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第一章 一方的な仕打ち
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駅までこんな距離があったっけ、と何となく違和感を感じ、いつもの妄想を振り払ってあらためて周りをよく見渡してみると、違う。雰囲気が違う。でも嫌悪感はない。好ましい雰囲気だ。改めて、よく回りを眺めた。男性の姿が全く見えなかったのだ。廻りの帰宅を急ぐ大勢の人たちは全て女性だ。
中には自分の親よりも年上かと思われる年配の人もいたが、お婆さんだけだ。子供たちの嬌声が聞こえ、見ると幼稚園児の集団だったが女の子ばかりだった。道を歩く人ばかりでなくコーヒーショップの客も居酒屋のビラ配りも女性だけだった。若い男で溢れかえっているPCショップも商品を見ている客は全部女性だった。いつもいかつい警察官がにらみをきかせている交差点の交番も今日は婦人警官だった。いつも大勢のサラリーマンにもみくちゃにされながら駅に向かっているのに、今日はOLだらけだった。それでも女性に囲まれていることでほっとする気持ちになってきた。
オフィス街から繁華街を抜け駅に向かって歩いていたはずなのに、いつの間にかケバケバしいネオンが見当たらなくなっていた。歩く道筋の周囲は住宅街に変わっていた。職場の近くにこんな住宅街があるとは知らなかった。私の周りを歩いていた人たちの顔ぶれも変わってきた。帰宅途上や買い物帰りの人、犬の散歩やジョギングをしている人、退勤者の大集団に比べればだいぶ少なくなってきたとはいえ、まだ大勢の人がいる。しかし、相変らず女性の姿だけで男性は全くいなかった。
そのうち、自分の進むべき方角がどちらだったのか分からなくなった。恐らく人が大勢やって来るほうが駅なのだろうと当たりをつけ、人波に逆らうように歩き続けた。繁華街に向かって歩いているつもりだったのに、徐々に市街地からはずれマンションやアパートは次第に少なくなり、やがて人家は古い一戸建ての住宅が立ち並ぶ閑散とした住宅街になってしまった。途方に暮れたものの、廻りを歩く女性たちもまばらになり、現在地の確認もしようがなくなってきた。そのうち、徐々に人家も減り道幅も狭くなり荒れ果てた農地や潅木が目立つようになった。周りの女性たちも、自宅に帰りついたのか更に少なくなった。
いつの間にか人家が途切れ荒涼とした風景が広がっていた。舗装は途切れ石ころだらけの道を歩いている私以外の人は、恐らく繁華街を歩いていたときから私の後をずっと歩いている女性一人になっていた。一流企業のOL風の若い美しい女性だった。振り返ると目があった。微笑をかえしてくれた。こんな妙齢の女性が、どうしてこんなひと気の全く途絶えた原野の中の道を歩いているのか不思議だった。
日暮れ近い薄暮がいきなり闇を増した。いつの間にか鬱蒼とした深い森に彷徨いこんでいた。
「道を間違えてしまったようですね。」と、後を歩いているはずの女性に声をかけた。
返事がなかった。足を止めて後ろを振り返ってみたが女性の姿はなかった。ついさっきまで歩きづらそうなヒールの靴音が聞こえていたはずだ。分かれ道もなかった。森の中に人が入りこむような民家どころか、中に隠れるような廃屋や祠すらもなかった。その女性は忽然と姿を消していた。
私はどこを歩いてきたんだろうか。どこに向かっているのだろうか。自宅のある郊外に通じる鉄道の駅に向かっていたはずなのに。前後左右どこを見渡しても森の途切れ目はなかった。ただひたすらに鬱蒼とした濃い緑が続いているだけだった。そして下草に覆われた獣道がずっと前に続いていた。私はその道に沿ってひたすら歩き続けるしかなかった。
たしか職場を出たのは夕方だった。住宅街に入ったところで日暮れが迫り薄暗くなっていた。そのあとほとんど暗闇のような森に入ったはずだった。しかし、いつのまにか明るくなっていた。しかし太陽が差し込んでいるわけでもなく、ただひたすら続く獣道が視認できるだけの薄明るい状態だった。
ひたすら歩き続けた。立ち止まって傍らの岩に腰を下ろしたとたん二度と目覚めのない眠りにつくのではないかとの脅迫感から、足を止めることもできなかった。足の疲労はとめどもなく進み、時間の観念もなくなった。一日山歩きをした経験と比較しても、丸一日以上歩き続けたような疲労度合だった。日が暮れる様子も無かった。燦燦とした日光が木の葉の間から差し込んでくることもなかった。ただぼんやりと薄明るい状態が延々と続いていた。鳥のさえずる声も聞こえず、わずかな風にざわめきをたてる森の中の獣道をひたすら歩き続けた。空腹とのどの渇きも激しかったが、食べられる植物や水分を求めて道を外れ森の中に踏み込む勇気もでなかった。
どれだけ歩き続けても変化のない深い森に、何日経ったのかもわからなくなっていた。空腹と疲労は極限に達し、自分が生きているのか死んでいるのかすらよくわからなくなり、足はまるでゼンマイ仕掛けの人形のようにただ繰り返し前後によろよろと動き続けていた。
いつのまにか疲労と空腹で倒れていたのだろうか、ふと気が付き体を起こし辺りを見回すと、気が遠くなるほど続いていた鬱蒼とした森が途切れ、明るい日が地面を照らしていた。そして、前方を見るといきなり現れたのは西洋風の巨大な城郭、左右を見渡しても果てしもなく城壁が続いている。世界遺産に指定されてもおかしくないような堂々たる建造物だ。21世紀の世界に唐突に出現した全く現実味のない古色蒼然とした石造りの建造物に向かって、私は疲労と空腹に崩壊寸前の体に鞭をうって最後の力を振り絞り立ち上がろうとした。しかし、体を起こすことはできず、四つん這いで、ロココ調の豪華絢爛な装飾に飾られた門に近づいていった。
中には自分の親よりも年上かと思われる年配の人もいたが、お婆さんだけだ。子供たちの嬌声が聞こえ、見ると幼稚園児の集団だったが女の子ばかりだった。道を歩く人ばかりでなくコーヒーショップの客も居酒屋のビラ配りも女性だけだった。若い男で溢れかえっているPCショップも商品を見ている客は全部女性だった。いつもいかつい警察官がにらみをきかせている交差点の交番も今日は婦人警官だった。いつも大勢のサラリーマンにもみくちゃにされながら駅に向かっているのに、今日はOLだらけだった。それでも女性に囲まれていることでほっとする気持ちになってきた。
オフィス街から繁華街を抜け駅に向かって歩いていたはずなのに、いつの間にかケバケバしいネオンが見当たらなくなっていた。歩く道筋の周囲は住宅街に変わっていた。職場の近くにこんな住宅街があるとは知らなかった。私の周りを歩いていた人たちの顔ぶれも変わってきた。帰宅途上や買い物帰りの人、犬の散歩やジョギングをしている人、退勤者の大集団に比べればだいぶ少なくなってきたとはいえ、まだ大勢の人がいる。しかし、相変らず女性の姿だけで男性は全くいなかった。
そのうち、自分の進むべき方角がどちらだったのか分からなくなった。恐らく人が大勢やって来るほうが駅なのだろうと当たりをつけ、人波に逆らうように歩き続けた。繁華街に向かって歩いているつもりだったのに、徐々に市街地からはずれマンションやアパートは次第に少なくなり、やがて人家は古い一戸建ての住宅が立ち並ぶ閑散とした住宅街になってしまった。途方に暮れたものの、廻りを歩く女性たちもまばらになり、現在地の確認もしようがなくなってきた。そのうち、徐々に人家も減り道幅も狭くなり荒れ果てた農地や潅木が目立つようになった。周りの女性たちも、自宅に帰りついたのか更に少なくなった。
いつの間にか人家が途切れ荒涼とした風景が広がっていた。舗装は途切れ石ころだらけの道を歩いている私以外の人は、恐らく繁華街を歩いていたときから私の後をずっと歩いている女性一人になっていた。一流企業のOL風の若い美しい女性だった。振り返ると目があった。微笑をかえしてくれた。こんな妙齢の女性が、どうしてこんなひと気の全く途絶えた原野の中の道を歩いているのか不思議だった。
日暮れ近い薄暮がいきなり闇を増した。いつの間にか鬱蒼とした深い森に彷徨いこんでいた。
「道を間違えてしまったようですね。」と、後を歩いているはずの女性に声をかけた。
返事がなかった。足を止めて後ろを振り返ってみたが女性の姿はなかった。ついさっきまで歩きづらそうなヒールの靴音が聞こえていたはずだ。分かれ道もなかった。森の中に人が入りこむような民家どころか、中に隠れるような廃屋や祠すらもなかった。その女性は忽然と姿を消していた。
私はどこを歩いてきたんだろうか。どこに向かっているのだろうか。自宅のある郊外に通じる鉄道の駅に向かっていたはずなのに。前後左右どこを見渡しても森の途切れ目はなかった。ただひたすらに鬱蒼とした濃い緑が続いているだけだった。そして下草に覆われた獣道がずっと前に続いていた。私はその道に沿ってひたすら歩き続けるしかなかった。
たしか職場を出たのは夕方だった。住宅街に入ったところで日暮れが迫り薄暗くなっていた。そのあとほとんど暗闇のような森に入ったはずだった。しかし、いつのまにか明るくなっていた。しかし太陽が差し込んでいるわけでもなく、ただひたすら続く獣道が視認できるだけの薄明るい状態だった。
ひたすら歩き続けた。立ち止まって傍らの岩に腰を下ろしたとたん二度と目覚めのない眠りにつくのではないかとの脅迫感から、足を止めることもできなかった。足の疲労はとめどもなく進み、時間の観念もなくなった。一日山歩きをした経験と比較しても、丸一日以上歩き続けたような疲労度合だった。日が暮れる様子も無かった。燦燦とした日光が木の葉の間から差し込んでくることもなかった。ただぼんやりと薄明るい状態が延々と続いていた。鳥のさえずる声も聞こえず、わずかな風にざわめきをたてる森の中の獣道をひたすら歩き続けた。空腹とのどの渇きも激しかったが、食べられる植物や水分を求めて道を外れ森の中に踏み込む勇気もでなかった。
どれだけ歩き続けても変化のない深い森に、何日経ったのかもわからなくなっていた。空腹と疲労は極限に達し、自分が生きているのか死んでいるのかすらよくわからなくなり、足はまるでゼンマイ仕掛けの人形のようにただ繰り返し前後によろよろと動き続けていた。
いつのまにか疲労と空腹で倒れていたのだろうか、ふと気が付き体を起こし辺りを見回すと、気が遠くなるほど続いていた鬱蒼とした森が途切れ、明るい日が地面を照らしていた。そして、前方を見るといきなり現れたのは西洋風の巨大な城郭、左右を見渡しても果てしもなく城壁が続いている。世界遺産に指定されてもおかしくないような堂々たる建造物だ。21世紀の世界に唐突に出現した全く現実味のない古色蒼然とした石造りの建造物に向かって、私は疲労と空腹に崩壊寸前の体に鞭をうって最後の力を振り絞り立ち上がろうとした。しかし、体を起こすことはできず、四つん這いで、ロココ調の豪華絢爛な装飾に飾られた門に近づいていった。
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