夢霧無(むむむっ)

木芙蓉

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 保育園、学校、気付けば俺の周りに誰もいなかった。ずっと独りだった。だがそれが辛いとも寂しいとも思わなかった。それが当たり前だったからだ。
 孤独を知るようになったのは「アイツ」のせいだ。アイツは5年前、みんなの前から忽然と姿を消し、今も行方はわからないらしい。だがアイツは行方をくらますもっと以前に俺の前から姿を消した。それからも尚、俺は前向きに生きようと努力した。だがそれも上手くいかなかった。疲れてしまったんだ。張り詰めた糸がぷつんと切れる。そのきっかけは唐突にやってきた。
 
 死の理由など今となっては曖昧だ。1つ1つの出来事が積み重なって、言葉には表せられない痛みが俺の心にのしかかった。いや言葉にしてしまえばひどくシンプルにまとめてしまえるのだが、俺の心がそれを拒んだ。あの出来事は、あの別れはきっかけに過ぎない。孤独でいることに疲れたんだ。そう心に言い聞かせた。
 きっかけを理由と悟られないよう俺は2年間生きてきた。これで理由は悟られない筈だ。だが今思えばそれも必要のない事だ。俺の死について思ってくれる人などいないのだから。俺はずっと独りだ。これからもずっと。だからもういいだろう。もう考える事は止めだ。すべて終わりにしよう。俺は心に誓った。
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