してしまう。それに耐えられず、神依は自分を抱きしめるように右肩をぎゅ、とつかんだ。
(だから――だからわたしも、酷いこと……言われてたんだ……)
……人の姿でないものに蹂躙される恐怖や気味悪さ、羞恥心……そしてあえなく壊されていく理性のもろさは、実際に禍津霊に襲われた神依だからこそ正しく、生々しく理解できる、話だった。
幸いにも神依はその前に引き揚げられたが……もしも誰も手を伸ばしてくれなかったら、まさしくあの悪意ある噂のようになっていたかもしれない。
「……」
寒いわけでもないのに肌が粟立ち、今更に猿彦が言ったことの真実の重みがのしかかってきた。
「洞主様……」
「……うむ。言葉にするのも恐ろしきことじゃが……しかし、これもまた契りじゃ。贄として差し出された巫女は帰らず、もはや神とも言えぬ化け物のものとなる。その化け物とても、巫女を求むるは食らう以上に自らの魂を慰める神婚の意味合いの方が強かったであろう。そしてこの大蛇は年ごとに娘を求めたと言うから、……可哀想じゃが、その間の巫女はいっそ食われた方が楽ほどの仕打ちを受けておったやもしれぬ。……たとえ、巫女にそれを拒む自我がなくともな」
「……」
巫女は神に酔い、神は巫女によって興され、慰められる。だとしたら……自らの意思に関係なく、異種の暴神に堕ちていく巫女は、ただ哀れでしかない。
「淡島にいれば、そうなるかもしれないってことですか……?」
「必ずしも可能性は零ではない。そしてそういうとき、一番定められる可能性があるのは処女じゃ」
「それを――それを他のみんなは知っているんですか?」
「知っておる。しかし、今はもうないとも皆思っておる。そなたにこの話をするのも、そういうこともあり得るという私の杞憂からじゃ。御令孫のそれも、そういう事態を避けるための慈悲であったかもしれぬしな」
「……」
「……いいかえ、神依。そなたはやはり異質ではあるが――今や神々の中では日輪の如く咲き誇った大輪の花。今日明日とは申さぬが、鉄は熱いうちに、ともいうでな。色が褪せぬうちに、一度は縁を結んだ方がよかろうと私は思うておる。……さ、この話は終わりじゃ。代わりにそなたの好くような男の話でもいたそうか。そしてやはり好きなだけ、菓子をおあがり」
「……」
そうして神依は再び菓子を勧められ、しかしそれ以上を求めたらもっととんでもない話をされる気がして、急いで花弁を呑み込むと早々に奥社から退散した。
「神依様は御令孫が直々にお取り立てあそばされた巫女です。それを、何の臆面もなくお求めになる神々など――」
「まあ、お待ち。……無論私かて、自ら降る男気もなく、私ごときの助力なければ御令孫に申し開きもできぬような浅慮短慮の殿御にこの可愛い娘巫女を差し出すことはいたしますまい。しかし――選べるというのは、巫女に取っては多大なる幸い。禊……お前ならば、わかるであろ?」
「……ッ」
「……長く続く生じゃ。最初が理性なき荒ぶる男神であっては……巫女としても女としても、あまりに哀れであろ。ゆえに私は、御令孫の御威光はあれ――それを真摯にわきまえ、讃え、受け入れる度量さえ持った気性穏やかなる神ならば、それも神依には良いかと思うておる。――本来、巫女に選ぶ権利などない。それを御令孫は意図せずお作りくださったのだから、より良き縁を結ばねばそれこそ無礼であろ」
「御令孫は……御令孫は、ご存知でいらっしゃるのですか」
「……あの方は、あの御気性だ。残念じゃが、端の巫女など相手にはすまい」
「……」
「あ、あの……」
禊が黙ってしまったのを機に、置いてきぼりをくらったまま、気まずそうな空気を纏い神依がおずおずと口を挟む。
「洞主様……その、つまどいって……何ですか?」
そして再度その問いを投げかけたところで、
「神依……そなたは、いささか他の巫女とは勝手が異なる。それでも、巫女の役目については理解しておろうな?」
「は……はい。名前をもらったときに……。巫女は神々に信仰を、歌や舞を捧げてその魂を慰め……その、寄り添って契りを結ぶ、と」
「うむ……ならばよい。妻問いとは、神々がその一夜の契りを求め、淡島の巫女や覡の元へ天降ること。逆から申せば……巫女が、神の一夜妻となることじゃな」
「え……っ、と」
その洞主の言葉を聞いた神依は、呆然としたまま硬直した。
「巫女や覡はそれを数多重ね、いずれ求められれば高天原へと召し上げられる。身の回りの世話や、その才こそあらば政や祭祀を補佐する役目も与えられる。あるいは巫女なれば……いずれかの男神の、神たる子を生めばその伴侶と認められる」
「あの……あの、待って下さい。わたし……わたし。それが、巫女の役目だとわかってはいるんですけど、でも――」
「なに……恐れることはない。巫女としてこれほどまで求められるは、至って幸いなことなれば――契りの証として身に戴く朱印の数を競うても、いずれそなたに敵う巫女はおらなくなるかもしれませぬえ」
「っ……」
そう言ってころころと笑う洞主だったが、その言葉が進むに連れ神依は何を考えたのか真っ赤な顔をして気まずそうに縮こまり、代わりに禊はどんどん無表情になっていく。
(あーあ……)
そしてそれを何でもないような面持ちで眺める童だったが、そのちぐはぐなやりとりは呆れを通り越していっそ滑稽だった。
(たしかに、並の巫女ならいいだろうけど……姉ちゃんはなあ)
改めて語るべくもなく、主はその奇異な漂着と相まって巫女として持っていて当然の感覚が欠如していた。
風呂も最初は一人で入りたがったし、皆で食卓を囲むのもそうだし、自分の立場がわかっていないのか少しも偉ぶらない。禊や童がして当然のことにもいちいち礼を言ってくれるし、その価値を高めてくれるし――だからこそ地位を持たない者たちからも好く思われている。
それはたしかに淡島の巫女の中では異質かもしれない。だがしかし、そこには何より心がある。
だから今回も、見ず知らずの神との無意味な契りを嫌がることは安易に想像がついたし、童は童として、禊の前で朱印云々の話をされることは少し不快なものだった。禊が何も語らないぶん、禊という存在の心中を知る童はいっそう哀れな気持ちになる。
しかしそれは大兄も同じだったようで、ややあって禊に声をかけた。
「大弟。お前は何もお伝えしておらなかったのか」
「話す必要がないことに関しては、元よりお話する気はありません。祭祀までは……という思いもありましたし、以降も御令孫の目を憚ってしばらくはないのではと」
「まあ、一理ある。……しかし、これが現実だ。神々も永き時に膿んでおられる。一時の欲が始まりだとしても……神々の寵愛深き巫女は禊の誉れ。それは……わかるな」
「……はい」
「……迷いがあるならばまた訪ねてこい、愚痴くらいは聞いてやる。それが俺や、玉衣様の仕事だからな。それに、早々に高天原に召し上げられた方が良いこともある」
「うむ。神依、ようお聞き」
「は……はい」
神依は肩を縮こませたまま、飼い主の機嫌を窺う犬のように上目遣いで洞主を見上げる。
まさかお菓子を食べただけでこんな話をされるとは思わず、流れ着いた日に童から聞いた話もあったし、奥社を降った時に朱の楼閣がどんなものか禊からも聞いて理解はしているつもりだったが……それがこんな形で我が身にふりかかるとは、思いもしなかった。
そもそもこの件に関しては、自分と洞主の間に感覚で大きな齟齬がある。
洞主はそれを当然のように話しているが――契りを結ぶのは心を決めた男神と時を経て、もっと自然に行われるものだと神依は思っていたのだ。そして、原初の女神もそれを示していたような気がする。
(なのにまさか……まさか、こんな話になるなんて)
困惑する神依に、洞主は小さな子に言い聞かせるように説く。
「今の豊葦原にはさほど巨きな神は生まれぬが――まだ神と人とが共に在った時代には、そなたが興した斎水別神のように天津神にも御し難い神が多々あられた」
「龍……の神様、が?」
「この国元は水と山の国ゆえな――しかしそうした龍や大蛇の姿をした水の神は、時に土地も命も、すべてを等しく無慈悲に呑み込んでしまう。先の御霊祭しかり……ゆえに他の神は力で、人は信仰と技とでそれを治めようと長い間対峙してきた。けれどもそれもままならぬもの……人々はやがてその荒ぶる神に、娘を差し出すようになった」
「あ……」
洞主がなぜそんな話をするのかはわからなかったが、神依はその言葉にいつか鼠軼と話したことを思い出した。たしか……。
「生贄に、女の子を求める大蛇がいたと聞いたことがあります。あの子龍が石を食べるのが心配で……わたしの家の、屋敷神様にお聞きしたんですけど」
「うむ――間違いない。人々はそうしたまつろわぬ神に娘を人身御供として差し出し、その荒御霊を鎮めようとした」
洞主は一口茶を含み、仕草で神依にもそれを勧める。神依は再び楊枝で花弁を切り分けるが、口に運ぶ気にはなれなかった。
洞主はさらに言葉を続ける。
「八俣大蛇という」
「やまたのおろち?」
「そう――名のとおり、一つの体に八つの頭と八つの尾を持ち、腹が常に血に爛れておるという巨大な蛇の化け物じゃ。おそらく、その話であろう」
「や……八つの頭!?」
「おぞましかろう。しかし、巫女としておぞましきはここからじゃ。今は昔の話ゆえ、私も匠らが記す書物や絵巻物で目にするばかりだが……」
「……?」
そこでふと落ちてきた沈黙に、神依も意味なく花弁ごとに菓子を切り分けていたその手を止めた。そしてそのまま先を促すように洞主を見上げれば、彼女は悲痛に満ちた面持ちで続ける。
「……そこでは、差し出された娘らは皆、巫女の姿で描かれる。ここまで申せば……そなたにももう、わかるであろ?」
「あ……っ」
――そしてそれを問われた瞬間、神依の背筋にぞわっと鋭い寒気が駆け抜けた。
なぜ今その話をされたか脳が一気に理解して、同時に凄惨な光景を勝手に想像してしまう。それに耐えられず、神依は自分を抱きしめるように右肩をぎゅ、とつかんだ。
(だから――だからわたしも、酷いこと……言われてたんだ……)
……人の姿でないものに蹂躙される恐怖や気味悪さ、羞恥心……そしてあえなく壊されていく理性のもろさは、実際に禍津霊に襲われた神依だからこそ正しく、生々しく理解できる、話だった。
幸いにも神依はその前に引き揚げられたが……もしも誰も手を伸ばしてくれなかったら、まさしくあの悪意ある噂のようになっていたかもしれない。
「……」
寒いわけでもないのに肌が粟立ち、今更に猿彦が言ったことの真実の重みがのしかかってきた。
「洞主様……」
「……うむ。言葉にするのも恐ろしきことじゃが……しかし、これもまた契りじゃ。贄として差し出された巫女は帰らず、もはや神とも言えぬ化け物のものとなる。その化け物とても、巫女を求むるは食らう以上に自らの魂を慰める神婚の意味合いの方が強かったであろう。そしてこの大蛇は年ごとに娘を求めたと言うから、……可哀想じゃが、その間の巫女はいっそ食われた方が楽ほどの仕打ちを受けておったやもしれぬ。……たとえ、巫女にそれを拒む自我がなくともな」
「……」
巫女は神に酔い、神は巫女によって興され、慰められる。だとしたら……自らの意思に関係なく、異種の暴神に堕ちていく巫女は、ただ哀れでしかない。
「淡島にいれば、そうなるかもしれないってことですか……?」
「必ずしも可能性は零ではない。そしてそういうとき、一番定められる可能性があるのは処女じゃ」
「それを――それを他のみんなは知っているんですか?」
「知っておる。しかし、今はもうないとも皆思っておる。そなたにこの話をするのも、そういうこともあり得るという私の杞憂からじゃ。御令孫のそれも、そういう事態を避けるための慈悲であったかもしれぬしな」
「……」
「……いいかえ、神依。そなたはやはり異質ではあるが――今や神々の中では日輪の如く咲き誇った大輪の花。今日明日とは申さぬが、鉄は熱いうちに、ともいうでな。色が褪せぬうちに、一度は縁を結んだ方がよかろうと私は思うておる。……さ、この話は終わりじゃ。代わりにそなたの好くような男の話でもいたそうか。そしてやはり好きなだけ、菓子をおあがり」
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