上 下
1 / 4

あなたたちは一体……?!

しおりを挟む
 昼休み、ご飯を食べ終えて話していると誰かが自分に近づいてくる気配がして、そちらを見るとまさかの好きな人が私に向かって歩いてくる。

 でも、すぐに自分の元に来るなんてのは妄想、こっちに向かって歩いてきたからって、私に用があるとは限らない。

 私の隣に座る、学年でも1、2を争う美人なのに可愛いで有名な彼女に用があるのかも知れないし、もしかしたら今私と話している友人の方に用があるのかも。

 でも、好きな人の姿っていうのはほかとは比較できないほど目を奪って、肌で感じるものはいつもの何倍も敏感になって、目の前で話を繰り広げられる友人の話なんて耳に入ってこない。

 一歩一歩こっちに近づいてくるほど、鼓動は早くなってまるで体全体が心臓になったみたいに、どくんどくんって脈打って、苦しくなる。

 横目で見てると距離はだんだんと縮まって、彼の視線は確かに私を捉えていて、さらに気づいた友人が「わたしトイレ行ってくるわー」と、席を立った。

「ちょ、ちょっと」

「お邪魔虫は消えまーす」

 と耳元で囁かれて、その吐息でぞわっと腕の鳥肌が立って、友人の姿が目の前から消えると、その代わりに彼の姿が視界に入ってきた。

 彼は私の前で止まった。

 眩しい。

 眩しすぎる。

 彼の顔が眩しすぎて、目を逸らしちゃう。

「あ、あのさ」

 声を掛けられると、私の耳は溶けてしまって、もう自分が自分じゃなくなるみたいで、だけどなんとか声を振り絞って

「あ、えっと、私?」

 なんて、気のないような台詞を吐く。

「う、うん……。ちょっと、いいかな?」

「あ、うん」

「ここだとあれだから、教室の外で、いいかな?」

 彼は右手を頭の後ろに持っていき、いつもよりも赤い顔をしていて、だけど真っ直ぐな瞳で私を見てくる。

 ずるい。

 そんな目で見られたら、もう、本当に心臓止まっちゃう。

「あ、うん」

 彼は私に背中を向けて、扉に向かって歩き出す。

 私はその背中についていく。

 広くて、その背中に抱きつきたいと何度思ったことか、白いワイシャツから伸びる、少し焼けた腕。

 心臓は最高潮に鼓動して、今すぐにでも機能を停止してしまうじゃないかとさえ思う。

 教室から出て廊下を歩き、人通りの少ない校舎に来て、3階から1階へと下り、渡り廊下に出た。

 人はいなかった。

 彼はそこで立ち止まった。

 だから私も同じように歩みを止めた。

 彼がこっちを見ると、もはや私の身体は緊張に耐え切れず、鼻から血が吹き出しそうだし、目からは原因不明の涙がこぼれ落ちそうだし、口からは心臓が飛び出してきそうだった。
しおりを挟む

処理中です...