のっぺら無双

やあ

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記録二十四:暗殺過程〜地下鍛治室

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 キノクニは茂みの中で、ゼドの状態を確認します。

 呼吸は正常、顔は腫れていますが、骨が折れたりなどはしていないようです。

 「おい…商人よ…」

 「…うっ……」

 「ゼドちゃん!大丈夫か?!しっかりしいや!」

 「……グ…グリモア様…?」

 ゼドはなんとか目を覚ましました。

 ぼっこりと腫れた頬のせいで、目を開けずらそうです。

 「ああ…キノクニ様……申し訳ありません…奴ら…
 キノクニ様の指名手配が解かれた途端……我が屋敷に侵入して来まして…
 不甲斐なくも、占拠されてしまいました…」

 「渡していた斧は。」

 「無事です……キノクニ様の斧は…ガン爺からピタリとも離れず…奴らには奪えませんでした…
 しかし、ガン爺が鍛治部屋に監禁され…拷問を受けています…
 キノクニ様…どうか…どうかガン爺を…」

 ガクンッ

 ゼドは気力が尽きたのか、眠ってしまいました。

 「…指名手配は解かれたと言ったな…」

 「ああ。せやね…」

 キノクニは外套を脱ぐとゼドに被せ、隠密機能をオンにし、茂みから素早く脱出します。

 「…斧を取り返す、ついでに奴らを殲滅……こんなところか?キノクニ。」

 「ふ…よく分かっているな。その通りだ。」

 キノクニの滅多に見られない微笑にも、グリモアは反応しません。
 怒っていたからです。

 キノクニはいつもどおり、冷静に考えていました。

 ____まずは斧を取り返し、その後に殲滅を開始する。____

 そして、静かに中庭出入り口から中に侵入しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「ふぁーあ…どこだ旅人ー。いるのは分かってんぞー?キヒヒッ。」

 ルークの部下達の1人、痩せた男が、宝石や装飾品を身につけ、綺麗な剣を振りながら、屋敷の廊下を闊歩しています。

 「キヒヒッ…これだけあれば、金貨が貰えなくても大儲けだ…
 良い仕事だぜ。」

 男は完全に油断していました。

 ジャラッ…

 「…んあっ?」

 ギヂッ!!

 ですから、静かな廊下に響く、鎖の音になど気付きませんでした。

 天井から首をくくられ、男は即座に死にました。

 「他愛無い。」

 「廊下の突き当たり、右方3m、2人組や。」

 ジャララッ

 キノクニは漆黒の鎖を駆使し、天井に張り付くことで、次々と冒険者…賊達を暗殺していました。

 少々音はしますが、自在に操れる鎖は、暗殺にはうってつけでした。

 「おい!あれ、ゲインじゃねぇか?!」

 「どうしたんだ!!」

 2人組の男が、痩せた男の死体に近寄って来ます。

 ジャッ、ジャッ…

 「くゅっ?!」「きゃっ?!」

 2人組も一気に首を絞め上げ、転がします。

 「…大丈夫や。もうこの辺には居ーひんな。」

 暗殺には、グリモアの鑑定も役立っていました。

 屋敷を鑑定し詳細な構造情報を把握したグリモアは、更に範囲鑑定を行い、賊が近くにいないかどうかを死角から見るという、高度な技を使っていました。

 "索敵地図"というレアなスキルもあるのですが、そのスキルも顔負けです。

 「鍛治師の元までどれくらいだ。」

 「今が1階や。そんで鍛治部屋は地下にある。
 入り口は…この先を右に曲がった先の大部屋やな。
 賊どもがごろごろ居んで。
 気いつけや。」

 キノクニは足音を消して進みます。

 廊下を右に曲がると、大きな扉が閉じていました。

 「あかんな…全員が扉を見とる。…数は10人。
 …まあ、お前なら余裕やろ。」

 「ふん。気は抜くな。」

 キノクニは逢魔の戦鎚をポーチから取り出すと、真横に振りかぶり力を溜めます。

 そして、扉をコツンと叩きました。

 「…よし。寄って来とるで。5人。」

 「…ぬうえりゃあああああ!!!!」

 バガアアアアアアアン!!!!

 キノクニの戦鎚が、近寄って来た5人ごと、扉をブチ抜きます。

 「来やがった!!」

 「やっちまえ!!」

 賊達は倒れた仲間には目もくれず、杖や剣を構えて襲いかかってきます。

 「"パワースラッシュ"!」

 賊の1人が剣技を放ちましたが、キノクニはそれを戦鎚で防ぎ、片手で双剣の1つを構えると、鎖に絡ませました。

 「試し斬りだ。ぬりゃあ!!」

 ジャラララララッ!!

 「ぎゅあっ!?」「がはぁっ!!」

 「なんだあの剣?!飛んで来たぞ?!」

 「怯むなテメェら!魔法を撃て!」

 キノクニは鎖を伸ばし、剣で敵を2人まとめて引き裂きます。
 
 「手応えはあるが狙いがぶれるな。鎖にまだ慣れん。修正せねば。」

 「魔法!右から火球、火球、水球や!」

 キノクニは戦鎚を手放し、両手に鎖つきの双剣を構えると、水球に向かって鎖を伸ばし、剣を奮います。

 ジャラララララ…バシャン!!

 水球が弾け、側を飛んでいた火球2つの威力を大幅に下げます。

 「ふん!」

 ジャラララララ…ドババンッ!

 そしてもう片方の剣で火球を貫き、搔き消しました。

 「ふむ。良し。上々。」

 キノクニは両手に剣を引き戻すと、背中に収め、戦鎚を拾い構えました。

 「化け物か…アイツ…」

 「オレの火球が掻き消された…」

 「なんだよあの剣…」

 魔法を放った男達は、完全に怯えきっています。

 残る賊は、あと3人。

 その全てが魔法師です。

 「グリモア。冷静になれ。…地下への入り口はどこだ。」

 「…お前が名前をっ!?…せやな…ふー…あの文机の下や。」

 魔法師達が固まっている後ろには、文机がありました。

 グリモアは、一息つくとそこを指しました。

 「ぬううううりゃああああああ!!!」

 キノクニは思い切り跳躍すると、文机に向かって戦鎚を頭上に振り上げます。

 「「「うあああああああ!!!」」」

 魔法師達は魔法を乱発しますが、狙いは定まらず全て外れます。

 ゴシャアアアアアアン!!

 キノクニは戦鎚を振り下ろし、魔法師達ごと床をぶち破りました。

 そのまま地下に着地します。

 「キノクニ!後ろや!」

 「ぬん!」

 ガキィイイン!!

 大きな木鎚が迫ってくるのを、キノクニも戦鎚を取り回し防ぎます。

 木鎚の使い手は、あのロイドという大男でした。

 「ククク…そいつはイイ槌だなぁ…お前を殺して、俺様が使ってやろう。」

 「ぬん!」

 ゴキッ!

 キノクニは返答せず、蹴りをロイドの脛に見舞います。

 「うがぁ!?貴様…何しやがる!」

 「むん!」

 ギィン!ギィン!ガィン!!

 キノクニは戦鎚を奮ってロイドの鎧を歪ませていきます。

 ロイドは木槌で防ぎ続けますが、木槌はボロボロで、鎧もデコボコです。

 「くそぉ!!このチビ野郎!ガンガンとやかましい!!!」

 「ぬん!ぬえりゃ!」

 「キノクニ!そこや!右!いや上!!ああー下!!!」

 「黙っておけ!!ぬぇりゃああ!」

 バキィィィン!!!!

 木槌は幹から折れ、槌の部分が床に落ちます。

 そこでキノクニは戦鎚を手放し、両手に力をこめました。

 「ぐはっ…ククハハハハハ!自ら得物を手放すとは!貰ったぜ!」

 ロイドは戦鎚を拾うためかがみます。その時、ちょうどキノクニの力が限界まで高まったとも知らずに。

 「そうだな。貰ったぞ。」

 「何っ?これ…重過ぎて上がらねえ……?!」

 キノクニはゆっくりと両手を動かし、かがんで掴みやすい位置にあるロイドの後頭部に左手を、右側頭部に右手を、優しく添えます。

 コキュリッ!

 「あぇ…?」

 ゴトンッ!

 ロイドの首は頚椎ごといとも簡単にねじ切れ、ロイドは戦鎚を持ち上げようとしたまま事切れてしまいました。

 「戦闘中に敵に首を差し出すとは…いい度胸だ。」

 「いい気味でもあるわ…それよりガン爺さんは?!…鑑定!」

 グリモアは地下室内をくまなく鑑定しました。

 すると、部屋の奥にうずくまる影が見えました。

 「おったで!キノクニ!!いっちゃん奥や!倒れとる!!」

 キノクニは駆け足で部屋の奥に向かいます。

 そこには縛られ、目を固く閉じたガン爺が丸椅子ごと倒れていました。

 「爺さん!!」

 「ぬう…」

 ガン爺の体は凄惨な状態でした。

 服の前面はズタズタに引き裂かれ、血が滲んでいます。

 顔はボコボコに腫れ、所々の皮が剥がされています。表情筋が赤く炎症し、とても痛ましいことになっています。

 「あぁ…なんちゅう酷いことを…こんな爺ちゃんに…」

 「大丈夫か…」

 「……ぐっ…かはっ、こほっ…
 その声は……客人かの……
 それと…話に聞くグリモアか…」

 「そうだ…これを飲め。」

 キノクニは回復薬と傷薬を混ぜたポーションをガン爺に飲ませます。

 「んぐっ…ぐっ…くっ…ぷはっ…」

 ガン爺の体から少しの煙が立ち昇り、傷が塞がっていきます。

 「はぁ…はぁ…儂は良い……頭取を…」

 「大丈夫やで!ゼドちゃんなら無事や!」

 「見つからぬように隠した…アモンの外套でな…」

 「アモン…あの阿呆の…」

 「そうだ。」

 「くっ…あああ…儂の…背中を見ろ…」

 キノクニはガン爺を傾け、背中を覗きます。

 「服を…はぐるんじゃ…」

 キノクニが服をずらすと、ガン爺の素肌に真っ白な斧が張り付いていました。

 「これは…」

 「預かっとった品じゃ…コイツは儂の誇りを守ってくれた……
 奴らには決して持たせなかった……
 こんな老いぼれに、ずっと付いていてくれたんじゃ…
 儂の生涯最初で最後、最高の作品じゃ…」

 「爺ちゃん…」

 キノクニが斧に触れると、斧はにちゃりと音を立て、背中から剥がれます。

 あまりに深く張り付いていたため、血が滲んでいました。

 「…グリモアよ。」

 「……分かっとる。」

__________________
 名前:変幻自在斧コアトシル

 分類:神器
   :所有者選定(キノクニ)

 数値:攻 5000
   :魔 3800
   :運 800
   :???(鑑定Lv.6以上)

 特性:体積自在
   :質量自在
   :全長自在
   :光属性
   :断魔
   :???(鑑定Lv.6以上)

 説明
 この世で5本の指に入る鍛治師により
 洗練された、平和を求める自在斧の強
 化された姿。大きさ、長さ、質量が、
 所有者の意思により自在に変化する。
 真の所有者で無くとも持てるが、奮お
 うとすれば呪いが降りかかり、異形の
 怪物となる。
__________________

 「確実に強くなっとんな…
 ありがとうな…爺ちゃん…こんな……ここまでやってくれてな…」

 「…感謝する。鍛治師ガンマ。
 お前の腕、決して無駄にはせん。」

 「ほっほっ…その名は……そうか、アモンから聞いたか……
 客人……コイツを…」

 ガン爺…ガンマは、白い槌をキノクニに押し付けて来ました。

 「これは…?」

 「その斧を…鍛え直した時に使ったもんでのう…"神降ろしの金槌"じゃ…
 アモンに託してくれ…儂にゃもう奮えん…」

 「爺ちゃん!そんな…そんなこと言わんといてくれ!!なぁ!」

 「……少し…眠る…」

 ガクン

 ガンマはキノクニにもたれ、目を閉じました。安らかな顔です。

 「死んだらあかん!!死ぬなぁ!爺ちゃぁあん!!!」

 「…大丈夫だ。息はしている。」

 キノクニはそっとガンマを横たえ、立ち上がりました。

 「…武器は揃った。殲滅だ。
 屋敷を取り戻すぞ…
 好きなだけ暴れろ。グリモア。」

 「オレの必殺が火を噴くで……
 必殺や!!」

 キノクニとグリモアは残る賊を倒すため、地下室から飛び出します。

 残るはただ1人…SSS級冒険者の、ルークのみです。

 続きは次回のお楽しみです。

 
 
 
 

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