生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第3章 大狼討伐戦

第42話 獣王vs蟲王

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獣王。それが奴のメインスキル。
俺の蟲王とどちらが格上か。この戦いに於いての重要なファクター。

玉塔から無人の北西部の建物は、來須磨とヒュージが吹き飛ばし、更地と化していた。

尚も無傷で生き残ったのは、首領と側近の部隊。
討伐対象の大本命。

頭上から降り注ぐ月光で、奴らの力は最上昇。時も場所も相手が有利。長期戦で月の無い昼間だけ戦うなど、こちらの都合で相手は動いてはくれない。
それはこの廃都市に踏み入った時から解っていた。

だから、奴らの予想を上回り叩き潰す。

俺たちの隊は開けた北西部に拠を構えた。
アピールが実り、敵主力が全てこちらに向いていた。

迫る側近部隊を前衛の俺、來須磨、ジェシカで応戦。
中段にミスト、ユーコ(爆睡中)、キュリオ、メイリダ。
ユーコを叩き起こしたい所だが、全損魔力は自然回復でしか取り戻せない。半端に起こしても直ぐに気絶を繰り返してしまう。
国軍とヒュージ隊で後方を固めた。

当初の約束は破棄。監視役の国軍も、ここまで中に入ってしまっては傍観者のままでは居られない。彼らも本気を出してくれている。これは狙い通りだ。

俺たちは安心して前だけに集中出来る。


各所で本格的な戦闘が始まっていた。

下位種は爪や牙攻撃が主力。上位種の側近は錆びた剣や斧まで振るう。
防具は身に着けていない。適当な刃では入りもしない強固な体毛。

単純な腕力と脚力で劣るのはこちら側。
一般人狼と思われる集団を操っていた術者を倒してきた金ゴキ部隊が戻って来た。

「休むな!散開して目の前の奴らに二の足を踏ませろ」

-ご、ゴキ遣いが荒いですぜ。ちょっとは休み-

「反意か?…殺しょ」

-冗談ですぜ!直ぐに行ってきやす!-

素直な金ゴキたちが、人狼に向かって行った。

何処で習得してきたのか、取り餅のような粘液を吐き出し数匹の動きを封じた後、全身に張り付いて捕食を開始して見せた。

エグい!ナイーブなユーコに見せなくて良かった。
と思えば、中段のキュリオが餌付いていた。

メイリダがキュリオの背中を摩っていた。
「も、もしかして悪阻?」
「…絶対に、違うと思う…」


人狼たちは雷に対して耐性を持っていた。
メイリダとキュリオが何発か打ち込んでも、奴らは体毛を逆立てるだけでダメージは一切入らなかった。

來須磨の火柱は有効だが、密集隊形には不向き。返って戦闘範囲を狭めてしまう。

前方に放った火球が、漸く姿を見せた敵首領に弾かれ瓦礫の中に埋没して消えた。


ウルヴァリン。人狼種の最高峰。
数多の獣を統率する能力を持つ。他のワーウルフよりも一回り大きく、力量も2倍以上と推測。

「薄汚い人間共め。男は肢体バラバラにして我らの餌にして、女は孕み袋にしてくれるわ!」
怒髪天。全身の体毛を逆立てて威嚇後、四足の長い爪を畳んで地を蹴った。

姿を現わしてから、ものの数秒。
考える暇を与えぬ猛攻。

-スキル【獣王】
 並列スキル【秘爪】発動が確認されました。-

瞬間に姿が消えた。目視では捉えられない。
激突音の後、宙を舞ったのは奴の鋭い爪だった。

來須磨が動いた軌跡の後に、床に爪の破片が突き刺さった。尚もヒオシは前方へと走り出す。

姿を再臨させた獣王がその先に立っていた。
狂った獣が踏み込んだ所に、満腹で動きの鈍った金ゴキ。

-踏んだな。腐れ、獣め-

絶命間近に体液と共に粘液が飛び散り、一瞬だけ獣王の足を取った。
ヒオシには充分な時間。

残りの爪がヒオシに襲い掛かるが寸前で躱した。
ゆっくりとしたモーションで懐に入った。

「なんて、動きだ…」
他方で人狼の分隊を突破してきた先頭集団のオートが小さく呟いていた。

本物の戦場で交わす言葉は無い。悠長に敵の話を聞いてやる必要も無い。

俺は來須磨の後方の影に入る。
二対の剣を柄の先で連結。間にセットしたのは赤石。
双極の長剣を後ろ手に構えた。

全ての爪を叩き折ったヒオシが一言。
「据え膳食わぬは?」
「男の恥!」

ヒオシが上方に高く飛び、俺の剣に炎を灯した。

下を抜けた先の、逞しい巨漢の人狼を。股の下から斬り上げた。人型であるなら急所は同じ。

浅く入った傷から、強烈な火が流入。
獣王は悲鳴のような咆哮を上げた。

-スキル【獣王】
 並列スキル【分身】発動が確認されました。-

痛みと熱さに堪え切れず、奴が3体に分裂した。それぞれ違う動き。あれは分裂に近い。痛みを分散したのか。

「面白い技です。私も」

-スキル【陽炎】
 並列スキル【分体】発動が確認されました。-

ジェシカも3人に別れ、一体の獣王の直前で消えた。
内2体が奴の拳に砕かれた。

本体だけが人狼の背後に立つ。
気配も足音も消し去り、風に乗り、太い首筋に刃を宛がった。直後に飛び散った獣王の鮮血。


キュリオが操術で多数の短剣を、誰も居ない場所に飛ばし放つ。上空のマップを見ながら、素早い人狼を捉えた。
「メイちゃん!」
「最大咬ますよ」

雲も無い空から雷撃が轟き落ちた。獣王に突き刺さった短剣の一本へと。


「行け!狙うは残り」
ミストが指差す方向に飛び群がる雄蜂。
足元からは金ゴキが這い上がった。

残りの一体が泣き喚き、群がる虫を払おうと藻掻いた。

こちらも最後の好機。迷わず正面から接近。
「避けろ!」

-んな無茶苦茶な-

最後の一閃が交わる寸前。
獣の王、人狼の王は口角を釣上げ笑っていた様に見えた。そう見たかったのかも知れない。



「生き残りは、ベンジャム軍側に引き渡す。後の処遇には口出ししない。但し、妙な待遇をしてみろ。正義感に駆られた誰かが潰しに行くぞ。と、上に伝えとけ」
「…承知した」
後方で応戦していた軍隊のリーダーが深く頷いた。

「やるじゃんキョーヤ。それでこそ委員長」
ヒオシと強いハイタッチを交わした。
委員長は余計だが。

-へいへい。偵察、行ってきやすよ-
言われる前に、金ゴキは何処かへ消えた。

無数の雄蜂たちも西へと飛び去った。



「早く行こうよ、ジェシカちゃん」
「ええ。私たちはここで離脱します」
南西へと飛んだ旦那を追うのだろう。役目を終え、誰にも引き留める権利は無いので素直に送り出した。


金色の兎を見送りながら、戦いを終えた仲間たちから歓声が上がった。

束の間の勝利の歓喜。
その中で沈んだ顔を浮かべる女が一人。それに歩み寄ったのはヒオシ。
「どこか痛むのか?メイリダ」
「いいえ。少しだけ、キューちゃんが羨ましいなと。何時でもどんな時でも真っ直ぐで。今回の戦いでも、リン姉ならもっと上手くやれたんじゃないかって」

「うーん。上手く言えないけど、大好きってだけじゃダメなの?難しく考え過ぎなんじゃ」

メイリダはクスりと笑った。
「そうね。考え過ぎなのかもね」

単純でお気楽な旦那様。衝突でも許容でも妥協でもない気持ち。この気持ちをマルゼに戻った時、どうやって伝えようか。

喧騒から外れた場所で、2人は頭上の月を仰ぎ見た。
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