我が魂よ最強を求むることなかれ。ただ自由の限界を汲み尽くせ!

横山剛衛門

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本編

12.大脱出

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「私達を解放してほしいの」

 幽霊少女はそう言った。成仏させろってことか?

 「でも俺達、供養とかその手の方法は知らんのだけど……」

「違うの、呪いを解いてほしいのよ。それには、この迷宮のさらに奥で、あるものを壊してくれればいいの」

 げ、まだ潜れってか。まあ、そもそも上に行く方法も分からんけどな。

「アビ、どうする?」

 手に載せた黒い石碑の欠片をじっと眺めていたアビは、顔を上げると、目を真っ直ぐ見返しながら俺の呼びかけに答えた。

「ええ、行きましょう。この恩を返さなきゃ」

 俺は頷いて、また幽霊少女を見る。もっと奥に行くのはオッケーだけど、何をすればいいのか、そこんとこもうちょっと詳しく。

「ありがとう……こんな日が来るなんて、信じられないわ」

 幽霊少女はまずお礼から話を始めた。だいぶ育ちのいい子だね。

「あなた達に行ってほしいのは、私達が『支配室』と呼んでいる所なの。あそこの通路が見える?」

 そう言って指差したのは、壁のかなり高い所にある穴だった。どうやって登ればいいんだ。

「あそこがその部屋に続いているはずなんだけど……詳しくは分からないの、ごめんなさい。ただ、そう思った理由は、私達をここに縛り付けた管理人が、いつもあそこから現れていたからなの。ずっと昔だけど、それだけは忘れないわ」

 ほーん、じゃあとりあえず行ってみる価値はありそうだ。

「どうやって登ればいい? 壁を這い上がるしかないかな? それはちょーっと骨が折れるなぁ」

「大丈夫、任せて」

 すると、幽霊少女は幽霊怪獣達に何事か呼びかけた。人の言葉ではない、なんというか、テレパシーが音になったみたいなキーンとかピーンっていう高周波的な……もしかしてこれって幽霊の言葉かな?
 そうして、幽霊怪獣達は呼びかけに応じたようで、いきなり壁を崩し始めた。うおい、びっくりするやんけ。

「どう? これで登っていけるわよね」

 誇らしげに幽霊少女が見せたのは、崩れた壁の岩が階段状になった道だ。
 さすがに段差は不揃いだし断裂もあっておおざっぱだけど、うん、これなら通路まで歩いていける。

「もしあそこが支配室に繋がっていたら、その部屋を見ればきっとどうすればいいか分かるはず。さ、お願い。行ってきて」

 割と投げっぱなしの説明だったが、幽霊少女だって全部分かるわけじゃなかろうから、それで十分だ。
 そうして、俺のアビの二人で岩伝いに登っていく。
 幽霊少女はそれを地面から見守っていた。
 やっぱりここを出て一緒には来られないってことかな。そうできるなら、ずっとここにいることもなかっただろう。


「いよし、行ってくるよ!」

「待っててね!」

 穴まで辿り着いたところで振り返り、はるか下の方にいる幽霊少女に向かって手を挙げる。
 幽霊怪獣達も、じっとこっちを見守っていた。何を考えているのかは分からないが、俺達に期待していることは感じられる。
 この空間に辿り着く前に感じられた気配の正体は、いまだ謎のままだ。でも、ソレからはかなり攻撃的な意思がひしひしと伝わってきていた。
 幽霊怪獣達のことを警戒したのか、離れたようだが、まだ諦めていないだろう。この先、出会うかもしれないな。

「さて、俺が先でいいね」

「はい、お願いね」

 通路はレンガだか何だかでしっかり固められていて、壁や天井、足元はしっかりしているが、やはり暗い。
 今回も引き続き俺が先頭を行き、アビには後ろを守ってもらう。
 しばらくすると、ついにモンスターが出た。ネバネバした体を持つゲル状のスライムだ。

「こいつに剣は効かないわ、魔術を撃つから下がって!」

 おお、アビは魔術を使えたのか! そりゃ魔力が高いことで有名なエルフだもんな。

「炎よ、疾れ! 『火槍』!」

 メラメラっと燃え盛る槍がアビの手の中に生まれ、それがスライムめがけて飛んでいく。
 命中! ナイスコントロール!
 ボボボっと燃え上がったスライムは、やっぱり魔石も何も残さず消え去った。ということは、地下だけど上と同じ迷宮なのかな。

 その後も何度か、モンスターが襲ってきた。スライム、大蜘蛛、毒ワームなどなど、いかにも地下に出そうなキモ系ばかりだったので、アビの炎の魔術が大活躍だった。

「いよっと!」

 俺の魔剣が毒ワームを切り裂く。デロデロっと体液が飛び散って、うわばっちぃ。
 はっきり言って大したことのないモンスターばっかりだが、いかんせん得るものがないのでやればやるだけ倒し損な気がしてならない。

「はぁはぁ、ちょっ、ちょっと休みませんか?」

 ついにアビが音を上げて、少し開けた所で足を止めた。アビはそこで地面に座り込んでしまう。

「ほい、これ飲んで」

 アイテムボックスからポーションを取り出して渡すと、ぐびぐびっと飲み干す。

「じゃあ、聞いていいかな? 詳しい事情」

 あの時は幽霊少女もいたし、何より幽霊とはいえ怪獣に囲まれてたらゆっくり話すことはできなかった。
 ここもあんまり落ち着けないが、まあマシだろう。

「そうですね……私が故国を救うためにこの国に来た、ということは話しましたね。そのために、この迷宮でコレを手に入れる必要があったことも」

 腰のベルトに吊るした、あの黒い石碑の欠片が入った袋に触りながら、アビはゆっくり話を続ける。

「まず、これが何なのかというと、特別な力を持つ魔宝アーティファクトーー怪獣を殺す力を持つ、いわば毒です」

 毒! 俺、めっちゃ触っちゃったよ。てかアビも……あ、なら大丈夫ってことかな?

「怪獣と呼ばれる巨大モンスター種にだけ効果を発揮する、正体不明の魔法の力があるそうです。これを持ち帰って再現できれば、我が国を荒らし回っている怪獣も一掃できるでしょう」

 少し目を細め、穏やかな顔を見せるアビ。故郷を思い出しているのだろう。

「そしてこれを持って帰ることでーー私は、女皇になれるのです」

 女皇……そうだ、アビは自分のダガーが皇族に伝わるものだ、と言っていた。つまり、アビはやっぱり皇家の生まれなんだ。

「しかし、それを阻もうとする者もいるのです。私は、それに負けたくない」

 アビの目に、キッと力がこもる。
 何だか、話が混みいってきたぞ? 俺は静かに、アビの話の続きを待った。
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