世界異世界転移

多門@21

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バステリア編

戦後処理②+ムー共和国使節団

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淡々と戦後処理の現場レベルの擦り合わせが行われていく中、話はバステリアに放棄させた領土の扱いに入った。
「アメリカとしては、旧バステリア帝国の統治は先の大戦のドイツで行った分割統治方式と一部の自国領への編入が望ましい考えています。何よりも優先すべきはこの異世界からの脅威に本土、旧地球圏を晒さない為の軍事施設用地の確保です。これは絶対条件としています」
「軍の駐留の話は本国にも伝えておきましょう。分割統治ですが、日本には他国をまるまる抱え込むような力は有りません、ですので、日本としては無人地帯であるバルカザロス西方30キロ地点以西100キロ平方メートルを希望します」
「確かに、貴国の軍事力、予算配分では他国を運営するのは厳しそうですね。ですが良いのですか?出兵兵力の割に日本が得るものは少なくなりますが」
「構いません。これから我々が得られるものは何も埋蔵資源や領土だけでは有りませんから。この新世界という広大な市場を得たのですから。今回の戦費に見合う成果と言えるでしょう」
「では、大枠は決まったという事で良いでしょうか?」
国務省職員が菅野に目線で肯定を求めた。
「はい、問題有りません。それでは後日各国次官レベル会議準備の時にまた」
「それでは ....おっとその前に1つ。降伏文書調印式の日程と会場が決まりましたので」
「やはり、会場は空母ニミッツの上ですか?」
「いえ、日本にとても所縁のある場所と日付ですよ」
「まさか!8月15日に戦艦ミズーリの上ですか!?」
「大統領たっての希望です。8月15日土曜、バルカザロス湾 海上の戦艦ミズーリ上にて執り行います。これで日本とドイツは敗戦国では無くなります。これからの国際連合での貴国の立ち位置も大きく変わる事でしょう」
「日本としては複雑な心境ですね。それではまた後日」
これで、バステリア帝国への賠償請求の大枠は決まった。講和が成立すればバステリア帝国は二度と列強に返り咲く事はおろか、東方世界での並みの国家レベルの経済、軍事レベルまで持ち直す事すら出来ない。栄華を誇った一大帝国もたった一回、相手国の調査を怠り出方を間違えた為に開戦から一月も経たずに終焉を迎えた。



2020年7月22日 国連軍 新世界基地

ムー共和国の視察団一行が非公式に日本、アメリカその他対バステリア戦参加国を視察する為に新世界基地を訪れていた。
旧地球圏との接触から日も浅く、まだ正式に国交が結ばれていないにも関わらず視察団派遣が行われたのは、2日後7月24日から開催される東京オリンピックを見て欲しいという国連側の強い希望に依るものだ。

シャレル・ゴーラル技術官(24)、17話で登場した彼だが彼はこの数週間、共に本国から派遣された観戦武官のフリューゲル・マイダッハ海軍中佐とこの基地で旧地球圏についての知識を収集していた。 そして今日は、ムー共和国本国から派遣される使節団と合流して日本へ向かう。今は基地の駐機場脇でフリューゲル中佐と二人で使節団を載せた政府専用機を待っているところだ。

ふと彼の腕にはめられたゼンマイ巻き上げ式の時計を見ると、針はちょうど8時を指していた。既に太陽は姿を現し辺りは完全に明るくなっていた。
そろそろ使節団を乗せた機が到着する頃だ。

ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

待つ事5分、基地の西側上空からこの基地で聞き続けた甲高いジェットエンジンとは異なるエンジン音が聞こえてきた。

この基地で現実離れした経験ばかりしてきたからだろうか、聞き慣れたレシプロエンジンの音を聞くと安心する。

そのシルエットが機種まで判別できるところまで近づいてきた。C-8G 政府専用機だ。民間向けのC-8旅客機シリーズの政府専用機仕様である。国家元首専用機程では無いが各所にエンジンの換装や小改造が施されている。外見、性能共にダグラス社のDC-3に近く定員は乗員乗客合わせて17人、巡航速度は270キロで航続距離は3000キロ。東洋世界唯一の旅客機である。 さらに、ムー共和国はこのC-8シリーズを使用してバステリア支配圏外のすべての国への空路を半国営エアラインのムーエアラインズが運行している。
そして政府専用機であるこの機体は、全周を銀で塗装され胴体前方窓上には『République de Mu(ムー共和国)』と描かれ垂直尾翼には誇らしげに国章が描かれている。

ドンッ   

その、C-8の機体が3000m近くあるアスファルトで舗装された滑走路に降りたった。
その後は、航空無線の周波数が合わなかった為、トーイングカーが先導し、シャレル達が待つ駐機場まで誘導された。

機体が完全に停止し、中から今回の使節団の面々が降りてきた。スーツに身を固めた見るからに役人の様な男が8人、同じくスーツに身を固めた女性が2人そしてネイビーブルーのサービスユニフォームを着ている陸海空軍将校が1人ずつトランクを両脇に抱えて降りて着た。


シャレルは背筋を伸ばし全員が前を通り過ぎるまで敬礼をした。

その使節団に地球側の役人の男が近づいていった。シャレルはここ数日彼と視察の日程の確認を一緒に行ってきたから彼の事はまぁまぁ知っている。

「遠路遥々ご苦労様です。
     私、皆さまムー共和国の使節団の方々の案内、世話役を仰せつかっております日本国外務省新世界課の長篠と申します。
   今後とも宜しくお願いします」

そう言って手を差し出し、握手を求める。
また、使節団の中でも最年長と思われる男が手を握り返しながら挨拶をする。

「お迎えに感謝します。私はこの使節団の代表ドルイユです。普段は国務省で東洋世界課 課長をやっています。新たに国交を結ぶ国を直接確認するのは課長の仕事でね。よろしく」

「それでは、長旅でお疲れでしょうがスケジュールに余裕がないので早速飛行機に搭乗して頂きたいのですが」

「また、この機に乗れば良いのかね?君1人とそこの技官と武官が乗るぐらいのスペースはあるが」
 
そう言いながらドルイユはC-8G の方を指で指しながら笑った

「今回は、旧式機ではありますが。我が国が日本までの足を用意しました。どうしてもと仰られるならムー共和国の機体でも構いませんが」

「いやいや、そういう訳じゃ無いのだがね。私はあまり狭いところに長時間座っているのが辛くてねハハハハハ」
東洋世界課、それは基本的に文明レベルがバステリア前後の国を相手にしている課だ。どうしても、相手を自分より遅れていると思ってしまうのだろう。

シャレルはもう嫌というほど、現実離れしたものを見てきたが、ちょうど今日は飛行機は全て格納庫にしまわれるか、出払っていて見えるところには無い。まだそれらを見ていないドルイユには旧地球圏もまた今までの相手と同じような感覚でしか捉えられていないのだろう。

ドレイユの態度を見ながらシャレルは内心でこれから彼の反応を予想していた。 確かに今回使われる機材は旧式ではある。だが、古い機体と言ってもいろいろある。

「それなら心配有りませんよ。今日使われる機の中は広いですから。
おっと、ちょうど格納庫から引き出されてきましたね」

長篠の視線の先に目をやったドレイユは驚愕のあまり抱えていた荷物を離して唖然としてしまった。

トーイングカーから引き出され、巨大な格納庫から姿を現したのは、B-747 -400 日本国政府専用機だ。
本来なら既にボーイング社から納入されたB-777-300ERと入れ違いに退役する予定あったが、世界転移やらのゴタゴタで退役が一時凍結されたのだ。非公式訪問の他国の為に777を持ち出すのは不適切と判断された為、747に白羽の矢がたった。

この機体に比べれば、ムー共和国のC-8など骨董品にさえ見えてしまう。
「な、なんだこの機体は....こんなものが本当に飛ぶのか!?」
ドレイユは驚きのあまり震えた指でその巨体を指す。

C-8Gの胴体より太いプロペラが付いていないエンジンが四発、フリゲート艦並みの大きさ、さらに2階建というインパクト。使節団一行の知っている航空機の常識を圧倒的に越えていた。ムー共和国では設計はおろか、そもそも作ろうとも思わないような代物であった。

B-747がトーイングカーに牽引され視察団がいる近くまで来るとその巨大さを一層感じた。

ドレイユはこの機体が彼らの最新技術の結晶なのだろうと結論づけた。
「長篠さん、貴方方の職人技は凄いな。政府専用のオーダーメイドとはいえ我々の工業力を結集したとしても、これほどの物を作る事は出来まい」

「いえいえ、これは一品物などでは有りませんよ。40年前から生産されて1500機以上売れているべストセラーですよ。我が国は胴体の素材などを供給しています」

!? 1500機....だと  こんな馬鹿でかい物が しかも40年前の旧式機  航空機の分野では完敗のようだな

「皆さま、それではそろそろ搭乗しましょう」
長篠はスケジュールを確認しながら、搭乗を促かした。
機体にタラップ車が横付けされた。

よく見ると、その車両もまたムーの物に比べるとがっちりした作りになっていて先進的だった。

タラップを登りながら、主翼についた異形のエンジンが目に入った。
「そこの技官 えーと....」
シャレルを呼んでいる。
「はい、空技局付きのシャレルです」
「シャレル君、我が国が同じ規模の機体を作ることは可能かね?」

「結論は不可能ですね。何から何まで足りません。全くです」
予想通りの答えが返ってくる。

「では、航空機の技術では彼我の差はどれほどかね?」
せいぜい2、30年ってところか と予想してみるが、返ってきた答えは意外な物だった。

「未知数ですね。エンジンをご覧下さい。あれと構造が同じ物を空軍で作ろうとしたんですが、内部が余りにも高温になる為実験のたびにパーツが溶けるというのが現状です」

「そこまで行ったのなら数年内に出来そうな物だが」

「確かに出来ない事は有りませんよ。10年もすれば60分程度の飛行に耐え得る素材は出来るでしょう。しかしその度に主要パーツをごっそり取り替えなければなりませんが。今回のフライトだけでも12時間程度かかりますから.....」

話しながら、機内に入ると確かに日本側の外交官が言ったように広くまるでホテルの様な内装だった。  天井は高く明るい照明が並べられていてC-8で感じた様な息苦しさはない。さらに未知の素材を使った内壁は綺麗で飛行機の構造材が全て覆い隠されている。
ドレイユは相手を見ずに皮肉った事を後悔した。

「皆さまの席はこちらになります」
視察団は随行員席に案内された。
民間機で言うとファーストクラスに当たるところだ。
「お手洗いは、このエリアには前後四箇所に有ります。他に何かお困りの事が有れば客室乗務員にお尋ね下さい」

それぞれが、席に着くと客室乗務員が現れ前から順番にシートベルトのチェックして行った。

しばらくすると、機体が後ろに動くのを感じた。
トーイングカーによるプッシュバックだ。

ヒュュュュュン
コンプレッサーが空気を圧縮して送り込み
点火、メインエンジンが始動する
ゴゴゴゴゴゴ


エンジンの始動なのだろうか、全く聞きなれない音だ。

数秒すると機体がゆっくり自走し始めた。

『この度は、ご搭乗頂き有難うございます。当機は間も無く離陸致します。シートベルトをしっかりと締め決して席をお立ちにならないでください。 Lady’s and gentlemen,welcome to.....』

窓の外を見ると機が滑走路に侵入したのが分かる。

ポーン ポーン 

?! なんの合図だ?
良くわからないチャイムが2回なったと思うと

ゴォォォォォォォ ガタガタガタ
突然エンジンが唸りだした。と同時に身体が後ろにひっぱられる。 離陸の合図だったのか!
窓の外に目をやると外の景色が途轍もない速さで流れて行く。初体験の加速度だ。

10分後

ポーン
『ベルト着用サインが消えました、ただ今よりドリンクサービスを開始します』
フゥ、どうやら無事離陸できた様だな。
それにしてもあの加速はとんでも無かった....。

それからしばらくして正午近くなると、なんと昼食にはフルコースが振舞われた。
まさか機内で高級ホテルの食事と遜色ない食事が出来るとは.... 

移動中でさえこれだけ驚愕すべき事がある。日本国本国はもっと凄いのだろう。
ムー本国に提出する報告書は信じて貰えるだろうか頭が痛い.....










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