ケーキ屋の彼

みー

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1話

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 家に着くと、すでに柑菜の双子の弟の春樹が、大学から帰ってきていた。

 ケーキ屋から10分ほどの距離にある土橋家は、白い壁が特徴のどこにでもある2階建ての一軒家だ。

「はっ、またそこのケーキ?」

 袋のロゴを見た春樹が、つまらなそうに柑菜に話しかける。

「うん、だって美味しいんだもの。甘さも控えめでちょうどいいの」

「ふうん」

 春樹は、あまり興味がなさそうで、力の抜けた返事をし、ソファに腰を掛けた。

 リモコンを手に取り、目の前にある薄型テレビの電源を付ける。

 一方柑菜は、甘いケーキに合う紅茶を淹れるためのお湯を沸かそうと、ケトルに水を注いだ。

 その柑菜の動作を見た春樹は

「俺、コーヒー」

 と、彼女に言う。

「分かりましたー」

 と、柑菜はいつものようにさらっと返事をする。

 お湯が沸くのを待っている間に、袋から箱を取り出す。

 袋は、小さく畳み、いつでも使えるように保管する。同じ袋がもう何枚も溜まっていた。

 柑菜は、まるで宝箱の蓋を開けるように、そっとケーキの入った箱を開いた。そっと、崩れないように慎重に皿に移す。

 すると、甘い香りが空間に広まり、まるで先ほどのケーキ屋にいるかのような感覚に陥る。

 その香りを嗅ぐと、あのパティシエのことが頭に思い浮かんで、柑菜の心臓がきゅんとなる。

 しかしなぜだか同時に、柑菜の頭には、先ほどすれ違ったケーキの香りを身に纏うあの女の人も思い返される。

 柑菜と同じく、お客様の一人なのかもしれない、なにか買い忘れをして、もう一度ケーキ屋に来たのかもしれない、そう都合の良い考えをするけれど、どこかやはり引っかかるものがあった。
 
 もちろん、彼と付き合えるとかそういうことは考えていない、といえば嘘になるかもしれないけれど、やはり恋する乙女には女の人という存在気になってしまうのだ。

 春樹は、沸騰する音が聞こえなくなっても、柑菜が斜め上を向いて固まっていて動こうとしない様子を見て話しかける。

「お湯、沸いたぞ」

「え、あ……ごめんごめん」

 考え事をしていて、なにも準備をしていなかった柑菜は、急いでコーヒーを淹れる為のカップなどを用意する。

「考え事?」

「ちょっと……ね」

「ふうん」

 春樹はまた、関心がなさそうな返事をした。

 興味がないなら聞かなくてもいいのに、と思う反面聞いてほしい気持ちもある柑菜だったが、恋の相談を弟にすることの恥ずかしさで、言うのはやめておくことにした。

 弟以外にも誰にも話していない柑菜は、相談する相手がおらずに、再び堂々巡りを繰り返す。

 結局その日は、なにも解決しないまま次の日を迎える柑菜だった。
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