嫌いなあいつの婚約者

みー

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7話

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「んー美味しいですっ」

 コース料理の始めはサラダとスープ。

 サラダには野菜の他に、豆類にピンク色のお花も。色鮮やかなサラダは、舌だけじゃなく目からも楽しむことができる。

 なにより奏多さんと一緒だと、何倍も美味に感じる。

 スープは薄い奇麗な緑色をしていて、飲むとさっぱりとしていた。

「あまり行儀が良くないけれど、このバゲットにスープを付けて食べると最高に美味しいんだ。親の前では絶対にやらないけどね」

 と、あどけない笑いを浮かべる奏多さんに親しみを感じる。

「やってみますっ」

 奏多さんに言われた通り、焼き立てであろうバゲットにスープを少々付ける。

 サクッとした歯応えの後に、スープの甘さと小麦の風味が絶妙にマッチして好ましい味になる。

「美味しいです」

「でしょ? 少しパンがふやけるのもいいんだよね」

 大人で隙がなさそうに思える奏多さんなのに、子供のような一面があるなんて、いいギャップ。

 知れば知るほど奏多さんという人に惹かれていく。













「美味しかったかな?」

「はいっ。最後のデザートまで満足です」

「よかった」

 レストランから歩いてオルゴール美術館に向かう。車もいいけれど、こうやって肩を並べて歩くものやっぱりいい。

 街に来ると、今日も人が多くいた。と言っても、向こうの世界に比べれば全然だけれど。

 歩いていると、前からなにやら知っている顔が2つ見えてくる。

 そのうちの1人が私たちに気付いた。

「桜」

「涼……と鈴華さん」

「あら、デートかしら?」

「そうだけど……」

「そう、私たちもなの」

 耳元で、彼女は囁く。

 まるでそれは悪魔の声に聞こえて、その恐怖に自然と後ずさりをしてしまう。

 私のことが好きだと言いながら、結局は他の人と出かけるなんて……。

 ま、まあ私には関係ないし、お互い違う道を歩んだ方がいいに決まっている。

「2人はこれからどこに?」

 なんて涼は聞いてくるけれど、そんなの涼にはどうでもいいことで、もちろん答える気なんてない。

「オルゴール美術館だよ」

 でも、奏多さんが代わりに答えてしまう。

「そうなの? オルゴール、いいわね。私も行こうかしら」

「な、なんで?」

「あら、別にいいじゃない。オルゴール欲しいって思ってたのよ。ショップもあるし」

「それじゃあ……4人で行く?」

 奏多さんの優しさなのか、そう提案してきた。私は絶対に4人なんて嫌だし、せっかくのデートなのだから最後まで2人で楽しみたい。

 だから、断って。

「いえ……せっかくのデートなのに邪魔できないです。ほら、行こう」

 私の望みが届いたのか、涼は私に背を向けた。

 それを望んでいたのは自分なのに、その背中が全力で私を拒否しているように感じて、私は背中から目を逸らした。

「え、ええ」

 涼は鈴華さんの手を握る。そして、まるで王子さまがお姫様を連れ去っていくように2人でどこかへ行ってしまう。

 そう、当たり前。当たり前だよ。

 だけど……。

 つい私は、自分の手を見てしまう。涼に握られたいなんて思ってない。思ってないの。

「それじゃあ、行こうか」

「あ、はい」
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