生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第2章 再会、集結

第17話 挑戦と失敗と責任と

高温で盛る炉。充分な温度。
久々に前に立つと、この熱さが目と身に染みる。

女性が敬遠されるのは、単に衣服の問題が大きい。
上半身裸に成れない、成りたがる人が圧倒的に少ない。

石炭をメインにしても、少なからず火の粉は飛ぶ。
目にはゴーグル。手首までは火蜥蜴の皮グローブで保護をするが、そこ以外は裸同然で多少の火傷は覚悟の上。


鋳造なら出来は兎も角、簡易的に製は造出来る。

溶かした鉄を土台の型に流し入れるだけ。

質を上げるなら、形にした鉄板を焼き増ししてハンマーで叩き、入り混じった空気や不純物を排出させる。

一般的な鉄の剣なら、刃の部分を伸ばして削り込むだけで終わり。

時間も無い中、打てる数は2本まで。打ち込みで精度を上げるなら、1本が限界。

目指すのは魔導剣の更に上。全体に魔力を流せる回路を構築したい。

不純物の無い鉄塊。現段階で材料はこの上は望めない。

銀鉄鋼の短剣と魔導剣を並べて眺める。

僕が策を練っている間に、ヒオシには自分用の銀鉄鋼を補修して貰っている。上質な精度を劣化させない為に、真剣そのもの。悠長に喋っている暇は無し。

魔導剣の構造は至って単純。
後端の継ぎ目から刃面、先端部までを魔石のコーティングが何重にも施されていた。

何かの魔石を砕き、溶かし、溶液として塗っては、叩き削る。刃毀れを防止する意図でのこと。作者が魔導剣としての機能までを想定していたかは解らない。

又は実験段階の賜かも知れない。


銀鉄鋼はその名の通り、鋳造段階から銀を混ぜ、軽さ、強度、柔軟性の3者取りを狙った物。

配分量が不明。名工と呼ばれる人たちはこれを長年培った勘でやって退けてしまう。

1gでも間違えれば、ただの柔らかい鈍器の出来上がり。

鋳鉄に魔石の粉を混ぜる。狙いは簡単。
そんな簡単な技法は、これまでも先人たちがやって来た。
その一次完成品が魔力を流せる武装。

一般市場で目にしないのは、製造可能な人が極端に少ないか、材料的な問題があるのか、一品仕上げるのに労力と時間が掛かるのかの何れか。又は全て。


【鍛冶師】【創造者】などのクリエイタースキルには頼らない。今日の天使様から貰った【白倖】で上がってそうな運気にも頼らない。

これは一つの挑戦であり、スキル無しで技術を磨き上げた先人たちへの証明の手段。

その証明を果たさなければ、僕らは本当の意味で帰れない。人は楽な方向に頼ろうとする。また誰か、何処かの世界の人たちを召喚してしまう。技術の急速な発展を見込んで。僕らのように、それを望まぬ人が。


この世界にもスキル無しで、普通に暮らし、それぞれの戦いを生き抜いている人が大勢居る。その大多数の人の為でもある。


ヒオシがそろそろ補修を終わる頃。


だから。今日造る作品は、失敗作とする。喜びも落胆もしない。たかが一日で満足してしまったら、僕は技術屋としての才能が無いと、身を退く覚悟で挑む。


一つ、魔石の選定。サンドの石は現魔導剣用に温存。その他で質と量を両立出来るのは、レイス系の石となる。

一つ、材料。アイアンから剥ぎ取った鉄塊で一択。軽量強度に優れるチタニウムは、多分あいつが持ってる。

一つ、配分。比重で割りたいけど、比重計が無いので溶液割合で先ず5割から。


「どう?何か浮かんだ?」
「やってみる」


ヒオシと交代。

初手は魔石の溶解温度を探る。鉄材との解離が有りすぎると、鉄に負けて蒸発で煤に化けてしまう。

良かった。ほぼ同一温度。
2つの釜でそれぞれ溶かし、同量を剥くって砂型に流し入れた。

型は中型両刃を選定。扱い易さと打ち込み時間を均一化したい。長剣や大剣レベルは僕らではまだ無理。


サンドゴーレムの砂を塗して熱を奪い取る。

金鋲で吊し上げ、打ち込み台に乗せる。

延べ棒の中間辺りをハンマーで軽く叩く。ボキリと2つに棒が割れた。軟性が高い。魔石の配分が多いと解る。

一本に付き、杯で8杯。さっきが魔石4、鉄4。
次は魔石2、鉄6。

同じ作業を繰り返し、叩く。今度は折れないまでも亀裂が入った。

次は魔石1、鉄7。サンド砂で時短出来ていても、これが今日のラストになる。体力的に。

ヒオシも離れて休めばいいのに、興味津々で後ろから眺めていた。

延べ棒が出来上がった。叩く。

キーンとした反発音。亀裂も皹も無し。上々の手応え。

「やっちゃう?」
「やりますかー」既に長柄の鎚を持って待っていた。準備が早いねぇ。

ここからは火花が散る作業。僕が返しと焼き増し。ヒオシが打ち込み。

汗が噴き出る額と目元を拭い、ゴーグルを掛け直す。

サイカル村でやらせて貰えなかったのは、ここからが大変危険な作業となるから。

腹を決めて、いざ。ヒオシと呼吸を合わせ。



彼らが居る鍛冶場から漏れ聞こえる音は、他の場から聞こえる音とは違う音色。

小窓から中を覗くと、2人で一本の延べ棒を繰り返し打つ姿が見える。

打つ度に、盛大に火花を散らせて。

「女人禁制の意味が、やっと解った気がします」

「これは、確かに男の仕事のようだ。ここには初めて来たが、大変勉強になった。もっと早く来れば良かったと思う」

2人の男の懸命に鉄を打ち抜く姿が見える。
彼らのお守り、案内を仰せつかった身としては疑問が浮かぶ。私たちが、彼らに対して出来る事が余りにも少ない。本当に自分たちは必要だったのかと。


「もっと早く、ですか?」

「時として人の命も軽く奪える武器。その武器を造る職人もまた、命を削り魂を込めている。そんな当たり前の事も知らず。私は剣士や騎士を名乗っていたのだ。恥じる想いで震えてしまう」

「私も同じです。無知は、罪ですね」

「本当に。ジェシカの言う通り。では、これは」
手に持っていた小瓶をBOXに戻した。

「今必要なのは。火傷の塗り薬と回復薬です」
ジェシカも同じ様にBOXに瓶を仕舞う。

「急ぎ、買いに行こう」
「はい、リンジー」



幾重にも重ねる焼き増し作業。

「一応、形にはなったかな」
「傑作じゃない、力作だ。今の技術レベルではこれが限界だと思うよ」
善い事言うねぇ。力作かぁ。

削り出しの時間は無い。
代わりに柄に収まる側に溝を抉り、後端部に切り欠きを設けた。どの魔石を流し込み、どれをセットするのか。

スケルトニアの魔石。これは僕らに足りない剣術を補正してくれると思う。流すのはトニアの魔石。

アイアンゴーレムの魔石。これは剣自体の大幅な強度アップが見込まれる。


即決で決めた通りに、溶液を流し、手頃なサイズの魔石をセット。持ち手の柄カバーは相締めの樫の木を加工。
グリップは耐熱性重視で、火蜥蜴の皮を巻き付けた。

素人感丸出しの不格好。未熟な粗さが丸見え。
紛うこと無き、力作だった。


炉の火を落とし、それぞれの釜が冷めるのを待つ間。

「2人まだかなぁ」
「リンジーの反応が早く見たい」


「遅くなりました。挿し入れの水です。回復薬と少量の食塩を混ぜております。美味しくはないですが、お二人には必要だと判断しました」
「一度は来たのだが、火花を浴びているのを見てな。火傷用の薬を買い直していたのだ」
気が利くー。優しいお姉さんたちに、マネージャーに就いて貰って正解です!

頂いた苦水をゴクゴク飲んで一服。妙薬口に何とやら。

「来て見て触って、感想どうぞー」
机の上の僕らの力作を。先行でリンジーさんから。

「では遠慮無く。拝借する」
剣の柄を片手で握り、一振り二振り。ウンウンと唸ってる。
「鉄材を使用しているとは思えぬ軽さ。曲りや撓り。これなら華奢な女性でも充分に扱えるな。刃が無いのは?」

「今日は時間が無くて。刃先の加工は次のお楽しみ」

「私も拝借します。長物は余り得意ではないですが…」
メイン武器は刀身の短い双剣だからね。
ジェシカさんもリンジーさんと同じように。振ったりして構えを示した。
「確かに。これなら不得手な私でも、問題無い様に思います。捌く時の違和感を殆ど感じません。素晴らしいです」
最後に褒められた。素直に嬉しい。


「名前はソードブレイカー。人間の武装は勿論。本当の狙いは魔獣の硬い爪や牙、鱗とかを粉砕出来る物を。って考えて」

「ブレイカーか。これも報告書には書けないな。元々2人に関しては秘匿が多い。今更幾つ増えても構わないわ。何を聞かれても、普通の一般男性でしたと答えてやろう。信じて貰えるかしら?」
信じてますとも。

「お昼にも言ったけど。2人を信じ切ってるから、こうやって何もかも話してるんだってば」

「その上でどうなっても構わない。万が一の時が来たら、2人で誠意の伝え方が悪かったのかなぁとか、愚痴りながら、全力全開で逃げるから。安心してよ」

「あ、安心か、それは。隠蔽持ちの人間に本気で逃げられたら。最早誰にも捕まえられないな。…もし裏切れば、私が母さんに八つ裂きにされるだけ。知っているだろ?」
ええ。深く存じております。


「それで。お話しされていた魔力回路のほうは、成功したのですか?」
さっきからジェシカさんが剣を持ったまま離さない。相当気に入った模様。そんな試作品でいいなら、プレゼントにでもしようかなぁ。

女性の誕生日に剣を贈る男。シュール極みだ。
誕生日は今度聞いてみよう。回り諄いのは嫌いみたいだしストレートに。

「一応理論上は流せる構造だと思ってる。でも流し方とかを知らないから、そこはリンジーに聞こうと思ってた」

「勿論教えるのは構わない。だが屋内はお勧め出来ない。特にここは強力な火種も多い。本格的に試すなら、何も無い広い岩場が望ましい」

そうでしたそうでした。うっかり誤爆。ここを起点に連鎖。城下街の一角を吹き飛ばして心中する所でしたわ。
危ねぇー。


実験は明日。ウサちゃん捕獲作戦の合間にでも。

工房内の持ち込み品を片付け&撤収作業。換気窓を開けてから退出。

数日間この場を借りる手続きに結構な金額を取られた。
完成品を降ろせばまけて遣るぞと言われてもねぇ。
造ろうとしてる物は外には出せない物ばかりなので無理。

本日の精算結果が楽しみぃ。



本日もコルケットへ入店。

ジェシカさんが特別発注していた火傷にも効くコラーゲンたっぷりメニューで、ガッツリ夕食に舌鼓。

宿のお風呂でしっかり汗を流した後で、ヒオシと向き合い火傷のお薬を塗り合うかで軽く押し問答。

薬草を擦り合った、あの森でも記憶を呼び起こしながら落胆していると。

トントンノックで、ジェシカさんとリンジーさんが部屋へ訪ねて来た。

「タッチー様の分は私がお塗りしますね」
様に戻ってる?

「私はヒオシのを塗ってやろう。来い」
え?え?戸惑っている間に、腕を引かれて向い部屋へと連れて行かれた。

残される上半身裸の男と、元メイドさん。
ここは素直に甘えるべきかを考えてたら、ジェシカさんが服袖を巻き上げながら隣に座り、薬を取り上げられた。
「お任せ下さい」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
嫌ですとは言えない男の性。全然嫌じゃないもん。

瓶詰めの軟膏を多目に掌に掬い取り、反対の手指の腹で練り上げる。一旦人肌まで練るとより効果が増すらしい。

手際がいい。メイドさんって怪我の手当とかもするのかな。
冒険者時代の経験?

綺麗な女性に塗って貰うのって気持ちいい。
かなりの優越感。
ジェシカさんの手が温かくて柔らかくて、益々ハッピー。

左腕から始まり、二の腕、肩口、首筋は擽ったかった。
胸やお腹周り、反対の腕。最後に顔全般。

ランプの明かりを頼りに、ジェシカさんの顔が急接近。
小さな斑点まで見逃すまいと必死な様子。

彼女は真面目に処置しているって言うのに。
僕は在らぬ期待で胸躍る。野蛮だなぁ、男って。

「こ、今度何かお礼しないと。そうだ。あの剣磨き終わったらジェシカさんにプレゼントするよ」
何気ない、その一言に。
「ハァ…」

「え?ダメだった?なら他に」
「やはり、何もご存じないのですね…。お話は処置を全て終えてから。いいですね?」
甚くご立腹のご様子。いったい何が?

僕は、いったいどの地雷を踏み抜いたんだ…。

一人で困惑する中、黙って淡々と重傷箇所から包帯を巻いて行くジェシカさん。

黙って観察していると、どうやら怒っている訳ではなさそうな雰囲気。希望観測的に。


処置が終わり。包帯グルグル巻き状態で、ベッドの端に座り、ジェシカさんと向い合う。

「これからお話する事をよーく聞いた上で、最後に返答をお聞かせ下さい。宜しいですね」
「は、はい」
突然降って来た抜き打ちテスト。
このヒリヒリ感は何だ?そうか火傷かぁ。違うね。

「前提条件として、王族や貴族の上流階級の方々は考えから外して下さい。あちらは住む世界が違います」
OK。何のお話?

「一般人民として。金貨一枚以上の価値を持つ物。又は現金。又は値が付けられない様な物品。それらを異性に渡す行為」
何だ、プレゼントの話か。

「同じ任務。同じ依頼業務内での成功報酬分配は、正統な行為です。そこには男女の差別は有り得ません。問題はそれ以外。関係の無い所からの金品の贈与。それは…」
「それは?」

「血縁関係の無い、異性である場合。それは、交際の申し込みと同義です」
why?ホワ…、いや待てよ…。待って…。

「そして、それを受け取る行為は。承諾と同義です。お解りですか?私とリンジー様は、既に受け取ってしまっているのですよ…」
「…」

「金銭だけであったなら、全額返金した上で和解破棄も可能でした。即断即決が迫られるこの世界において、物の授受は契約。それよりも上の誓約と同じなのです」

僕が最初にジェシカさんに贈った「物」は、イヤリング。
金貨2枚の価値の在る。
だから、あの拒絶反応だったんだ。

「タッチー様。ヒオシ様も。ツーザサに既に決まった方がいらっしゃるとお聞きした後で。無理矢理に受け取らされた私の気持ち。考えては居なかったのでしょう。だってお二人は何も知らない、異世界の方だったのですから…」

公衆の面前で安易に土下座してまで。
ジェシカさんの気持ちを考慮せず、恥を掻かせて。
僕は些細な贈り物を、彼女に受け取らせた。


冷静に、自分たちの、これまでの行動振り返る。

サイカル村でのヒオシの玉砕。あれはターニャちゃんに言葉だけの、上辺だけだと取られた可能性が大きい。

ツーザサの町。ヒオシの告白に対する、メイリダさんからの逆アプローチ。高価な魔道具を渡し、それをヒオシは受け取った。お返しも用意済。

キュリオさんへのノートとボールペン。お返しの道具袋。

成立している。既に答えは、あの授受の時に出ていた。
それなのに、僕って奴は。


「イヤリング。金貨。魔導剣。その上更に、ブレイカーまで与えられて。私はどうすれば良いのですか?貴方は私をどうしたいのですか?只の性処理の道具にでもしますか?子を産むだけの腹袋にでもする気ですか?」

彼女は怒りもせず、泣きもせず、唯々淡々と言葉を並べ、僕の口から出る。無責任で絶望的な答えを待っている。

無知は罪。成程罪だ。知らなかったじゃ済まされない。
無かった事には出来ない。

好きじゃない。そんな気は無かった。
男として最凶最悪な答え。
誓約と言うからには、何方かの死別が妥当な線。
無碍に扱えば、僕はジェシカさんに刺し殺されるのか。
それで彼女の自由が取り戻せるなら、寧ろ安い。

いやいや、待て待て。
これはそこまで凶悪な話じゃない。
だってジェシカさんの事、普通に好きだもん。

違う!僕はいつから王様貴族のお仲間になったんだ。

「一応。念の為に。参考までに聞くけど」
「何ですか?」

「この世界の一夫多妻制と言うのは一般的に…」
「…潜在的な資金。詰り財産が国の水準を満たせば、認められます」

よーし、首の皮一枚繋がりました!

「因みに。お幾ら程かはご存じで?」
「王国金貨にして、100枚程と聞いております」

王国金貨で100!?
1枚が最大レートで共通金貨約50枚だったはず。

通金で5千枚だと…。面白いじゃないか。
早速明日から商人ルートに路線変更しよう。

「2人共、同じ位幸せにしてみせます。愛が偏らない様努力します。明日からお金貯めます。貯まるまで待ってて下さい」

彼女の前で、2度目の土下座。ベッドを離れ、床に平伏を敢行。

「つ、詰り。それまでは内縁の妻。と言う事ですね?」

「是非とも!時間的猶予をお与え下さい!既に目星は付けております。それ程お待たせはさせない所存です」

「わ、解りました。期待しないでお待ちしております。ツーザサに行っても、どうか逃げないで下さいましね」

「ハハァ!」
ハードな修羅場を予想する。
キュリオさん、怒るだろうなぁ…。


ジェシカさんが狼印のイヤリングを着けて耳を澄ます。
「あちらも、概ね上手く纏まった様です」
あちらも?ヒオシも僕と似た感じの状況か。

ジェシカさんが顔を真っ赤にしている。そっとイヤリングを外す姿が妙にセクシーです!

2人合わせて通金1億。しっかりと話し合わねば。


「それでですね。今夜はお願いと言いますか、もし良かったら添い寝…、ご一緒に寝て貰えると助かると…」
何て最悪なタイミングなんだ!
添い寝。添い寝だけならいいでしょ。やっぱダメかなぁ。

ジェシカさんがポカンとしている。

「今日のダンジョンの、あの光景が頭から離れなくて。一人で寝るのが怖いなぁって」

「あぁ!アレですか。…ですね。私も、アレは怖かった。はい。私からもお願いします。ご一緒に…、添い寝だけ、ですよね?」
これ以上何が出来ると仰いますか!ここで襲い掛かってしまったら、僕は最低の底辺クソ野郎に成り下がる。

「も、勿論です!」
出来る出来ないじゃない。これは、男としての器が試されていると思うんだ。

ジェシカさんが背中をこちらに向けて上着を脱ぎ、下着姿に…、ゴクリッ。思い切り生唾飲み込んだ。

何なんですか!この試練は。苦行ですか。いっそ僕を殺して下さい。

先にベッドインしたジェシカさんの後を追い、僕もイン。


当然の結果。眠れない。寝られるワケありません。
いつもは直ぐにやって来てくれる睡魔さんが、今日に限って遠くにお出掛け中です。

「コレ。気分を鎮めるお薬だそうです。良ければ」

それは有り難いです。非常に助かります!
馴染みのある緑色じゃない、真っ赤な液体瓶。

至近距離で受け取り、勢いで飲み干した。

仄かに甘く、香ばしさを感じる。後味スッキリ…。


僕が正常な意識と理性を保てていたのは、どうやらそこまで。遂に我が家の賢者さんまで、お出掛けしました。


-----

翌朝。黄色く見える、窓からの朝日の斜光を。
ベッドの上で肩を並べ、眩しく眺めています。

どうして、こうなった…。

今回は全部覚えてます。一滴も飲んでないお酒の所為にも出来ません。全て自分の意志でやりました。


我慢するのが、こんなにも難しいだ何て。知らなかった…。


完全アウト。一発レッド。

諦めます。もうどちらに刺し殺されても、文句無く受け入れる所存です。

短い人生でした。有り難う御座いました。


「もう。その様な情けないお顔をしないで。まるで悪い事でもしたみたいじゃないですか」

「…弁解の余地がありません…」

「2人共に、幸せにして下さるのでは?」

「はい!頑張ります!」
燃えて来た。
我が人生史上最大級の、やる気スイッチ入りました!!

「うん。頑張って」


待ってて巨大兎さん。今日中に君を捕まえます。
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