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しおりを挟む「今日、あのケーキ屋行くな」
金曜日の朝、テレビでは朝の情報番組が流れている。
美味しそうなトマトを紹介するコーナーで、テレビの中からはアナウンサーやゲストなどの笑い声が聞こえてきた。
しかし、それとは真逆の春樹の低く不機嫌そうな声が柑菜の動きを止める。
柑菜はその低い声に、作業を止めた。
「今日は行かないけど、明日は誕生日ケーキ櫻子と取りに行くよ……」
春樹の機嫌を見ながら、弱々しくか細い声でそう言う柑菜を、春樹見ようとはしない。
春樹は、床の一点を見つめている。
沈黙の中、テレビから流れる明るい声が、妙に大きく柑菜の耳に入って来る。
「明日もだめだ、それくらい1人で行かせればいいだろ」
それでもなお、春樹の声は低く、柑菜を怯えさせる。
理由もわからず一方的な理不尽な春樹の言葉に柑菜は少しずつ苛立ちを覚えた。
「そんな、なんでそんなこと……」
柑菜は立っている春樹の元へ行き、腕を掴んだ。
しかし春樹は、その柑菜の手をぶんっと音が出そうなくらい勢いよく振り解く。
それのせいで柑菜はバランスを崩し床に手をつけ転んでしまった。
「痛っ……」
柑菜は、床についた方の手を庇うようにもう片方の手で咄嗟に包み込んだ。
その姿を見て、すぐに春樹はしゃがみこむ。
「柑菜っ、ごめん」
春樹の脳内に、昔の記憶が蘇る。
自分のしたことに後悔し、春樹が柑菜の手を触ろうとすると、今度は柑菜がその手を拒否するように払った。
春樹はそれ以上、何もすることができずにただただ床を見ることしかできなかった。
「…………大学、行くね」
春樹を見る柑菜の冷たい視線が彼に突き刺さる。
柑菜は、春樹を1人残して朝食に手もつけずにテレビのついた部屋から飛び出した。
ーー何やってんだよ、俺。
何も悪くない柑菜を、春樹は独りよがりな気持ちで傷付けてしまった。
それも、過去を思い出させるような仕方で。
「柑菜、今朝はごめん」
春樹は、以前4人で会った時に連絡先を交換していた櫻子に連絡をし、昼食を食べる場所を教えてもらい、謝りに来た。
柑菜は、頭を下げる春樹をまるで透明人間であるかのように、徹底的に無視をする。
櫻子と亜紀は、そんな2人を見ながら顔を合わせた。
ついに柑菜に質問を投げかけた。
「柑菜、どうしたの?」
なるべく柑菜を怒らせないように、穏やかな声で話す2人。
「何もないよ、それよりここはうるさいから違うとこに移動しましょ」
すでに昼食をほぼ食べ終えている3人は、柑菜の圧で残りを一気に食べ、席を後にした。
周囲の視線を感じながらも謝罪をしていた春樹だったが、ついにそれに耐えきれずに、諦めてその場から去ることにした。
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