我が魂よ最強を求むることなかれ。ただ自由の限界を汲み尽くせ!

横山剛衛門

文字の大きさ
15 / 39
本編

15.燃えよ魔剣

しおりを挟む
 巨体の割に意外と素早い岩巨人のパンチを、俺はスレスレのところで躱す。遅れて届いた風圧も大したもので、ちょっとビックリしたぜ。

「危ない! 距離をとって、イヌイ……っ⁉︎」

 アビは今の紙一重の様子を見て、俺に余裕がないと踏んだようだが、それは違う。
 その証拠に、岩巨人の腕は肘のところで斬り落とされている。もちろん、俺の仕業である。

「まさか、今の一瞬で……? しかもジョセフの魔剣が通じなかった相手なのに……」

 アビが驚いているものの、そこは単純に、俺の腕とこの魔剣があいつのより優れてただけの話だ。正直、ジョセフの剣は瞬間移動の力に頼りきっていて大したことはなかった。

 「アビ、こっちは大丈夫。そっちも自分の身は自分で守れよ。すぐ片付けるからさ!」

 相手は二体いるのだ、俺一人で両方引き受けたいところだが、そううまくいくとは限らん。少なくともこっちを片付けるまで、アビも一人で頑張ってもらおう。

「ーーはい!」

 いい返事! さあ、かかってきな、お人形さん。

「グガアアア」

 今度は虫を蹴散らすような横蹴りが来る。地面に近い分、パンチより早く俺の体に迫るがーー

「ぃよいしょお!」

 掛け声と共に、俺は魔剣を横薙ぎにして迎え撃った。
 この体格差じゃ、そんなの普通は自殺行為だろう。だが、現実に魔剣は岩巨人の足首を斬り飛ばし、もはや立っていられなくさせた。
 ズシン、と腹に響く音を響かせながら相手が片膝をついたところで、こっちの第二撃。
 狙いは、やっと間合いに入った首。スパンと一発で捉えて胴体と頭をお別れさせてやる。

「よし。アビ、今行く!」

 見れば、アビは全速で走りながら、追いすがるもう一体の岩巨人の連続突きを躱していた。ドドドド、とマシンガンを乱射したかのように次々と地面に穴が開いていく。

「イ、イヌイ! もう、限界、です……!」

 スピードに自信のあるアビを追い詰めるとは、岩巨人恐るべし。
 だがーー俺ほどじゃない!
 巨大な拳がアビを押し潰す寸前。俺は強く強く踏み込んで、一歩で岩巨人との距離を潰す。
 それから思いっきりジャンプして、後ろから奴の首を両断した。

「お待たせぃ! 大丈夫か?」

 岩巨人の拳はアビに届く前に地面に落ちていた。俺は、座り込んでしまった彼女に手を差し出して立たせてあげる。

「あ、ありがとうございます……というかちょっと待ってください。この巨人達、アーティファクトの守護者ですよね? Aランク冒険者だっておいそれとは勝てないはずなのに、それをこんな簡単に倒すなんて、どういうことなんですか⁉︎ あのジョセフ兄様だって秒殺されたのに、しかもそれを二体相手にして無傷で完勝って……いくらなんでも非常識すぎますよ!」

「いいじゃん、勝ったんだから。あえて言えばこの剣のおかげだよ。攻撃が通じなかったらそりゃ勝てないからね」

 ホントは、徒手空拳でもいけたような手応えだったけど、ややこしくなるから今は黙っとこ。

「とにかく、幽霊少女の頼みは果たせたよね。もっかい戻って話してくるかな?」

「その必要はないわ。私、ここよ」

 お、俺達が上がってきた通路を振り返れば、幽霊少女が立っている。アーティファクトの呪縛が解けて、ここまで来られるようになったんだな。

「私達を解放してくれて、本当にありがとう。何か罠があるかもとは思っていたけど、こんなモンスターが出るなんて……ごめんなさい、危険な目に遭わせてしまって」

「大丈夫、無傷も無傷、大無傷よ」

 ニッと笑いかけてサムズアップ。知ってて教えてくれなかったならヒドいけど、知らんかったならまあしゃーないわ。オッケオッケ。

「あのアーティファクトには、怪獣達を操る力があったの。私は生まれつき怪獣達と心を通わせる力を持っていて、それを利用して造られたんだけど……暴走してしまって、怪獣達は皆死んでしまった。そして私もそれに巻き込まれて、ここから離れられなくなった……」

「そうか……でも、これでもう大丈夫なのか? ゴーストってことは、解放されたら、えーとその、しょ、昇天する……のかな?」

 よくよく考えるゴーストが解放されるってのは、この世から消滅するってことだよな、と気付き、どう言っていいのか分からなくなってしまった。

「いいえ、私の魂はまだこの世にいられるの。というのは、肉体から取り出されただけで、死んでしまった時とは違うから。そして今、縛り付けていたものが消えて自由になったわ。どこへでも行けるの、あなた達と一緒にも、ね」

 ああん? 何が言いたいのかしらん?

「私、あなた達に興味湧いてきちゃった。こう見えて、結構役に立つわよ。だって体がないからたいていの攻撃は効かないし、どこへでも潜り込んで来れるもの。どう? パーティに加えたくない?」

 あ、仲間になりたいの? 役に立つ、か。そう言われりゃそんな気もしてくるな。

「今でもまだ、怪獣と心を通わせることはできるのか?」

 あ、そうか。もしそうなら、アビの国を荒らしている怪獣問題の解決に役立つかもしれないな。

「多分、大丈夫よ。試してないけど」

「あの幽霊怪獣達はどうなったんだ?」

 俺が聞くと、幽霊少女の顔が少し暗くなった。

「みんな、天に召されたわ。彼らは本当に死んでしまっていたから……それでよかったのよ」

「そうか。ま、なら何よりだ。さて……アビ、どうする?」

「ええ、私に異論はないわ。あなたの判断に任せる」

 特に反対意見もないとくれば、話は決まりだ。

「じゃ、一緒においで。この先何があるか分からんが、何かあるまでは任せとけ」

 握手……は無理だから、代わりにグータッチの振りで改めて挨拶。

 こうして唐突に不思議な仲間が増えたが、ま、万事アバウトな俺らしくていいんでないかな?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...