部屋とワイシャツとビッチ

麻田夏与/Kayo Asada

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最終話.良い生徒でしたか  ※R18

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 怒濤の夏が終わり、足早な秋が過ぎようかというころ、佑のスポーツ推薦の結果が出た。研究室で佑からのメッセージを受け取って、逸樹はにんまりとする。
 誰もが予想したとおり、合格だった。
 すぐさま白嶺にも結果を共有し「お前は怪我すんなよ、って言っとけ」と言伝をもらう。素直じゃないひとが、随分素直に褒めたものだ。
 都内の名門野球部の椅子が約束された教え子におめでとうと言うため、逸樹は佑の家に行った。しかし、着いた途端に佑の両親から頭を下げられ、参ってしまった。逸樹が教えたのはせいぜい小論文の書き方くらいで、他は全て佑自身の実力なのだから。
 井上家では、こんなめざましい結果を出した子供は初めてらしく、親戚一同が近くの小さなイタリアンを貸し切ってお祝いしてくれるのだという。

「おれも行っていいの?」
「勿論。逸樹さんのお陰ですから」
「違うって言ってんのに」

 佑の両親と弟は「準備しているから主役は後でいらっしゃい」と言い残して家を出て行った。思ってもみないタイミングで二人きり。だが、都合は良い。
 佑の部屋に行って、逸樹は合格祝いのキーホルダーを差し出した。こんなの、ご両親の居る場所では見せられない。

(でも、いつかは言わないとな)

 佑とちゃんと、付き合っていくならば。佑がそれを、望むならば。

「今回はちゃんと一人で探したからな」
「……逸樹さん、中に鍵入ってますけど」
「おれの部屋の鍵。来るだろ?」

 格好付けたのが恥ずかしい。だが、落っこちそうなほど目を見開いた佑に、このプレゼントで正解だったのを逸樹は知った。
 スター選手の判子を押された体格の良い生徒に、突進のような勢いで抱きつかれて、ちょっと痛い。でも逸樹にとっては、その痛みすら愛しいから、困ったものだ。

「逸樹さん、もう一個、ご褒美をください」
「……うん」
「逸樹さんが欲しい」
「……うん」

 逸樹はそっと、佑を抱き返した。だって、逸樹は。

「俺を好きになってください」
「もう、好きだって。……知ってるだろ」
「実は、まあ」

 そうしてベッドに押し倒された。いつもは折り目正しい、皺のほとんどないYシャツの教え子なのに、まるで野獣みたいで、逸樹はときめいた。
 キスが甘い、なんて逸樹は今まで思ったことはなかった。なのに佑との口付けは酔ってしまいそうに甘くて、それでいて胸が切なくなる。

「佑……ぅ、好き。ぎゅっとして」

 そうじゃないと、酔いが回って訳が分からなくなる。佑に抱かれるのだと、ちゃんと感じたいのに。

「逸樹さん、あまり、急かさないで。俺が我慢できなくなるから」

 困ったように笑うのすら、色っぽくて、こっちが困る。逸樹の中で、欲望がどんどん膨らんで、出口を探して性器に熱を集める。

「しょうがないだろ、ビッチがずっと据え膳食わずに待ってたんだぞ」

 好きだと微笑んでくれる大好きなひとと、ビッチの自分がセックスできない辛さ。きっと佑には理解できないだろう。

「逸樹さんはビッチじゃないです」
「いや、そんなことはないけど」

 意味不明の慰めを受けたので、逸樹は即座に否定する。だのに佑は得意げだ。

「俺に美味しく頂かせるために、他の男たちが逸樹さんの味を良くしただけです」
「何だよ、それ!」

 童貞の考えることはすごい。まあ、逸樹も童貞ではあるのだが。想像を絶する上から目線の嫉妬の収め方に、逸樹は笑い声を上げるしかない。しばらく笑っていたら不服そうな佑に、祝賀会用に着てきたドレスシャツのボタンを外されたので、そのうち笑っていられなくなった。

「きれいな肌ですね。手に吸い付く」
「……褒め方がオヤジ臭い」
「折角感動してるのに、何てこと言うんですか」

 そうして、胸元に吸い付かれて、逸樹は簡単に喘ぎ声を上げてしまう。これも佑に言わせると『味を良くした』になるのだろうか。

「可愛い。その声をずっと聞いてみたかったんです」
「……ん。じゃあ、もっと、聞きたいだろ」
「ええ」

 舐られ、歯先で遊ばれ、吸われて、力が抜ける。気持ち好い、しかもう逸樹は分からなくなりそうになって、自分を叱咤する。
 だって、今は。

「初夜、だよな」
「え?」
「好きなひととセックスするの、おれ、初めてだから」

 佑の顔から表情が消える。だがすぐに、目許を赤くして、泣きそうな顔になった。

「逸樹さん。俺のこともてあそんでます?」
「何でだよ。本心だって」
「ああもう、俺がどれだけあなたを好きか、分かってますか」

 知っている、つもりだった。
 なのに、口腔の中で暴れるのも、逸樹をどんどん丸裸にしていく佑の、荒いのに柔らかな手つきも、優しくて、それでいて情熱的で。
 どんどん、乱される。
 性器にふれられたときには、そこはもう、蜜をこぼして佑の手を待っていた。撫でられるだけで、背を反らしてしまうほどに、気持ち好い。

「はぁ……っ、佑、っ」

 腰を突き出し、彼の指を自分自身に絡めさせて──淫らな自分を逸樹は恥じるが、それでももっとして欲しい。佑の手に導かれたい。そればかりを欲望して、どんどん溢れる、逸樹の透明な雫。

「ん……っ、あ、きもち、いい」
「……駄目だ。逸樹さんが可愛すぎて、頭がおかしくなりそう」

 獰猛な目をした佑に心臓を鷲掴みにされる。おかしくなって欲しい。逸樹の所為で、逸樹に狂って欲しい。逸樹が佑の所為でそうであるように。

「佑、……おねがい、イかせて」
「……っ、その目、卑怯です」

 今、どれだけ自分が卑猥な顔をしているか、逸樹には分からない。媚びるのでなく、誰かの顔色を窺った演技でなく、逸樹自身が好きで善がっている。ただ、佑に好かれたくて、愛されたくて。

「……っあ、イく、……っ」

 吐き出す快楽、が、押し寄せる。好きなひとの目線に焼かれながら絶頂するのが、こんなに嬉しい。それを知れたのが、逸樹はしあわせでならない。
 肩で息をしていると、佑が抱きついてくる。まだYシャツを着ている彼だ、汚してしまって大丈夫かと思うのに、桃色に色付いた脳は佑の腕に歓喜して『もっと』とそればかりを叫ぶ。

「ああ。ずっと、見たかったんです、その顔」

 佑の、その声の艶ときたら。耳に落とされるだけで、また達してしまいそうで。整わない息のまま、逸樹は佑にしがみ付いた。

「ずっと、逸樹さんを俺だけのものに、したくて。なのに」

 背骨の軋むほどに、強く。逸樹を抱き締めた佑が、キスを一つくれて、苦笑する。

「……困るな。逸樹さんがきれいすぎて、本当に俺のにしていいのか、迷っちゃいます」

 そんな風に、焦らさないでと願う。
 だって、佑のために熟れた身体なのだ。全部、残さず、食べて食らって愛して欲しい。

「たすく、お願い、もう」

 逸樹は甘ったるい舌で乞い、腕を彼の首に回す。こんなに余裕を無くすなんて、想像もしなかった。年上の、ビッチの技巧を思い知らせて、まるで淫魔のように佑を誑かそうと、思っていたのに。

(これじゃ、おれが誑かされてる)

 だってもう、自分では指先一つさえ、自由にならない。
 佑、佑、佑と。
 全身が彼を求めて彷徨って、ここだよと呼ぶかのように、色付いている。

「お願い、挿れて」
「……あなたは、もう……っ」

 いつ佑に襲われてもいいように、鞄の中にローションを常備していると逸樹は告白したのだが、佑は首を振って、ベッドサイドの引き出しから同じものを取り出した。

「そんなの、いつから」
「逸樹さんを好きになって、すぐ」

 それは随分と、出番待ちをさせてしまった。だから、ではないが。存分に役立たせてやろうと、足を開く。佑が好きで、佑が欲しいから、足を開いた。

「……すごく、きれいです、逸樹さん」
「そんな訳、ないだろ。ただの穴なんだから」
「違う。ここは、俺を待ってた、健気な」
「……健気な?」

 佑が少し考えた様子を見せるが、思い付かなかったようだ。二人、顔を見合わせて笑ってしまった。

「何でもいいんです。健気なんで」
「健気か。使い込まれてこんなになってるけど」
「これから先は、ずっと俺だけのなんで、いいんです」

 そうして、温められたローションを纏った指が、入ってくる。それだけで、待ちわびた身体は歓喜し、内襞をうごめかせる。

「……おれ、緩くない? がっかりしてないか、佑」
「全然。ふかふかですごいです」

 入り口近くをほぐされて、その辺りは弱いのだと、早速佑に覚えられる。声を上げるのを我慢できない自分が恥ずかしいのに、佑がしあわせそうにこちらを見下ろすので、まあいいかと思ってしまう。

「う、あ……っ、そこ、も、好き。気持ち好い……っ」

 前立腺のしこりを扱かれて、びくびく全身が跳ねる。まだ指を咥えているだけなのに、口を閉じられなくなって、唇の端からは唾液が溢れている。我ながら、何てはしたないのだろうと逸樹は思うのだが。

「可愛い、顔。もっと見せてください」

 そう言うくせにキスを与えられて、溶ける。このままだと、熱い液体になってしまいそうだ。

「たすく、たすく……っ、早く、ちょうだい、おれもう、だめ」
「……痛くさせちゃうかも、しれませんよ。俺だって余裕ないし、童貞なんで」

 そんなの、大歓迎だ。『童貞食いのビッチ』だからじゃなく、佑の全部が欲しいから。

「いいから……っ! 佑の初めて、おれにちょうだい」

 快楽も、体液も──痛みすら。佑に与えられるならきっと、愛しいから。

「あなたは、……もう、っ。優しくしたかったのに」

 コンドームも付けないまま、熱さが入り込んできて、それだけで射精してしまった。ビッチの名折れすぎる。ますます佑のYシャツが汚れる。これはきっと、義母さんに気付かれるやつだ。

「……っ、搾り取る気、満々じゃないですか」
「違う、だって、何か嬉しくて」
「だから! 俺を煽って楽しいですか!」

 一気に貫かれて、意識が飛びかける。だけど、噛みしめたい。佑が、中にいること。二人、繋がっていることを。

「泣かないで、ください。痛かったですか? ごめんなさい」
「痛く、ない。しあわせな、だけ」
「……俺も、です」

 そうして、腕の中、揺すぶられる。テクニックもない、ただの抽送だ。なのに、逸樹はどんどん肌が熱くなって、心臓が焼けるようで、そして吐息は火のようだ。

「佑。たすく、たす、く……っ」
「逸樹さん。いつき。いつき」

 呼び合って、求め合って。気持ち好くて、しあわせ。ひどく意識が希薄なのに、身体はどこまでも熱くて、擦れ合う場所が溶けている。

「たすく、たすく。おれの、中に」

 出して、と。
 それだけは誰にもさせなかったのに、今、佑の遺伝子が欲しい。孕めないし、実らない。知っている。なのに、自分の身体の奥に佑が残るかと思うと、それがたまらないのだ。

「……そんなこと、させて、いいんですか。癖になったらどうするんです」
「おれも、癖になる、かも、しれないだろ」
「ああもう、口を閉じて! そんなの言われた男がどうなるか、想像してくださいよ!」

 想像しなくても、分かった。佑自身が腹の中で固く、膨張したから。

「はぁ……ん、っ、もっと、奥、突いて」

 強請って、そうされて。もう息もできない。

「逸樹さん。好きです。俺のお嫁さんになって。ずっと、側に居て」

 頭の中ではもう、お嫁さんのつもりだったし、佑の母を義母扱いしていたなんて、言えないから。
 にっこり笑って、頷く。

「はい」

 そのまま佑に高められて、到達して。腹の底に注がれるのは、やっぱり癖になった。



「違うんです。中出しとかする気じゃなかったんです。逸樹さんに入ることしか考えてなくて、俺の状態に気が及ばなかったというか」

 そう釈明する佑に「ふうん?」と揶揄って逸樹は笑う。悄気返る年下の男が可愛くてならない。
 佑は、ローションを準備していたのにコンドームを買っていなかったのだ。二回戦目をしようとして、二人、それに気が付いた。その結果、逸樹は大笑いし、佑は反省モードになっている。

「別に、いつでも出して良いけど」
「そういう訳にいきません! 腹痛になるって言うでしょ」

 あんなのは都市伝説かと思っていたのだが、笑い転げている間に、逸樹の腹に知らない痛みが襲ってきて、慌てて風呂を借してと佑に懇願した。
だが、階下に向かおうとする逸樹を、佑が呼び止めた。曰く。

「俺は良い生徒でしたか」

 生徒と家庭教師の枠を飛び超えてきた男が、そんな、雨に濡れる子犬みたいな顔をしないで欲しい。だから。

「百点、じゃないか?」

 逸樹からキスして、額にはなまるを書いてやった。
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