聖夜の追憶

杜鵑花

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聖夜の追憶

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 サンタクロースなんて、人間の歴史が作り出した、ただの幻想に過ぎない。
それを知ったのはもう二十年も前のことか。
はぁと、時の早さを憂い、慨嘆のため息を吐くと目の前の窓が白く曇った。

 チラチラと降り積もる雪は短周期の移ろいを感じさせ、諸行無常を実感させる。
しかし、それとは裏腹に、そこかしこにLEDが付けられ、夜の街はさも幻想的に彩られている。
僕は、そんな侘び寂びと華美が混じり合ったようなクリスマスに独り、窓の外を眺めていた。
 
 社会人になってからは生活に余裕がなくなり、常に仕事のことが脳の片隅にある状態が続いた。
当然、そんな状態で行事のことなど気にかけることなど不可能で、今日、クリスマスを体感しているのは奇跡のようなものだ。

 どうしてこうなってしまったのだろうか。

 思い返すと、子供の頃は無邪気で、サンタクロースの存在を信じて疑わなかったか。
そして『大人になりたい』だなんて馬鹿な願い事をしたもんだ。
あの頃は大人を羨ましがる無知で正直な時期だったのだろう。
サンタは時を操れるでもないし、当時のサンタがさぞ困惑したであろうことは想像に容易い。
結局、朝起きてみたら枕元にあったのはサンタの謝罪文と人生ゲームだったな。
頼んでいたものと乖離したものが届いても、僕は喜んだ気がする。
そして、家族みんなでそれで遊んだのだろう。
なんとなく、楽しかったという記憶だけがのこっている。

 ふと窓を見ると、口元を綻ばせている男が見えた。
幻想のサンタクロースは幻想なりに存在しているのだろう。
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