Day and KNight

星楽

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マグノリア編

森の国マグノリア

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「うええ~関所からがこんなに大変とは思わなかったよ…」
「ほら、もうちょっとで街がある…はず…だから!」
げっそりしたネルをルーシーが押して進む。
なんだね…」
リルが苦笑いしながら言う。
「次の街に宿があるとも限らないしな…」
 皆少なからず疲労が溜まっていた。
地続きの隣国とは言え、アザレアの中心部からマグノリアとの国境まではかなり時間がかかった。そして関所から一番近い街の間にも森。
広大な森の国だと聞いてはいたが予想以上だった。
朝に出発したにもかかわらず、既に森はかなり暗くなっていた。
「この調子で六つも神殿を回れるのかな…」
リルの不安も当然の事だった。
なんといっても今回の長旅には重大(らしい)な使命のおまけ付きだ。
──荷が重いなあ…
リヒトも思わず溜め息をつく。

「おおー!着いたよ!」
ルーシーの大声に驚いて顔を上げると、
森の木々の隙間に建物が見える。アザレア人にとってこの光景は森である事に変わりはない程度のものだが、一応ここが街らしい。
いつのまにか道沿いの樹上に、明かりがぽつぽつと現れ始めていた。
「やーっと休めるよお~」
「もう日が暮れそうだし…ここで泊まれるか誰かに訊いてみようかな…?」
リルが辺りを見回す…間もなく。
「あのー!この街に宿屋ってありますか⁉︎」
既にルーシーがエルフらしき青年を捕まえていた。
「えっ、あ、あり…ますけど…」
「おいっルーシー!引かれてる引かれてる…」
慌ててリヒトが止めに入る。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「こういうのは勢いが大事ってなんかで読んだの!」
荒ぶるルーシーをリヒトが止めている間に、
「その宿屋の場所を教えて頂けませんか?」
「僕たち歩き通しでくたくたなんです~…」
リルとネルが話を進めてくれた。
「分かりました、着いてきてください」
 エルフの青年はアディオールと名乗った。
「僕のことは気軽にアールって呼んでください。ところで、あなた達はどうしてマグノリアに?観光にしてはいささか…重装備のようだし」
「えっと、それは俺たちが──」
リヒトは自分たちが使命の騎士であること、隣国アザレアから樹の神殿へ宝玉を預かりにきた事を話した。
「ああ、そのことなら」
「知ってるって事は、アールさんは魔導師なんですか~?」
「いや、僕の母が魔導師でね。なんなら神殿までへの案内もしますよ」
「ぜ、是非お願いします!」

案内された宿は巨木をくり抜いて作られており、街の中心部にある。王女が地図に記したこの街は、どうやら宿場街のようだ。
「助かりました…本当にありがとうございます」
「また明日の昼、ここに来ますね」
アールと別れて、一行は宿屋に入った。

「ふあ~、僕たち出会ってまだ一週間も経ってないのに、前から友達だった気がする~」
部屋に入って早々、ベッドにダイブしたネルが言う。
「なんか分かる気がする。変な言い方だけど、騎士の運命…って事なのかな…?」
「何それかっこいい…!」
リヒトは内心、ルーシーの暴走を止める人が増えて何よりだと思っていた。
「まあとにかく…改めてよろしく、だな」
「あっ…明日アールさんに道案内してもらうし、早く寝ないとね…」
リルがいそいそと寝る準備を始める。
「えーっと、えーと…わ、私達…」
「ちょっと!あたしたち着替えるからどっか行っててよね!」
少し恥ずかしそうなリルを庇うようにルーシーが言った。
「分かってるって、見たりしないよ」
いくら友達と言っても、年頃の少年が少女の着替えを見てしまうのはいただけない。
リヒトとネルは外に出た。

「ねえねえ、リヒトは何か好きな物とかある~?」
友達というのは取り止めのない話で盛り上がるものだ。
「うーん、趣味なら…みんなでスポーツするのとか好きだな」
「そっかあ、僕は運動は得意じゃないけど~…音楽が好きだなあ」
「音楽か…良いよな!おすすめの曲とか教えてくれよ!」
「勿論だよ~!最近のお気に入りは…」
不意に扉が開いて、リルとルーシーが顔を出した。
「お待たせ、私達外に居るから二人も着替えてきて」
「りょうか~い」

「そういえばさ、リルと始めて会った時何か魔法使ってたよね?
他にも出来るの?」
ルーシーが目をキラキラさせて訊いた。
「いや…お母さんから護身用にって…あれくらいしか教わってないの」
リルは少しすまなそうに下を向く。
「すごいじゃん!あたしなんて学校で魔法学取らなかったから何にも分かんないし!」
ルーシーは向日葵が咲くように笑った。
「リヒトも魔法取ってないから分かんなそうだし、また教えてよ!」
「私が知ってるのだけでよければ…ルーシーも銃持ってるけど、家族が教えてくれたの?」
「そうよ!でもお父さんもあたしも、動かない的しか撃った事ないからなあ…」
「私も剣なんて持った事もないし…」
「リヒトも実戦経験はなさそうだし…」
「ネルも杖を借りてきたとはいえ…」
二人は途端に心配になってきてしまった。

「おーい、着替え終わったぞ」
リヒトが部屋から出てきた。
「あれ、ネルは?」
「疲れてたんだろうな、もう寝てる」
「早っ⁉︎」

──誰も触れていないが、学校は王女が直々に事情を説明した事により休んだ分の学業は「旅先で学べ」という事になったそうだ。

 そしてアールと約束した次の日の昼。
「よろしくお願いします!」
「では、行きましょうか…」
神殿に向かって歩き始めたその時、
「お兄ーちゃーん!大変だよー‼︎」
誰かが叫びながら走ってきた。
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