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第十五章 ここから出ることはもう
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彼女は、特に用件がなくても遠慮なく部屋を使ってほしいと言っていたが、怪しげな道具をデスクに置いたままここにいるもの気が引けたので、とりあえずは家に引き上げた。
町の「背景」は更に薄ぼんやりしてきた。街を歩く女性たち、商店の様子、ビルや公園、あらゆる人や施設が生気を失って見えるようになった。それぞれ色がついているけれども全体としてまるでモノクロ写真のような印象だ。それぞれ人物、物体として立体的な構造はしているものの、まるで遠近感のない絵をみているようだ。それに晴天にもかかわらずぼんやりと薄暗く見える。
その中で鮮明に、具体的に、生き生きと見えるのが、私と関係のある人たち、実在の人たちだ。本部にいる人たち、基地にいる人たちは周囲の設備も含めて鮮明に具体的に生き生きと見える。そのような人たちが街の中にいると、その人がくっきりと浮き上がって、その人だけが生きているというように見えるのだ。
背景が常にぼんやりしているかというとそうでもでもない。ブティックに入ろうとするとその店が回りからくっきり浮かび上がってはっきりと見える。そこで私に声を掛ける店員は生き生きとする。商品はすべてはっきり具体的な実在のものだ。飲食店に入っても同じだ。ところが、店をでて振り返るともうそこは背景でしかない。
私がこの世界で関係するものだけが強調され、他はすべて背景としてぼんやりしてしまったようだった。
全体がぼやけた地下街も管理室だけはくっきり見える。その中にいる管理人(実は司令官)も助手の女性もはっきりと実在の人物に見える。管理人と何か口論をしているような人もくっきり見えた。くっきり見えるばあいは実在の人物の可能性が大きい。
管理人が厳しい声で問い詰めている。
「あなたは、じゃあどこに住んでるのでですか? 答えられないでしょう。」
「だから、南のほうの倉庫の隣の2階建ての宿舎だって言ってるでしょう。」
「どこの何というアパートかと尋ねてるんですよ。答えられないなら不審者としかいいようがないじゃないですか。」
「この町に来たばかりなので、わからないっていっているんです。」
「毎日いるのでしょう、名前もわからないはずないじゃないですか。」
「でも、知らないものはしょうがないじゃないですか。」
声だけ聴けば女性と男性が言い争っているようだった。管理人の相手になっているのは、やはりあのピンクハウスだ。少し化粧が上手になったようだが、相変わらずの男丸出しの顔と体形だ。
「どうしたのですか。」
「ああ、このあいだの・・・」
ピンクハウスは、ほっとしたような顔した。
「司令官、この人は私の知り合いです。不審者ではありません。」
「そうだったのですか、何やら地下街を探りまわっているような不審な行動をしていた上に、尋ねてみると言っていることが曖昧だったもので・・・」
「私が連れていって、不審な行動をとらないように言い聞かせるので任せてください。」
「じゃあ、お任せします。気を付けてください。」
ピンクハウスを連れて再び地上の繁華街へ行き、長身の娘と会話をしたコーヒーショップに入った。
「いったい何をしてたの?」
「残してきた家族が心配で。」
「それで何で地下街に?」
「元の世界に戻ってみようと思ったんです。それで連れ込まれた城門を見つけようと。でも見つけることができなかった。」
「城門を見つけようと地下街に? いくらなんでも地下街に城門はないでしょう。」
「それで宿舎で聞いたんです。地下街のどこかに、元の世界に戻る方法を斡旋してくれる場所があるらしいって・・・」
地下街で斡旋とは? 本部のことなのか? しかし、そのような事実が漏えいしたりすることは絶対に考えられない。
「それで地下街に? どこを探していたの?」
「人が入れるよう扉を開けてみたり・・・」
「そんなことをしたら怒られるでしょう。」
「そう。で、いきなりあの女が私の腕を掴んで、あの部屋に引きずりこまれて・・・」
「自分で探すのは無理よ。どうしてもというのなら、リーダーに相談したら?」
「リーダーは殴るばっかりで何もしてくれない。」
「それで、どこに家族はいるの?」
「・・・・思い出せない。」
「なんていう名前?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「思い出せないのね。何かほかの手がかりはあるの?」
「・・・」
私と同じだった。元の世界で自分に関わりのある人、モノすべて記憶から消えているのだ。唯一のつながり、それは預金通帳だった。
「あなた、この世界でお金どうしてるの? トイレ掃除とか働いて稼いでるの? それだけで足りる?」
「無理、足りない。」
「でもお金はどうやってもらってるの?」
「振り込んでもらっている。」
「通帳にその他のお金の出入りはないの?」
「元の世界にいたときと同じように・・・」
「通帳を見せてもらえない? ひょっとしたら手がかりがつかめるかもしれない。」
「そんなことで? もしわかるなら・・・」
「じゃあ、また明日ここのコーヒーショップで会いましょう。」
自分の通帳には、支店名や口座名義人の記載はなかったし、この世界の支店?には支店名もない。たぶん同じ状況だろう。それをあちらの世界に持って行ったらどうなるのか。口座名義の名前や支店名が表紙に現れてくるのだろうか。何ともいえない。いやわからなくても、どこでもいいからこの世界の支店で、預金引出でも残高確認でも何かしてみれば名義や支店コードの記入されたレシートは出てくるかもしれない。それでわからないだろうか。
先日、本部の美少女は「泊りがけで行くことはできません。」と言っていた。それなら日帰りで行って、向こうの世界の支店に行くぐらいできるのではないか。戻ってきたときには、印字が消えているかもしれないし、私の記憶が無くなっているかもしれない。でもしてみないことにはわからない。
町の「背景」は更に薄ぼんやりしてきた。街を歩く女性たち、商店の様子、ビルや公園、あらゆる人や施設が生気を失って見えるようになった。それぞれ色がついているけれども全体としてまるでモノクロ写真のような印象だ。それぞれ人物、物体として立体的な構造はしているものの、まるで遠近感のない絵をみているようだ。それに晴天にもかかわらずぼんやりと薄暗く見える。
その中で鮮明に、具体的に、生き生きと見えるのが、私と関係のある人たち、実在の人たちだ。本部にいる人たち、基地にいる人たちは周囲の設備も含めて鮮明に具体的に生き生きと見える。そのような人たちが街の中にいると、その人がくっきりと浮き上がって、その人だけが生きているというように見えるのだ。
背景が常にぼんやりしているかというとそうでもでもない。ブティックに入ろうとするとその店が回りからくっきり浮かび上がってはっきりと見える。そこで私に声を掛ける店員は生き生きとする。商品はすべてはっきり具体的な実在のものだ。飲食店に入っても同じだ。ところが、店をでて振り返るともうそこは背景でしかない。
私がこの世界で関係するものだけが強調され、他はすべて背景としてぼんやりしてしまったようだった。
全体がぼやけた地下街も管理室だけはくっきり見える。その中にいる管理人(実は司令官)も助手の女性もはっきりと実在の人物に見える。管理人と何か口論をしているような人もくっきり見えた。くっきり見えるばあいは実在の人物の可能性が大きい。
管理人が厳しい声で問い詰めている。
「あなたは、じゃあどこに住んでるのでですか? 答えられないでしょう。」
「だから、南のほうの倉庫の隣の2階建ての宿舎だって言ってるでしょう。」
「どこの何というアパートかと尋ねてるんですよ。答えられないなら不審者としかいいようがないじゃないですか。」
「この町に来たばかりなので、わからないっていっているんです。」
「毎日いるのでしょう、名前もわからないはずないじゃないですか。」
「でも、知らないものはしょうがないじゃないですか。」
声だけ聴けば女性と男性が言い争っているようだった。管理人の相手になっているのは、やはりあのピンクハウスだ。少し化粧が上手になったようだが、相変わらずの男丸出しの顔と体形だ。
「どうしたのですか。」
「ああ、このあいだの・・・」
ピンクハウスは、ほっとしたような顔した。
「司令官、この人は私の知り合いです。不審者ではありません。」
「そうだったのですか、何やら地下街を探りまわっているような不審な行動をしていた上に、尋ねてみると言っていることが曖昧だったもので・・・」
「私が連れていって、不審な行動をとらないように言い聞かせるので任せてください。」
「じゃあ、お任せします。気を付けてください。」
ピンクハウスを連れて再び地上の繁華街へ行き、長身の娘と会話をしたコーヒーショップに入った。
「いったい何をしてたの?」
「残してきた家族が心配で。」
「それで何で地下街に?」
「元の世界に戻ってみようと思ったんです。それで連れ込まれた城門を見つけようと。でも見つけることができなかった。」
「城門を見つけようと地下街に? いくらなんでも地下街に城門はないでしょう。」
「それで宿舎で聞いたんです。地下街のどこかに、元の世界に戻る方法を斡旋してくれる場所があるらしいって・・・」
地下街で斡旋とは? 本部のことなのか? しかし、そのような事実が漏えいしたりすることは絶対に考えられない。
「それで地下街に? どこを探していたの?」
「人が入れるよう扉を開けてみたり・・・」
「そんなことをしたら怒られるでしょう。」
「そう。で、いきなりあの女が私の腕を掴んで、あの部屋に引きずりこまれて・・・」
「自分で探すのは無理よ。どうしてもというのなら、リーダーに相談したら?」
「リーダーは殴るばっかりで何もしてくれない。」
「それで、どこに家族はいるの?」
「・・・・思い出せない。」
「なんていう名前?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「思い出せないのね。何かほかの手がかりはあるの?」
「・・・」
私と同じだった。元の世界で自分に関わりのある人、モノすべて記憶から消えているのだ。唯一のつながり、それは預金通帳だった。
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「無理、足りない。」
「でもお金はどうやってもらってるの?」
「振り込んでもらっている。」
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先日、本部の美少女は「泊りがけで行くことはできません。」と言っていた。それなら日帰りで行って、向こうの世界の支店に行くぐらいできるのではないか。戻ってきたときには、印字が消えているかもしれないし、私の記憶が無くなっているかもしれない。でもしてみないことにはわからない。
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