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8話
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しおりを挟む「わー、すごいっ!」
チョコレート展にきた4人は、その甘い香りの包まれる空間に早くも興奮している。
柑菜も2度目だと言うのに、まるで初めてきたかのようにその2つの目を輝かせている。
ふと横を見たとき、真莉の姿を柑菜は捉えた。
「あら、また来たのね」
「はい、……チョコレート好きなので……。」
「そう……それならうちのも食べなさい」
真莉は、一口サイズのチョコレートを柑菜や櫻子に渡した。
それは、可愛らしい桜の形をしていて、味覚だけではなくて視覚も楽しめる。
柑菜はそれを早速口の中に入れた。
「お、美味しい……」
苺だとばかり思っていたそのピンクのチョコレートは、日本の春に香る桜の風味がして、まるで日本の風情をその一粒に込めているよう。
舌の上で溶けていくそのチョコレートは、ざらつきが一切なく、生クリームのように滑らかだ。
「今まで認めてもらえたのはこれ1つよ」
柑菜の目をじっと見て、低い声でそう言う。
真莉はそれを言うと、待っている他のお客さんの接客に戻った。
たった一言だが、柑菜には分かるその言葉の重さ。
この1つを作るのに、だれだけの努力が、どれだけの忍耐が必要であったか。
それも、異国の地という慣れない場所で。
大学院に行くことさえまだ迷っている自分と比べ、真莉がどれだけこのチョコレートに思いを込めているのか、その生半可ではない彼女の気持ちに柑菜はすべての面で自分が負けたような気がした。
柑菜はそれを一箱手に取ると、真莉に渡す。
真莉は特に何も言わず、そつなく接客をこなした。
それを見ていた春樹や櫻子は、柑菜に特に話しかけることはなかった。
「ねえ、あっちでコーヒー飲めるみたいだよ」
亜紀が指差したのは、チョコレートの販売ゾーンの奥にあるスペース。
昨日はなかったCaféの看板がそこにあった。
柑菜たちは、いったんそのカフェで休むことにした。
チョコレートの甘さに合いそうな、ブラックコーヒーの香りを感じる。
柑菜は、先ほど買った真莉のチョコレートを見ながら『コーヒーと一緒に食べたらきっと合うんだろうな』と思う。
カフェでコーヒーを楽しんでいる人たちは、テーブルの上に買ったばかりのチョコレートを広げ、優雅な時を過ごしていた。
「俺、みんなの分買ってくるよ」
春樹は、3人からそれぞれ飲みたいものを聞き、それを買うために行列に並んだ。
柑菜は、その場を見渡す。
多くの人がいる中、休憩を取っているのか、どこかへ向かう真莉を見つけた。
「ねえ、ちょっと私席外すね、でもすぐ戻るから」
「うん、分かった」
亜紀からの返事を聞き、すぐに柑菜はそのあとを追う。
「真莉さん!」
多くの人の中で、真莉の歩みを止めるために、柑菜はその名前を叫んだ。
「あら……あなた……」
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