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第3章 大狼討伐戦
第62話 地下ルート
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エイラー山脈南上空。
そこには飛空挺部隊の先遣組が到着していた。
「あいやー。まんさか、おいらたちと同じルートを辿るとはなぁ」
後ろに控えるシンシアがアルバに視線を送る。
「無事なのですか?」
「タッチーとルドラちゃんが穴に嵌って落ちたっぽいだべな。無事も無事。山ん中は天然のダンジョンがあるっぺ。前においらたちが通った道だべ。あんの2人なら問題ないはずだべよ」
「アルバ様がそう仰るなら問題ないのでしょう。しかし、これからどうされるお積りで?」
「今更地下に潜っても後手だんべな。入口も塞がったんだら地上の加勢に回った方が早そう」
アルバがシンシアを引き寄せ、耳打ちをした。
仄かに顔を赤らめた彼女に気付かないのはアルバだけ。
「…了解しました。では後ほど」
頷き返すと、アルバはデッキへ出て下へと飛び降りた。
「先遣隊全機降下。地上部隊と合流します。山脈への派兵は後続の皇帝陛下が到着後となります」
各舟から了承の意が伝えられた。
地上の手引きはアルバが引き受けてくれた。
私は与えられた任務を遂行する。
-----
急に繋がらなくなったインカムを、苛立たしさから投げ捨てようとした所で思い留まった。
「起きて直ぐこれかよ!何考えてんだ…」
次に会ったら絶対一発ぶん殴る。
ヒオシは何も出来なかった自分に腹を立てていた。
-我らはどうやらここまで。これより先は平常では居られない-
「有り難う、マイラ。イオラたちも」
原型を留めない山脈の入口。
折り重なった土砂を前に、残された5人は一カ所に集まった。
そう俺たちは未だ、入口にすら踏み入ってない。
突入しようとするキュリオとジェシカを、メイリダとリンジーが羽交い締めに止めていた。
「声が。声が聞こえないの」
「聞こえないのは遠くに居る所為よ。冷静になって」
「繋がりません。行かせて下さい」
「落ち着け。この先は単独では無理だ」
「落着くっぺよ。2人なら大丈夫だべ」
5人の後ろからアルバが声を掛けた。
「アルバさん…、もうちょい早く。いや、何でもない」
「2人は無事なんですか?」
堪らずキュリオがアルバに詰め寄った。
「この下には天然の大空洞、ダンジョンが在るベさ。2人はそこに落ちた。とっくに移動を始めてるから無事だっぺ」
「ダンジョン?」
「入口は見ての通りだべ」
アルバは新たに形成された窪地を指差した。
入口が無いならこじ開けるか。
「リンジー。さっきのは?」
「今日は出来そうにない。先程ので魔力を半分以上消費したわ。無論、命を捨てる覚悟でなら」
「いやいいよ。竜血も使うな。こんな序盤戦で秘薬は勿体ない。一旦下がって作戦練り直そう」
どの道一日置かなきゃ、リンジーの魔力も戻らない。
「辛いだろうけど、ここは堪えて。キュリオ、ジェシカ」
「解りました…」
「でも。離れたくない」
全然納得してないなぁ。
「アルバさん。もう少し時間掛かるっぽいから、後続部隊に到着とゴーレム擬き討伐の報告お願い」
「ほいほーい。気負うな、焦るな若者よ。レバ兄かゴル兄ならそう言うと思うべよ~」
何だろう。とっても有り難い言葉のはずなのに、今は超絶イラ付くな。
爽やかな笑顔を振り撒き、アルバは颯爽と南へと飛び去って行った。
どうすっかなこの状況。また勝手に居なくなりやがって。
現況とこの先を。
一番に相談したい相手が、ここには居ない。
一旦退く判断は間違いじゃないと思う。
タッチーを見捨てる形になるのが気に入らない。
文字通り後ろ髪を引かれる思いを残し。
5人は暫くしてから、その場を後にした。
-----
マーモは迷っていた。
東方面からの地鳴りと震動。一時は局地地震かと勘違いした。
仮の地震で横たわる谷間の距離が開いた。
最短部でも二百m。
遠投が得意な兵士を集めれば、橋を架けられなくもない。
向こう岸が見えているだけに、敵からも丸見え。
「死骸は全て放ったか」
「作業は終了しております」
「無理を圧して渡っても形勢は不利。早馬を中央本陣へ先行させろ。我らは中央に合流する」
「ハッ!」
損失は軽微。死者は居らず、軽傷者が数名居る。
退くなら今しかない。
敵前逃亡か。兵士の名折れだな。
凶ではないが、吉とも呼べず。
「腰抜けめ」
この場に残った冒険者隊の端くれがほざいた。
安い挑発だ。
「腰抜けで結構。死にたくば好き勝手に死ね。但し、橋は渡すなよ。裏切り者だと罵ってやる」
「チッ…」
タッチーらに便乗しただけの雑兵が。
渡せる物なら渡してみろ。寧ろそっちが好都合。
誘い出した方が利が有る。
向こう岸では大狼が有利。知能が高いとされる狼。
毒餌に食い付いてくれただけでも御の字。
収穫は在った。
ほぼ無傷の国軍が、東部ルートへ派兵されていた人員も含め集結を果たせたのは、優に三日を要した。
-----
「いやー、落ちたなぁ」
見上げる天井は完全に閉じていた。
肌寒さからすると、数十m以上は落下したと思われる。
「私の所為だとでも?」
「まさか。無理矢理飛び込んだのは僕だもん。ルドラこそどうして逃げなかったの?」
「お主の嫁らに、八つ裂きにされる光景しか浮かばなかったのじゃ」
いつになく正直。いつもこうだと楽なんだけどな。
負んぶで歩くにはやや狭い通路。
ルドラが片手をトーチ代わりに、前を歩いている。
照らし出せる範囲は限られる。
必然的にかどうかは解らないが、ルドラと手を繋ぎながら歩いた。何も言うまい。
トーチの火が揺らめいている。
微風が柔らかく頬を撫でた。風が抜けているなら、出口に繋がっているはずだ。要はその道筋を辿ればいいだけ。
索敵マップには敵の影は一切映ってない。
代わりにかなり前方に結構な数の味方(青色)が居た。
誰だろう。僕らよりも前に居るなんて。
蛇行したり上下したりしながら、ゆっくりと青色に接近。
「臭い…」
「え?おならしてないよ」
「違う!前からじゃ。人間臭い」
「…」
一応僕も人間の積もりなんですが?
ルドラもハーフっちゃハーフになるんだけど。
聞かなかった事にしよう。
暫く進み続けると、ルドラが臭いと言った物の正体が判明した。
アルコールの匂いだ。
前方の集団が何故だか酒盛りをしてる模様。
酒臭いのがお気に召さないらしい。
接近してみると、集団の正体が解った。
「お、髭男爵」
「何だ。異界の者か」
覇気の無い生返事。
東部ルートの冒険者メンバーにしては少ない。
「山の開口部に踏み入った途端。飲まれてな。一気に半数を失った。殆ど敵にも遭わず、適度な空間を見つけてこの通り、弔いの酒だ。お前は子供を連れて大狼に挑む積もりだったのか?」
後ろに隠れたルドラを眺めながら、冷笑。
だいぶ精神的にキテるみたいだ。
「あんまルドラを怒らせるなよ。嘗めてると、燃されて炭になるからね」
「雑魚共に何を言われようと気にせぬわ」
何かを言い返す人は居なかった。
他の面々も沈んでいる。大半が収穫に満足出来たら離脱しようとしてた面々。当てが外れたんだな。
「収穫は?」
「収穫?は、それなりだ。しかし肝心の出口が見つからんのでな。出口は知っているか?」
有ったのかよ。気遣うだけ無駄だ。しかも図太い。
「風が抜ける道を辿れば自然に外へ出ると思うよ。僕らが入ったのは中央寄りの麓。そこから北に進んでる」
「既に奥に入ったか。南を目指さないのか?」
「帰ってどうするの?フェンリルに喧嘩売ろうとしてるのに二度手間っしょ」
「…」
「僕らはこのまま先に進む。どうするかはお好きに」
生存者はざっと80名。
全員が本気を出してくれたら、かなりの戦力なのに。
過度な期待は止そう。
「ダンジョン用の備品は心許ない。要のマッパーも失った。同行させて貰おう」
「勝手はいいけど。助けないよ」
「…理解した」
付いて来るだけで手伝わない。なら助ける義理もないさ。
ウダウダやってる内に囲まれた。
打って変わって全面包囲。一面真っ赤。
索敵マップを天井に打ち、タッチーとルドラは走り出した。
一瞬躊躇したクリス隊も、離されまいと追従した。
酒の匂いに誘われたのは人間だけじゃなかった。
ビッグマウス。Aの下位。巨大鼠で病原体の宝庫。
迂闊に体液に触れる事無かれ。
「触るか!汚い」
デススフィア。Aの中位。不自然に発光する球体。
無機物なのか生命体なのかは永遠の謎。
「捕まえられたら照明代りになりそうじゃ」
触れただけでも取り込まれそうだ。
ブリリアンガント。Aの中位。巨大軍隊蟻。
強力な顎は要注意。
「来るぞ!死にたくなくば戦え」
クリス隊が奮起した。あっちは任せる。
「ルドラに球は任せる。僕は鼠を。クリス隊は蟻。膜が薄い方向は罠。狙うは」
「一番分厚い場所じゃな!」
3種が重なる方向が一点だけ在った。
恐らくそれが北部方面に抜ける道。
「必要な魔道具は供給する。叫んでくれたら投げるから」
「報酬から後払いだ。異議は受け付けぬぞ」
土壇場でもガメツイわぁ。
煌めく星屑 宵を照らす刃 切なる滅陣
「スターダスト・キリング」
ルドラが構えた手の先に、複数の輝ける刃が浮かび上がった。白い球体に暗黒ではなく、敢えて同種を選んだ。
魔王の娘。格闘センスは母譲り。絶対梶田の影響では…ないと思います。
「魔法だと!その娘…。ええい、どうでも良いわ。恐れるな怯むな。一人五匹倒せばお釣りが来るぞ」
逆台形の隊列を編成したメンバーたちが叫んで応えた。
少ない魔術師を養護する形。
「タッチーよ。何か硬くて、長くて、円柱形の武器はあるかえ」
棍棒?…バット!?
お遊びで作った金属バットが有ったな。
グリップを向けて手渡すと。
「これはいい。血が騒ぐ。白くて丸い物を見ていると、叩けと胸の奥が騒がしい」
ルドラの瞳が血走っている。これは、梶田の影響臭い。
ルドラに弾き返された白い弾幕。その隙間を潜り抜ける鼠たち。迎え撃つのは僕のお仕事。
左舷のクリス隊。右舷のルドラ。
前後左右に飛び交う魔術と白球を回潜り、鼠の先頭車両に水刃をたっぷりとお見舞いした。
引き抜いたのは、やはりブレイカー。
青石をセット。水の魔術を付与。靱性を引き上げ。
隊列を崩され、速度を落とした鼠の集団の真ん中に飛び込んだ。
「顎を狙え!顎さえ砕けば只の木馬に過ぎぬ」
指示通りに各個撃破を繰り返す隊員たち。
やれば出来るじゃん。
-スキル【奪取】
並列スキル【鳥取】発動が確認されました。
数体の蟻の顎部が瞬時に消えた。
A級は伊達でも酔狂でもない。実力が無ければ上がれない等級。やるやらないは本人次第って事。
クリスの髭が尖り、上方を向いた。浮べたのは笑み。
「こんな場所で死ねるか。私は返り咲くのだ!」
最初は振り回すだけだったバット捌き。数を重ね、独自のフォームも固まってきた。
その姿は紛うこと無きバッター。
ルドラは角と黒翼を解放。宙を舞いながら白球を確実に捉え、叩き回った。
2つ3つ4つ。躯を分割された鼠たち。
口臭も体液も返り血も、殺人的な臭さ。臭いだけで病気になりそうだ。後で水浴びしよっと!
最後の一匹。
エンドマウス。Aの最上位。
本来の白さが不明瞭な位に泥だらけ。ビッグよりも一回り大きい。だけじゃない。
奥の通路を塞ぐ様に、それは待ち構えていた。
-ここは通さぬ。前の時の様には行かぬぞ-
前?知らんがな。
マウスは襟足の体毛を逆立て、針鼠形態に変化した。
続いて来るのは…、針万本。
そこには飛空挺部隊の先遣組が到着していた。
「あいやー。まんさか、おいらたちと同じルートを辿るとはなぁ」
後ろに控えるシンシアがアルバに視線を送る。
「無事なのですか?」
「タッチーとルドラちゃんが穴に嵌って落ちたっぽいだべな。無事も無事。山ん中は天然のダンジョンがあるっぺ。前においらたちが通った道だべ。あんの2人なら問題ないはずだべよ」
「アルバ様がそう仰るなら問題ないのでしょう。しかし、これからどうされるお積りで?」
「今更地下に潜っても後手だんべな。入口も塞がったんだら地上の加勢に回った方が早そう」
アルバがシンシアを引き寄せ、耳打ちをした。
仄かに顔を赤らめた彼女に気付かないのはアルバだけ。
「…了解しました。では後ほど」
頷き返すと、アルバはデッキへ出て下へと飛び降りた。
「先遣隊全機降下。地上部隊と合流します。山脈への派兵は後続の皇帝陛下が到着後となります」
各舟から了承の意が伝えられた。
地上の手引きはアルバが引き受けてくれた。
私は与えられた任務を遂行する。
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急に繋がらなくなったインカムを、苛立たしさから投げ捨てようとした所で思い留まった。
「起きて直ぐこれかよ!何考えてんだ…」
次に会ったら絶対一発ぶん殴る。
ヒオシは何も出来なかった自分に腹を立てていた。
-我らはどうやらここまで。これより先は平常では居られない-
「有り難う、マイラ。イオラたちも」
原型を留めない山脈の入口。
折り重なった土砂を前に、残された5人は一カ所に集まった。
そう俺たちは未だ、入口にすら踏み入ってない。
突入しようとするキュリオとジェシカを、メイリダとリンジーが羽交い締めに止めていた。
「声が。声が聞こえないの」
「聞こえないのは遠くに居る所為よ。冷静になって」
「繋がりません。行かせて下さい」
「落ち着け。この先は単独では無理だ」
「落着くっぺよ。2人なら大丈夫だべ」
5人の後ろからアルバが声を掛けた。
「アルバさん…、もうちょい早く。いや、何でもない」
「2人は無事なんですか?」
堪らずキュリオがアルバに詰め寄った。
「この下には天然の大空洞、ダンジョンが在るベさ。2人はそこに落ちた。とっくに移動を始めてるから無事だっぺ」
「ダンジョン?」
「入口は見ての通りだべ」
アルバは新たに形成された窪地を指差した。
入口が無いならこじ開けるか。
「リンジー。さっきのは?」
「今日は出来そうにない。先程ので魔力を半分以上消費したわ。無論、命を捨てる覚悟でなら」
「いやいいよ。竜血も使うな。こんな序盤戦で秘薬は勿体ない。一旦下がって作戦練り直そう」
どの道一日置かなきゃ、リンジーの魔力も戻らない。
「辛いだろうけど、ここは堪えて。キュリオ、ジェシカ」
「解りました…」
「でも。離れたくない」
全然納得してないなぁ。
「アルバさん。もう少し時間掛かるっぽいから、後続部隊に到着とゴーレム擬き討伐の報告お願い」
「ほいほーい。気負うな、焦るな若者よ。レバ兄かゴル兄ならそう言うと思うべよ~」
何だろう。とっても有り難い言葉のはずなのに、今は超絶イラ付くな。
爽やかな笑顔を振り撒き、アルバは颯爽と南へと飛び去って行った。
どうすっかなこの状況。また勝手に居なくなりやがって。
現況とこの先を。
一番に相談したい相手が、ここには居ない。
一旦退く判断は間違いじゃないと思う。
タッチーを見捨てる形になるのが気に入らない。
文字通り後ろ髪を引かれる思いを残し。
5人は暫くしてから、その場を後にした。
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マーモは迷っていた。
東方面からの地鳴りと震動。一時は局地地震かと勘違いした。
仮の地震で横たわる谷間の距離が開いた。
最短部でも二百m。
遠投が得意な兵士を集めれば、橋を架けられなくもない。
向こう岸が見えているだけに、敵からも丸見え。
「死骸は全て放ったか」
「作業は終了しております」
「無理を圧して渡っても形勢は不利。早馬を中央本陣へ先行させろ。我らは中央に合流する」
「ハッ!」
損失は軽微。死者は居らず、軽傷者が数名居る。
退くなら今しかない。
敵前逃亡か。兵士の名折れだな。
凶ではないが、吉とも呼べず。
「腰抜けめ」
この場に残った冒険者隊の端くれがほざいた。
安い挑発だ。
「腰抜けで結構。死にたくば好き勝手に死ね。但し、橋は渡すなよ。裏切り者だと罵ってやる」
「チッ…」
タッチーらに便乗しただけの雑兵が。
渡せる物なら渡してみろ。寧ろそっちが好都合。
誘い出した方が利が有る。
向こう岸では大狼が有利。知能が高いとされる狼。
毒餌に食い付いてくれただけでも御の字。
収穫は在った。
ほぼ無傷の国軍が、東部ルートへ派兵されていた人員も含め集結を果たせたのは、優に三日を要した。
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「いやー、落ちたなぁ」
見上げる天井は完全に閉じていた。
肌寒さからすると、数十m以上は落下したと思われる。
「私の所為だとでも?」
「まさか。無理矢理飛び込んだのは僕だもん。ルドラこそどうして逃げなかったの?」
「お主の嫁らに、八つ裂きにされる光景しか浮かばなかったのじゃ」
いつになく正直。いつもこうだと楽なんだけどな。
負んぶで歩くにはやや狭い通路。
ルドラが片手をトーチ代わりに、前を歩いている。
照らし出せる範囲は限られる。
必然的にかどうかは解らないが、ルドラと手を繋ぎながら歩いた。何も言うまい。
トーチの火が揺らめいている。
微風が柔らかく頬を撫でた。風が抜けているなら、出口に繋がっているはずだ。要はその道筋を辿ればいいだけ。
索敵マップには敵の影は一切映ってない。
代わりにかなり前方に結構な数の味方(青色)が居た。
誰だろう。僕らよりも前に居るなんて。
蛇行したり上下したりしながら、ゆっくりと青色に接近。
「臭い…」
「え?おならしてないよ」
「違う!前からじゃ。人間臭い」
「…」
一応僕も人間の積もりなんですが?
ルドラもハーフっちゃハーフになるんだけど。
聞かなかった事にしよう。
暫く進み続けると、ルドラが臭いと言った物の正体が判明した。
アルコールの匂いだ。
前方の集団が何故だか酒盛りをしてる模様。
酒臭いのがお気に召さないらしい。
接近してみると、集団の正体が解った。
「お、髭男爵」
「何だ。異界の者か」
覇気の無い生返事。
東部ルートの冒険者メンバーにしては少ない。
「山の開口部に踏み入った途端。飲まれてな。一気に半数を失った。殆ど敵にも遭わず、適度な空間を見つけてこの通り、弔いの酒だ。お前は子供を連れて大狼に挑む積もりだったのか?」
後ろに隠れたルドラを眺めながら、冷笑。
だいぶ精神的にキテるみたいだ。
「あんまルドラを怒らせるなよ。嘗めてると、燃されて炭になるからね」
「雑魚共に何を言われようと気にせぬわ」
何かを言い返す人は居なかった。
他の面々も沈んでいる。大半が収穫に満足出来たら離脱しようとしてた面々。当てが外れたんだな。
「収穫は?」
「収穫?は、それなりだ。しかし肝心の出口が見つからんのでな。出口は知っているか?」
有ったのかよ。気遣うだけ無駄だ。しかも図太い。
「風が抜ける道を辿れば自然に外へ出ると思うよ。僕らが入ったのは中央寄りの麓。そこから北に進んでる」
「既に奥に入ったか。南を目指さないのか?」
「帰ってどうするの?フェンリルに喧嘩売ろうとしてるのに二度手間っしょ」
「…」
「僕らはこのまま先に進む。どうするかはお好きに」
生存者はざっと80名。
全員が本気を出してくれたら、かなりの戦力なのに。
過度な期待は止そう。
「ダンジョン用の備品は心許ない。要のマッパーも失った。同行させて貰おう」
「勝手はいいけど。助けないよ」
「…理解した」
付いて来るだけで手伝わない。なら助ける義理もないさ。
ウダウダやってる内に囲まれた。
打って変わって全面包囲。一面真っ赤。
索敵マップを天井に打ち、タッチーとルドラは走り出した。
一瞬躊躇したクリス隊も、離されまいと追従した。
酒の匂いに誘われたのは人間だけじゃなかった。
ビッグマウス。Aの下位。巨大鼠で病原体の宝庫。
迂闊に体液に触れる事無かれ。
「触るか!汚い」
デススフィア。Aの中位。不自然に発光する球体。
無機物なのか生命体なのかは永遠の謎。
「捕まえられたら照明代りになりそうじゃ」
触れただけでも取り込まれそうだ。
ブリリアンガント。Aの中位。巨大軍隊蟻。
強力な顎は要注意。
「来るぞ!死にたくなくば戦え」
クリス隊が奮起した。あっちは任せる。
「ルドラに球は任せる。僕は鼠を。クリス隊は蟻。膜が薄い方向は罠。狙うは」
「一番分厚い場所じゃな!」
3種が重なる方向が一点だけ在った。
恐らくそれが北部方面に抜ける道。
「必要な魔道具は供給する。叫んでくれたら投げるから」
「報酬から後払いだ。異議は受け付けぬぞ」
土壇場でもガメツイわぁ。
煌めく星屑 宵を照らす刃 切なる滅陣
「スターダスト・キリング」
ルドラが構えた手の先に、複数の輝ける刃が浮かび上がった。白い球体に暗黒ではなく、敢えて同種を選んだ。
魔王の娘。格闘センスは母譲り。絶対梶田の影響では…ないと思います。
「魔法だと!その娘…。ええい、どうでも良いわ。恐れるな怯むな。一人五匹倒せばお釣りが来るぞ」
逆台形の隊列を編成したメンバーたちが叫んで応えた。
少ない魔術師を養護する形。
「タッチーよ。何か硬くて、長くて、円柱形の武器はあるかえ」
棍棒?…バット!?
お遊びで作った金属バットが有ったな。
グリップを向けて手渡すと。
「これはいい。血が騒ぐ。白くて丸い物を見ていると、叩けと胸の奥が騒がしい」
ルドラの瞳が血走っている。これは、梶田の影響臭い。
ルドラに弾き返された白い弾幕。その隙間を潜り抜ける鼠たち。迎え撃つのは僕のお仕事。
左舷のクリス隊。右舷のルドラ。
前後左右に飛び交う魔術と白球を回潜り、鼠の先頭車両に水刃をたっぷりとお見舞いした。
引き抜いたのは、やはりブレイカー。
青石をセット。水の魔術を付与。靱性を引き上げ。
隊列を崩され、速度を落とした鼠の集団の真ん中に飛び込んだ。
「顎を狙え!顎さえ砕けば只の木馬に過ぎぬ」
指示通りに各個撃破を繰り返す隊員たち。
やれば出来るじゃん。
-スキル【奪取】
並列スキル【鳥取】発動が確認されました。
数体の蟻の顎部が瞬時に消えた。
A級は伊達でも酔狂でもない。実力が無ければ上がれない等級。やるやらないは本人次第って事。
クリスの髭が尖り、上方を向いた。浮べたのは笑み。
「こんな場所で死ねるか。私は返り咲くのだ!」
最初は振り回すだけだったバット捌き。数を重ね、独自のフォームも固まってきた。
その姿は紛うこと無きバッター。
ルドラは角と黒翼を解放。宙を舞いながら白球を確実に捉え、叩き回った。
2つ3つ4つ。躯を分割された鼠たち。
口臭も体液も返り血も、殺人的な臭さ。臭いだけで病気になりそうだ。後で水浴びしよっと!
最後の一匹。
エンドマウス。Aの最上位。
本来の白さが不明瞭な位に泥だらけ。ビッグよりも一回り大きい。だけじゃない。
奥の通路を塞ぐ様に、それは待ち構えていた。
-ここは通さぬ。前の時の様には行かぬぞ-
前?知らんがな。
マウスは襟足の体毛を逆立て、針鼠形態に変化した。
続いて来るのは…、針万本。
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秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
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「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
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女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
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