前世では番だったかもしれないけど…

吉野 那生

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現世〜3年後〜

親愛〜ルドガー〜

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初めてあの子に会ったのは、学院で出会い親しくなったジルベールの家へ招かれた時だった。


「妹のクリスティナです。
兄がいつもお世話になっております」

こちらの目を見て丁寧に頭を下げる姿はとても礼儀正しく、好感が持てた。
我が家は男ばかりの兄弟で妹には縁がなかった為、このような可愛らしさはとても新鮮に感じられた。


親しく言葉を交わすようになると「兄思いの優しい妹」以外の顔も見せてくれるようになった。

いつも控えめに微笑んでいて、大人しいけれど芯は強い所。
優しげに見えて、意外とはっきり自分の意見を述べる所。
動物に好かれやすく、いつも彼女の周りには小動物や小鳥などがいる事。
甘いものに目がない所。
努力家な所。
そして、はにかんだような笑顔が可愛い所。


そんな彼女が、ふとした拍子に遠くを見つめ切なげに目を伏せる。
その仕草が、眼差しが、とても寂しそうで印象的だった。

彼女が何故そんな目をするのか…ずっと気になっていたのだ。


その頃には「数いる友人の妹」ではなく、「親友の可愛い妹」という認識であったし、彼女もまた実の兄のように懐き「ルドガー兄様」と慕ってくれていた。



そんな妹のような存在であるクリスティナとの縁談が舞い込んだのは、彼女が5年生の夏…あと1年半で卒業する年の事。

来年には20歳となる私との年の差、家柄共に、確かに釣り合いは取れている。
その上クリスティナは王太子妃となられるセラフィーヌ様と極めて仲が良いという。

こちらのその辺の思惑と、あちらのまだ婚約者も決まっていなければ、特に親しく付き合っている異性のいない娘を案ずる親心が結びついたらしい。


「とはいえ、ティナの意思が最重要だ。
万が一心に秘めた奴がいるのなら、申し訳ないが妹の気持ちを尊重してやりたい」

戸惑う当人達をよそに、勝手に盛り上がる親達に釘を刺しつつ、私にもそう告げるジルベール。


——それは…何か?
クリスティナはこの婚約に乗り気ではないという事なのか?


子供の頃から知っているクリスティナ。
最後に会ったのは学院を卒業する時だから、1年と少し前。
少女から大人の女性へと成長しつつある、今が過渡期だ。

今はまだ固い蕾が少しずつ綻び、やがて花開く様を誰よりも近くで見られるのなら、それはそれで悪くない。

恋愛感情は確かにないが、親愛の情ならある。
燃え上がる焔のような恋じゃなくても、熾火のように静かに育んでいく愛でもいいのではないか。


そう思いこの話を承諾したのだが…彼女の胸の内に他の誰かがいるのだとしたら。



——沸き起こったのは“面白くない”という感情。
そんな自分に、少し戸惑う。

予想以上に、クリスティナは自分の中で大きな存在となっていた、という事か。

それが、妹としてなのか…それともそれ以上の存在として、なのか。
それはまだ、よくわからないけれども。


とりあえず次に会う時は、花でも送ってみよう。
クリスティナの好きな栗のケーキも忘れずに用意して。


「クリスティナはいつ戻って来るのだ?」

「そうだな、そろそろ夏休みだから20日後くらいだろうか」


そうか…。

「では、クリスティナが戻ったら一度きちんと話をする場を設けてほしい」

「わかった、また連絡する」


まぁ、頑張れよと笑うジルベールの肩を叩きながらも、クリスティナにどのような花が似合うか、どんな花を贈ったら喜ばれるか、早くもそんな事が頭を占めていた。
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