拝啓、死に際の貴方へ。

Q太郎

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学校の図書館はテスト前だが閑散としている。
そもそも需要がないのかもしれない。皆、塾や喫茶店や家で勉強をするのだろう。

「ここっ、ここにしよう」

明間さんが選んだ席は六人掛けの大きなテーブルだった。

「いいの?ここ」

「誰も座ってないじゃん」

そういうことではなく、丁度目立つところという意味だが。
明間さんは気にせず鞄からクリアファイルに入っていた脅迫状をテーブルの上に並べた。
俺は周りを確認する。受付には今年定年を迎える芦村先生がうたた寝をしていた。
時刻は16時45分。あと15分で図書館も閉まる。
俺は入り口に背を向ける形で並べられた紙を見る.

「‥酷いな」

紙はどれもワープロで打たれたもので、今日机の中に入っていたものと同じ形式だった。

『オマエはフコウヲマキチラス』

『ケガレタオマエヲジョウカスルタメ、キンジツチュウニコロス』

『ヒトトマジワルノヲヤメヨ
 フコウヲマキチラスノハヤメヨ
 コノチヲサレ』

『アイテノキモチガワカラナイキサマニテンバツヲアタエル』

あと似たような内容が計十枚程あった。

どれもくだらないと思う一方で、何故こんな仕打ちが‥とまた腹の中が煮え返る思いだった。

「ねぇ。こんなに待っているのに」

強がってそんな事を言っているのだ、と自分に言い聞かせ、俺は質問をする。

「同一人物かな。これ、どれくらいの間隔でくるの?」

「大体一ヶ月に一枚かなぁ」

「場所はいつも机?」

明間さんは首を横に振り「色々だよ」と言った。

「机とか靴箱とか、あー、鞄の中もあったなぁ」

「鞄の中?」

そんなもの、どのタイミングで入れるんだ。

「いつもどこのタイミングで見つけるの?」

「それもまちまちかな。あ、でも鞄の中の時はお昼ご飯を食べた後の休み時間だね」

「何で分かるの?」

「丁度ご飯を食べる前に鞄の中を見たのね?その時は無かったの。でもご飯を食べた後、少し席を離れた後、授業が始まる頃にはもう入ってたんだぁ」

それはもう、犯人はクラスメイトという事なのでは?

「それいつ頃?」

「今年の4月だね」

一ヶ月くらい前。仮にクラスメイトだとして、一人一人に聞いてみる、のは現実的ではないな。

「心当たりは?」

「そんなもの、数えるほどあるよ。私、生きているだけで周りに不幸を撒き散らすからね」

なんで、そんな事を笑顔で言えるんだ。

「だからさ、いち早く死んだ方がいいんだけど、一回トラックに轢かれてみたんだけどさ、ちょっと死に間違って、色々と迷惑をかけたんだよねぇ。お父さんにもお母さんにも、あと、運転手さんにも」

だから止めたの、と明るくいう。

自殺未遂のエピソードを、まるでいい思い出のように。
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