のっぺら無双

やあ

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記録七:緑の遺跡中枢にて

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 食虫花はあまりの怒りと悲しみに、動けずにいました。
 
 生まれて初めて言葉を交わした人が、自分を恐れず、友だとまで言ってくれた人が、死んだのです。

 殺されて。

 灰になって、消えたのです。

 どうしてやろうか。コイツらを。
  愛しい人を刻んだオスを、愛しい人を貫いたメスを、喚き散らす紙クズを。

 しかし、次の瞬間、
 花は怒りを収めます。

 ___お前の体を貰うぞ!!!
 我がトモよ!!!___

 花は喜んで体を渡しました。

 花は知っていたのです。

 自分が男にとっては、友でもなんでも無いのだと。

 ただの器に過ぎないと。

 それでもいい。

 無事で良かった___。

 そして完全に、
 花は男の体となりました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「なんや…
 オレはまだお前に対しての認識を 
 間違っとる気がしてならんわ…
 お前なんなん?ほんまに化け物か?…
 もう1年ぐらいお前にぶら下がっとるけど、よう分からんわ。」

 「それを探しているのだろう…
 私のことは、私にも分からん。」

 「せやったな…はぁ。
 …メールちゃんは大丈夫やで。
 気は失っとるけど、体は完全に
 元通りや。骨も繋がっとる。肺の穴も塞がっとる…でもあれやなぁ。 
 この薬をメールちゃんにあげれば、
 メールちゃん、ここに来る必要無かったんとちゃうんか?」

 「…アレはそういう治療薬の類ではない。呪いじみた魔法がかかった物だ。
 病に使えば状態を悪化させ、即、死に至らしめる。」

 「世の中には、
 このグリモア様ですら知らん、
 けったいな物があるんやなぁ…。」

 キノクニは上着を脱ぎ、メールを背負うと、しっかりと縛り付けます。
 
 あらわになった体には、傷1つもありません。

 キノクニはグリモアを腰のホルダーに下げ、手斧を腰背面にしまい、実験室の探索を始めました。

 「せやけどな、この斧は知ってんで!間違いない!気にはなっとったんや!
 まさかこの遺跡にあったとはな~!」

 「…」

 「…あれ?気にならへんの?」

 「…武器とは敵を殺し、身を守り、道を物理的に切り拓くためのものだ。 
 由来など取るに足らん。」

 「~この斧はなぁ!
 "自在斧コアトル"っちゅう斧や!!
 太古の昔に平和の神が、殺戮者を下し、平和を築くために創った伝説の斧や!!
 所有者の意のままに飛び、敵を切り裂く凄まじい魔力のこもった超武器や!
 オレの大先輩やで?!
 ちっとは気にしろやドアホ!!」

 「知らん。黙れ。」

 キノクニはグリモアの解説に、 
 どこまでも興味がありませんでした。

 キノクニは、沈黙を続ける食虫花に一応気をつけつつ、降りてきた触手を登り、通路に戻りました。
 暗くてジメッとした通路です。

 「ほえ~! 
 こら、えらく古い通路やなぁ~!
 …100年ものかいな!せやったらオレと同い年やで。
 察するにここは、この遺跡の最初の基礎の部分やな。」

 「基礎?」

 「おぉ。珍しく反応しよったな。
 せや。そもそも遺跡っちゅうんは、土台となる祠なり建物なりの上に、後からそれを守るための迷宮やら神殿を築いた物がそう呼ばれとるんや。
 少なくとも今はな。つまり上の建物は下の階層より新しい言うことやな。」

 「そうか。」

 「…えっ!リアクション薄っ!
 聞いといてそれかいな!!」

 話しながらも、緑の通路をひた進むキノクニ達は、道の先に小さな光を見つけました。
 淡く、しかし確かに光っています。

 「なんやアレ…
 なんかあったかい光やなぁ…」

 「…」

 キノクニは、光にどんどんと近付きます。中々辿り着けません。
 
 次第に光は大きく、眩くなっていることから、かろうじて近付いているのだと分かります。

 「大丈夫かいな…なんか怖ない?
 なぁ…死なへん?」

 「行くしかない…
 戻っても何も無いのだ。
 怖ければ置いていく。」

 「嫌やそんなん…行くわ…オレも…」

 「ならば弱音を吐くな。」

 「厳しいなぁ…」

 そして、光はキノクニ達を包みます。

 

 白く眩しい部屋。



 緑の遺跡の中枢でした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「眩しいっ…目が開かへんっ…!」

 「お前に目など無いだろう。
 それに光は落ち着いている。」

 「…うそぉ……あ、ほんまや。」

 そこには光が降り注いでいました。
 先程見た激しい光では無く、優しい光です。
 天井の水晶玉から漏れるその光は、部屋中の草花、樹木を照らし、生命力を与えていました。
 床には所々を水が満たし、まさに植物の楽園です。
 
 「ほー…すごいなこれは…
 アレは天球やな…
 太陽光と同じ光を放つ水晶玉や…
 あんな規模の物は知らんけどな…」

 「アレを見ろ。」

 「んん?」

 キノクニはグリモアを取り外し、部屋の中央に向けます。
 
 そこには机と椅子があり、机の上には何か光る物があります。

 キノクニはグリモアを掲げたまま、ゆっくりと机に近付き、目前で立ち止まりました。
 光る物の正体は、紙片のようでした。

 「これはグリモアか。」

 「……あぁ……いや…ちゃう。
 こら地図や…その…グリモアやのうて…グリモアの在り処が分かる地図や……
 すまん…オレ…ここの記録が強おて…
まさかこれしか無いとは思わんくて…」

 「グリモアでは無く、他のグリモアの在り処を示す地図…
 これをお前が吸収すれば、
 他のグリモアのもとへ行けると言うことか。」

 「ああ…しかも最後の地図やから…
 多分大まかにしか分からんし…
 地図を持った者同士は分かるから…
 狙われてまう可能性もあるし…
 てか、怒ってへんの?」

 「私が何故怒らねばならぬ。」

 「だって…
 グリモア、無かったんやで…
 お前の記憶も、情報も…分からん…
 オレ、嘘をついたんやで…」

 「嘘をつこうと思っていたと言うことか。」

 「んな訳ないやん!!
 …オレかてがっかりしてるよ…
 グリモアを吸収して…
 強くなれる思たのに…
 友達を守る力…欲しかったのに…」

 グリモアは、メールを見つめて呟きます。

 「ごめんな。オレのために…
 君を撫でたる事もできん…」
 
 「ではさっさと吸収しろ。 
 その地図で他のグリモアを探す。」

 「…へっ?」

 「早くしろ。時は有限だ。
 無駄に出来る代物では無い。
 何よりもだ。」

 「…ええのん?
 …オレ、お前の…キノクニのこと、
 なんも教えられへんで
 …騙したんやで…」

 「そんな事は知らん。
 グリモアがあると思い、来てみたら結果として地図があった。
 それだけの事だ。
 ならばその地図を使い、他のグリモアを探し、私の情報を探し出す。
 それだけの話。
 私の目的は何も変わらん。
 "私の記録を探す事"だ。」

 「…怒ってへんの?ほんまに?」
 
 「そんな必要が私には無い。
 今説明したはずだ。
 時間を無駄にするな。
 さっさとやれ。燃やすぞ。」

 キノクニは、いつもの無愛想な様でした。
 それが、グリモアに響いたのです。

 グリモアに口があればポカンと開き、目があれば涙が溢れて止まらなかったでしょう。

 「………~~~っ…うっ……ぐすっ…
 ぶふー…なんやそれっ……
 わかっとるわ…ちょっと待って…
 はー……あかん。…よしゃ。
 あぁ…待て…
 その前に、やる事が、あるわ。
 …ぐすっ…」

 グリモアは喜び、泣いていました。
 まさかキノクニが、自分を手伝ってくれるとは思っていなかったのです。
 
 ある日突然現れた、鬼のように強い顔無し男…役立たずと分かれば捨てられる。
 ならばせめて愛想よく、面白い奴だと思われるように、たくさん話そう。色々教えよう。捨てられたく無いから。
 1人は嫌だから。

 グリモアは捨てられると思っていました。
 この遺跡に、この中枢に、また役立たずと言われ、罵倒され、踏みつけられて…普段のキノクニを見ていればなおさらです。
 
 せめてこの遺跡のグリモアを吸収し、自分で動けるようになれば…。
 そう思っていたのに、あったのはただの地図。

 ___また1人に逆戻りや___

 グリモアは瞬時に絶望し、消沈し、諦めました。
 キノクニと…誰かと共に在り、旅をすることを。

 しかしこの男は…キノクニは、グリモアの想像した未来とは全く違う答えを事も無さげに言い放ちました。
 
 自らの目的のためとは言え、グリモアを…10番目で、ビリッケツで、役立たずな自分を使ってくれるとまで…

 グリモアは産まれて初めて、道具として、魔本としての喜びを感じたのです。

 「"我、終なる魔法書グリモア。汝を認め、汝を救う。汝に光あらんことを"。___ほれ、表紙の宝石に手を当てぇ…」

 「何だこれは。何の儀式だ。」

 「……所有の契りや!!
 オレがお前を認めたるから!
 お前はオレを存分に使え言うことや!…その…所有者として……
 それに…その…これやらんと、地図吸でけへんねん。
 ほら、早よしい!ほら!」

 「ぬぅ…」

 キノクニは宝石に掌を当てます。

 ___キィン!___

 "あなたに光あらんことを___"

 「何だ今の声は。」

 「オカン…オカンや……
 懐かしいなぁ……
 オカンが祝福してくれとるわ…
 ありがとなぁ…オカン…」

 「おい。何を泣いている。」

 「うっ…うっさいなボケ!
 嬉し泣きや!
 …その…オカンの声、久々聞いてな!
 ホームシックっちゅう奴や!
 あー!湿気てかなわんわー!」

 「ホームシック…?」

 「でも!
 今日からはお前がオレの所有者や!
 お前の腰巾着がオレの家や!
 よろしくな!キノクニ!!」

 「終わったのか…?
 ならばさっさと吸収しろ。」

 「はいはい!もう!
 風情の無い男やでほんま!!」

 文句を言いつつも、かなり嬉しそうに吸収を始めるグリモアでした。

 程なくして、地図は無事吸収され、
 グリモアの中に地図が浮かびます。

 「よっしゃ!バッチグーやで!!
 これでお前も地図を見られるし、近くにグリモアが居ったら、オレがお前に教えてやれる!
 まさに一心同体や!…なあ、ところでオレ、ご主人様とか呼んだ方がええ?
 なんなら、です、ます、ございます、で喋ろか?」

 「知らん。好きにしろ。」

 「冗談やがなー!もー!!
 相変わらずの男やでほんまもー!
 ご主人様!なんちゃってなー!もー!嫌やわー!冗談やがなー!」

 「なんなのだ…やかましい…黙れ…」

 訳もわからず、うんざりするキノクニと、上機嫌のグリモア、心地良さげに眠るメールの3人を、天球の光が優しく包み込むのでした。

 「あ、そういえば薬草や!!
 浮かれて忘れるところやったわー!
 そこら中に生えとるで!キノクニ!
 2~3株で大丈夫や!」

 「そうか。」

 キノクニはガラス瓶をポーチから出し、薬草を3株、根ごと引き抜くと、丁寧に土ごと瓶に詰め、ポーチにしまい込みました。

 薬草は見つかり、キノクニの旅に、新たな指針が見つかりました。
 
 あとは村に無事、帰るだけです。3人揃って。

 しかし、皆さんは知っているはずです。
 
 お話の最初で、色白男が蘇ったことを。
 
 もう一波乱…キノクニ達を待ち受けていました。
 
 夜明け前の暗闇が、1番暗い。

 キノクニは、気こそ抜いていませんでしたが、その事を意識してはいませんでした。

 続きは次回のお楽しみです。
 
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