月の都の花嫁

城咲美月

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アルベルト団長が何を思い、そんな事をしたのか分からないけど

私は、アルベルト団長からぐいっと腕を引っ張られ
お姫様抱っこをされ竜の背中にソッと降されたかと思った瞬間、アルベルト団長は、颯爽と手綱を引き竜を飛び出させる。

竜を扱う手捌きに淀みがない。
私は、あれよあれよと言う間にアルベルト団長と一緒に乗っていた。

アレックスはと言うと、ハッと意識を取り戻し奇獣に乗って追いかけてくる。

あの時、アレックスの姿を見ても私の前に立って護る姿勢のアレックスを片手の剣で抑えつけながら、である

「君達に危害は加えるつもりはないんだから、そこで大人しくしていてくれると助かる」

とんだ荒技。

ツルツルとした皮膚のドラゴンを、いや、竜の背中を撫でている。
後ろから「いやぁ~強引な事をしてすまないな」と、
全く説得力のかけらもない声色で言っている。

「そう言うのなら降ろしてください」
「今、か?降ろしてやっても良いが今だと地面に向かって真っ逆さまだな
君のようなお嬢さんにそれは出来ないが」とクックックと笑っている。

「奏様!」
「おっと、もう追いついてきたか」

それでも追いつくのにアルベルト団長とアレックスとは間がある。
竜と奇獣の体格の差を見せつけられた気分だった。

段々と私は、眠いのに加えて自分でもイライラが募ってきているのが分かる。

アルベルト団長に伝わったのか
「まぁ、そう怒るなこの景色を見せてみたかったんだ」と言うアルベルト団長の声に
私の眼下に広がる景色は、確かにとても綺麗だった。

夜空に広がる景色は、星々がよく映えていて
ガスランプの街灯がそこまで多くないから暗いと言うよりは、一定間隔のガスランプがまるで道標のようだった。

そこで「奏様!」と焦った声のアレックスを見た時、私は竜の背中を少しだけ撫でて決心する。

その気持ちが伝わったのか竜は高度を下げ

アルベルト団長の竜とアレックスの奇獣の距離の差は、縮まっていた

「アレックス、私を受け止めなさい」
私の声が届いたのかどうか分からない。
けれども、私はそれでも良かった。
アレックスの奇獣がヒンッと小さく鳴いたのをきっかけに

ふわっと風の抵抗も受け付けず、それでいて飛び移った後の体重も奇獣に負担をかける事の量を少なくしてくれていたのは
アレックスもだが
アルベルト団長の竜とアレックスの奇獣が
なるべく接近していたからだった。
上手く飛び乗れたアレックスの奇獣の背中を撫でる

「ありがとうアレックス、それからあなたも」にっこりと微笑みながら撫でているとヒンッとアレックスの奇獣が鳴いて応えてくれた。

「俺…いや…自分の心臓が止まる思いでした」とアレックスは
ため息をつく。

アルベルト団長は、竜の動きを止めてヒューと口笛を鳴らして
「やれやれとんだ花嫁候補のお嬢様だぁね」とひとりポツリ呟いた。
全く懲りずに全く反省もせずにいるアルベルト団長。

アルベルト団長の下にいる竜は「キュウゥゥゥゥ~」と切なく鳴いた。


思いがけずの空の旅、いや拉致られた私は、やっと地面に降りた。
アレックスも奇獣から降りていた。

「奏様!無事で良かったです!」と泣きながら駆け寄ってきたアネッタが私にそっと抱きつく。

「ごめんなさい、私も何か突然で……」
「いいえ!いいえ!奏様が謝ることはありません!ご無事で良かったです」
私はアネッタの瞳から溢れそうになる涙を拭う。
それから優しく背中を撫でて幼子をあやすようにポンポンっと優しく叩く。

「まだこの事は誰にも気付かれていません」
「そう、分かったわ」
都合の良いゲームの補正なのか、アルベルト団長の竜のおかげなのか
はたまた建物が離れていたからか、竜が飛び立つ風と音が聞こえるはずなのに、
と疑問は残るけれども、もう身体が睡魔に勝てなさそうで限界だった。

アネッタは安心したのか照れながら「私ったら」と私からそっと離れた。

「アレックスももう戻ってちょうだい
この事は誰にも気付かれてないみたいだから、誰にも喋らずなかった事に出来るわね?」と私が言えば
2人ともこくりと頷いた。

「はい、了承しました」

「もう私も眠るわ」
2人にそう微笑むと、2人は何か言いたそうにけれど
「おやすみなさいませ」と2人は頭を下げた。

アネッタが窓をきちんと閉めて、アレックスがその確認をすると2人は退室をする。

私はもう本当に睡魔で限界だった。
ベッドに倒れ込むように眠ったのだった。

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