15 / 82
3話
3
しおりを挟む「それより! 私にばかり好きな人のこと聞いてきたけど、春樹くんはいるの?もしいるなら私が恋の先輩として話聞いてあげるわよ~」
美鈴は、少し酔ってきたのか声が先ほどよりも大きくなり、西洋人のように陽気な雰囲気になっていた。
それとは逆に、春樹はそれを聞いた瞬間、『自分の気持ちは1ミリも伝わっていないのか』と肩を落とす。
そして、目の前にあるお酒を一気に飲み、「教えません!」と、大きな声で言った。
空になった瓶を高々に持ち、通りかかった店員に新しいお酒を注文する。
お酒を飲むことで、自分の気持ちを心の奥底に追いやる。
「なんだそれ~~? ずるい!」
「先輩が知らない人ですから」
春樹は美鈴から視線を逸らす。
「ふうん、そうなんだ」
口を尖らせて、春樹の目の前にある野菜コロッケを奪う美鈴。
春樹が残しているのを知っていて、美鈴はわざとそれを取った。
「ああ! 先輩酷いですよ。これは本当、ダメですって」
幼い頃から好きだった野菜コロッケを奪われた春樹は、本気で悔しがる。好きなものは最後に残す派で残していたものだったのに。
「春樹くんが意地悪だからよ。自分のことは何一つ話してくれないんだもん」
もぐもぐと、悪ビラもせずに美鈴はその野菜コロッケを食べ進める。
春樹は恨めしそうに美鈴を見た。
ーーこうやって過ごすなかで、こんな風に仲良くしていられるなら、俺は気持ちを伝えることなんてしない。わざわざ、この関係を壊す必要性を、見出せない。もし、それがあるなら、それは自分が美鈴を嫌いになった時だ。
「柑菜さんに伝えて、今週の金曜日は、秋斗いるって」
そう思う反面、やはり好きな人の口から好きな人の名前を聞くことは、心が痛む。
自分が恋人になることを望まなくても、好きな人の恋愛には敏感になる。
人には諦めろと言うくせに、自分は諦めようとしないなんてなんて我儘なんだ、と春樹は自分を嘲笑う。
「分かりました、伝えておきます」
「うん……よろしく」
春樹も美鈴も、好きな人を思うと同時に、その自分の気持ちに自分で苦しめられる。
春樹の見た美鈴の横顔は、どこか哀愁を帯びていて、それは1つのものに区切りをつけているように見えた。
しかし、それはもしかしたら自分の願望ではないかとも、春樹は思うのだった。
2人は、この賑やかな居酒屋の中で、これと完全に同化してしまえれば楽なのにと感じていた。
心の奥底にある恋心なんてなくなって仕舞えばいいのにと。
食もお酒も進み、最後の締めとして、2人はミニラーメンを注文する。
「ここのラーメン、海鮮系ですごく美味しいのよ」
「そうなんですか」
先ほどの横顔とは打って変わって笑顔を咲かせる美鈴の姿を見て、春樹は少しホッとする。
やっぱり、伏し目がちな目よりも、目力の強くまん丸な目の方が春樹は好きだった。
それに、伏したその目は、どこか妖艶な雰囲気を漂わせ、心を乱す。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる