嫌いなあいつの婚約者

みー

文字の大きさ
57 / 69
10話

1

しおりを挟む
「涼……くん?」

 休みの日の朝、朝食を食べようと広間に来ると涼くんの姿がある。

 そういえば、涼くんは隣に住んでいて、元婚約者と同時に幼馴染みでもあるんだっけ。

 涼くんは私の顔を見て口角を上げると、耳障りのいい声で挨拶をしてきた。

「おはよう」

 その声がなんだか懐かしく感じて、胸がきゅんとする。

「お、おはようございます」

「桜は覚えていないかもしれないけど、婚約者の時はこうしていつも桜に会いに来ていたんだよ。だから、同じようにしたらもしかしたら何か記憶を思い出す手伝いになるかもしれないと思って」

「そうなんですね」

「うん、あと、敬語はいいよ。同い年なんだし」

「あ、…………はい」

「うん、でいいよ」

 ふふっと笑う涼くんの顔は、春の日の日差しのように、木漏れ日のように、優しかった。

「う、うん」

 そんな表情に見惚れてしまい、私の頬はきっとほんのりと赤く染まっている。

 気を紛らわせようと涼くんの服装に目を向けた。

 学校の制服ではなくて、ラフな格好をした涼くんも目を奪われるほどの王子さまオーラを放っていて、彼の周りの空気が輝いて見える。

 こんな人の婚約者だったなんて、今でも信じられない。
 
 見た目だけなら、どう考えたって鈴華さんの方がお似合いだし…………。

 ほら、ここから見えるお庭のバラ。2人はバラで、私はマーガレット。

「ね、ねえ」

「うん?」

「涼くんって、私のどんなところが好きなの?」

 だから、聞いてみたくなった。

 美しい人があんなに近くにいるのに、その人には目もくれずに今も私のことが好きな理由を。

「そうだな……。友人を大切にするところ。屈託のない笑顔。なんでも一生懸命なところ。たくさんあるよ」

「そうなんだ……」

「その……こんな話信じてもらえるか分からないけど、私実は違う世界から来たの。それは覚えてる。だから、本当の桜じゃないっていうか。それでも、私のことを好きなの?」

「当たり前だよ。僕はむしろ……今の桜の方が面白くて好きだな」

「お、面白い?」

「思ったことを口に出しちゃうところとか。いきなり走り出すこととか。少し意地っ張りなところとか」

「そ、それって褒めるところなの?」

「うん、そういう桜を見ると可愛いなって思う」

 涼くんの言葉はとても純粋で、聞いているこちらが恥ずかしくなってくる。でも、本当に私のことを思ってくれているんだなって気持ちは伝わってくる。

「でも、私、他の人の恋人なんだよね?」

「うん、そうだね」

「辛くないの?」

「そうだな…………辛いって言ったら辛いよ。でも、奏多さんといる時の桜は幸せそうだから。笑ってる桜の顔が、1番好きなんだ」

 涼くんは心が相当強いのか、それとも器が大きいのか、とにかく分かるのは、涼くんが私のことをとても好きでいてくれているということ。

 それが分かると、とても暖かい気持ちになる。

 人にこんなにも好きになってもらえるなんて、しかもこんな素敵な人に、もはやそれは好きというよりも愛という言葉の方が似合う。

 私だったら、好きな人が他の男の人と笑顔で過ごしているなんて事実を知ったら、3日くらいは寝込むかもしれないのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

処理中です...