白い瞳の猫

木芙蓉

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2章:篭城

②引き籠り生活、そして再会

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退院の日まで誰か来てくれる事は無かった。
わかってはいたけど、やはり寂しいな。
でもこれまでもそうだったし、これからもそうだ。ずっとこれは変わらない。

この世界で生きていくことは苦痛でしかないのじゃないか。
新しい世界など、結局どこにも存在しない。
もしそこに行けたとしても、結局僕の運命は同じ。
だったらやはり。

退院してから学校へ行くことは全く出来なくなった。
行方不明となって少しは話題になり、
多少は存在感が出ているのかもしれないが、
それは悪い方にだ。
僕にとってはますます居づらい場所になっている筈だ。
朝学校へ行こうと頑張ると、手が震えるはずだ、頭が痛くなるはずだ。
はずだと言うのは仮定の話で最初から登校しようとすらしなかった。
もうどうでもいい。どこかここから逃げ去りたい。

悲観的な考えがひたすら頭を駆け巡った。

退院した翌日、「あいつ」が家にやって来た。

飼うことなんて無理だという両親を僕は必死に説得した。
山の中にいる間、ずっと一緒にいたこと。
辛い時ずっとそばにいてくれたこと
挙句の果てに、こいつが居なければ死んでやる
とまで言い何とか説得することに成功した。

自宅にやって来た「あいつ」は山で見た時よりも綺麗になっていた。
汚れていた毛並みはちゃんとシャンプーされてブラッシングされたのだろう
綺麗になっていた。
ガリガリに痩せた体もしっかり餌をもらっていたようでふっくらとして、
まるで別人、もとい別猫のようになっていた。

だが変わらない白い左目の瞳だけがあいつなんだなと実感させられた。
此処まで健康体で暮らせているのなら一層このままおばさんのところにいたほうがこいつは幸せなんじゃないだろうかという思いが一瞬頭を巡ったが、すぐそれを打ち消した。
僕が「あいつ」がいないとダメなんだ。

我が家にいていただくにあたって「あいつ」では失礼だから名前を付けてあげないと。
白い左目からハクとつけようかと提案したが、
反対された。

それじゃあシロと提案したがそれも犬みたいと却下された。

結局色んな意味で良い事がありますように、出来ますようにとの思いで
善、ゼンと名付けた。却下されなかった理由は今もわからない。

ゼンは相変わらず僕の足の中で眠るのが好きだった。
そうしている瞬間が何よりの時間だった。
孤独を忘れられた。
友人(友猫?)の存在を感じられて、このまま生きていく事に希望が見いだせた、気がした。

体は健康体を取り戻したが、ゼンの眼はずっと白いままだ。
お医者さんに見せてあげないと、外へ出ることは怖かったが、
ゼンについていくなら、ゼンと一緒ならそれも何とか出来た。

診断結果は外傷性の白内障との事だった。
人に虐められたか、猫同士の争いでやられてしまったか、自分でぶつかったか、原因はわからない。

だが僕には何故か誰かにやられたんだと確信した。
お前も他人にひどいことをされて孤独だったんだな。
だから同じように孤独な僕の下へやってきたのだろう?
だから僕らは傷を共有できる友達なんだよな。

確信というか思い込みだったのだと今では思う。
でも当時はそう信じ切っていたのだ。

病院から帰った夜
僕はゼン用に用意されたベッドの中でゼンと一緒に寝た。
凄く狭くて迷惑だったかもしれない。
でもその日僕はゼンと距離がさらに縮まったと信じていた。
2人きり(1人と1匹?)の世界にますます入り込んでいった。

外の世界とつながる扉には鍵を何重にもかけた。







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