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第八章 消えていく人たち
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コーヒーショップに寄ったりリーダーに会ったりして、職場に着いたのは、始業時刻に間に合わなかったわけではなかったものの、いつもより少し遅くなってしまった。
そのせいか、ロッカーの前の着替えスペースに入った私を見る同僚の女性たちの視線は冷ややかだった。ブラウスとスカートを脱いで、この前ようやく手に入れた裾に花模様の刺繍がたっぷりとはいった短めのピンクのスリップ姿になると女性たちの目付きは一層厳しくなった。女性たちも大半は下着姿で肌もあらわになっていることから、さっそくスキンシップを試すことにした。ストッキングをはきかえるときわざとよろけてみた。隣りにいたブラジャーとショーツだけになっていた女性に倒れ掛かった。
「何、この新入り女、こんなわざとらしい下着なんか身に着けてあたしにすり寄ってきて。」
汚らわしそうなふりをしてたくみに避けた。軽蔑のまなざしを私に向けると、そそくさと制服を身に着け自席に立ち去った。
「あんた、馴れ馴れしいんだよ。新入りは隅っこで遠慮がちに着替えるもんだろ。」
お局さま風の女性が部屋の片隅を指さした。空ペットボトルが溢れかえっているゴミ箱の脇だった。
「ゴミ箱もきれいに片付けておくんだよ。」
スキンシップができるような雰囲気は全くなかった。私も制服のブラウスとスカートを身に着けるとゴミ片付けに専念した。昨日までは辛かった先輩や同僚の厳しい目も、ひょっとしたらこの人たち、私の背景でしかないのかもしれない、と思うとかなり気が楽になっていた。
片づけを終え席に着くと、今度は隣席の女性とのスキンシップを試みた。いつもネチネチと言葉攻めにしてくる隣の席の女は、やけにネイルに凝っていた。今日も派手な原色をたっぷりとつかった自分の爪をしきりと眺めていた。
「いつも思ってたんですけど、素敵なネイルですね。」
「どうしたの、ずいぶん急にあたしのことを褒めだすのね。何かたくらんでる?」
「私もしてみようかなと思って、よく見せていただけませんか。」
机の上に置かれていた彼女の左手に私は手をのばした。彼女は避けることもなく、手を引っ込めることもなかった。彼女の手に直接触れることができる、ひょっとしたら彼女は・・・
「あんた新入りのくせに居眠りしてんの? 度胸いいわね。」
上司の声で気がついた。私は机にうつ伏せになって気を失っていたのだ。
「この人、ちょっと変なんですよ。私の手を突然握ろうとして、そうしたらいきなり机に倒れこんじゃって。」
隣席のネイルの女性は上司に訴えた。
「リーダーの顔をたてて使ってやってるのに、なんていう女!」
青筋をたてて睨め付けている上司の平手が私の頬に飛んでくるような気がした。でも飛んでこなかった。口撃は強烈だったが上司は私の身体には指一本触れなかった。
「申し訳ありません。ちょっと眩暈がして。もう大丈夫です。」
私を睨みつけていた上司は、舌打ちをして離れていこうとした。
そのせいか、ロッカーの前の着替えスペースに入った私を見る同僚の女性たちの視線は冷ややかだった。ブラウスとスカートを脱いで、この前ようやく手に入れた裾に花模様の刺繍がたっぷりとはいった短めのピンクのスリップ姿になると女性たちの目付きは一層厳しくなった。女性たちも大半は下着姿で肌もあらわになっていることから、さっそくスキンシップを試すことにした。ストッキングをはきかえるときわざとよろけてみた。隣りにいたブラジャーとショーツだけになっていた女性に倒れ掛かった。
「何、この新入り女、こんなわざとらしい下着なんか身に着けてあたしにすり寄ってきて。」
汚らわしそうなふりをしてたくみに避けた。軽蔑のまなざしを私に向けると、そそくさと制服を身に着け自席に立ち去った。
「あんた、馴れ馴れしいんだよ。新入りは隅っこで遠慮がちに着替えるもんだろ。」
お局さま風の女性が部屋の片隅を指さした。空ペットボトルが溢れかえっているゴミ箱の脇だった。
「ゴミ箱もきれいに片付けておくんだよ。」
スキンシップができるような雰囲気は全くなかった。私も制服のブラウスとスカートを身に着けるとゴミ片付けに専念した。昨日までは辛かった先輩や同僚の厳しい目も、ひょっとしたらこの人たち、私の背景でしかないのかもしれない、と思うとかなり気が楽になっていた。
片づけを終え席に着くと、今度は隣席の女性とのスキンシップを試みた。いつもネチネチと言葉攻めにしてくる隣の席の女は、やけにネイルに凝っていた。今日も派手な原色をたっぷりとつかった自分の爪をしきりと眺めていた。
「いつも思ってたんですけど、素敵なネイルですね。」
「どうしたの、ずいぶん急にあたしのことを褒めだすのね。何かたくらんでる?」
「私もしてみようかなと思って、よく見せていただけませんか。」
机の上に置かれていた彼女の左手に私は手をのばした。彼女は避けることもなく、手を引っ込めることもなかった。彼女の手に直接触れることができる、ひょっとしたら彼女は・・・
「あんた新入りのくせに居眠りしてんの? 度胸いいわね。」
上司の声で気がついた。私は机にうつ伏せになって気を失っていたのだ。
「この人、ちょっと変なんですよ。私の手を突然握ろうとして、そうしたらいきなり机に倒れこんじゃって。」
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「リーダーの顔をたてて使ってやってるのに、なんていう女!」
青筋をたてて睨め付けている上司の平手が私の頬に飛んでくるような気がした。でも飛んでこなかった。口撃は強烈だったが上司は私の身体には指一本触れなかった。
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私を睨みつけていた上司は、舌打ちをして離れていこうとした。
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