のっぺら無双

やあ

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記録四十三:マガツヒについて

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 光の玉は素早くムカデを翻弄し、キノクニ達が逃げ出す隙を作ります。

 「今や!キノクニ!!なんか知らんが今のうちに逃げるんや!」

 「分かっている!」

 「キャンキャン!」

 キノクニはすぐさま剣をしまい、走り出します。

 光の玉は、ムカデ達をかき回すだけかき回し、疲れさせた後に半分に割れ、ムカデ達を食い荒らし始めました。

 「なんやあれ!?凄まじいな…!!
 あんなバケモン見たこと無いで…!」

 「…あの光は…」

 「キャン!キャンキャンキャン!」

 「なんや!?今度はどない…」

 グリモアがまたシラヌイの声を聞き、辺りを見回すと、キノクニの右横に、老人が浮かんでいました。

 「なっ…!?」

 「キャン!」

 「何者だ…!?」

 『ようやく戻ったか…』

 老人は浮かんだまま、谷の突き当たりを杖で指します。

 するとそこに、今までなかった穴が空きました。

 綺麗な正円です。

 『あそこへ…』

 老人はその穴へ飛び入り、
 消えました。

 キノクニ達も後を追い、穴に飛び込みます。

 ムカデは綺麗に食われ尽くし、光の玉は消えました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「暗いな…なんなんやここは…」

 「クーン…」

 「…」
 
 キノクニはずっと、あの光の玉のことを考えていました。

 あの光…アレはまるで…

 「…私の放つ光と似ていた…」

 「ん?なんや?」

 「キャン!キャンキャンキャン!」

 シラヌイが興奮した様子で吠え始めます。
 
 キノクニがそちらを見ると、あの老人が大きな石櫃を携え、浮かんでいました。

 「貴様は…」

 『よく来てくれた…お前の今までの行い、見せてもらうぞ。』

 「なんや?」

 ッカアアアアアアアアッ!!

 途端、石櫃から光が溢れ出し、キノクニを熱く照らし始めます。

 「ぐっ…ぬぐっ…
 ぐああああああっ!」

 「キノクニ!?どないしたんやキノクニ!キノクニ!キノク…」

 そこでキノクニの意識は飛びました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「ここはどこだ…」

 キノクニが気付いた時、そこは白く何も無い空間でした。

 キノクニは裸で、グリモアもシラヌイも居ません。

 「私は…」

 『なんと…お前は人をほぼ殺していないでは無いか…何故じゃ…』

 いえ、1人だけ。

 あの不思議な老人が、少し先で石櫃を見ていました。

 キノクニも近付き、それを覗き込むと、そこにはキノクニの今までの時間が映されていました。

 遠い国の路地裏のヘドロの中で目覚めた映像。

 奴隷商に拾われ、酷い仕打ちを受けた映像。

 闘技場で、闘士として命の奪い合いをした映像。

 そこから抜け出し、冒険者ギルドで傭兵の仕事をし、その中で自分の正体を求め、グリモアと出会った映像。

 それからの色の無い旅路の映像。

 センジュの樹海から始まる、色のある映像。

 それらはまるで遠い昔のようにセピアに染まり、キノクニの頭の中から石櫃へ映し出されていきます。

 『記憶を奪い過ぎたんじゃ…
 じゃから言ったのにのう…』

 「貴様。これはなんの真似だ。
 さっさとここから出せ。」

 『…ここから出て何をする?』

 「グリモアを探し、
 私の記録を見つけ出す。私の故郷を、私の正体を。」

 普段のキノクニならば、こんな初対面の老人に、自分の目的を話したりしません。
 
 しかし、キノクニは話していました。

 『そうか。じゃがそれは無駄じゃ。』

 「何…?」

 『魔族領に行こうと、グリモアを完成させようと、お前の事など分かる訳が無い。ああ。そうとも。』

 「何故言い切れる。
 貴様は何を知っている。」

 『"全て"じゃ。"マガツヒ"よ。』

 「何?何を言っている?
 全てだと?分かりやすく説明しろ!」

 『マガツヒよ。
 お前は使命まで忘れたのか。
 何故じゃ…あれほど天に焦がれ、崇め、従順じゃったお前が…』

 「私の名はキノクニだ。
 マガツヒなどでは無い。」

 『いいや。お前はマガツヒじゃ。
 マガツヒノカミよ…お前は更なる天上より、使命を授かっていたはずじゃ。
 "人の殲滅"と"全ての破壊"を。』

 「……うぐっ!!!!?」

 『人にも地上にも興味が無かったお前の記憶を消し去り、地上の最も過酷な国へ送り込んだのに、何故お前はそれを成さなかった?
 …そうか。あのグリモアか。
 アレの所為でお前は道を誤った。』

 「なんだ…何をしている……止めろ……
 ぐぬうううう…!」

 『マガツヒよ。
 お前を今一度消し去ろう。今度こそ己が使命を全うしろ。
 さもなくば…』

 老人はキノクニに近付き、静かに言い放ちます。

 
 『貴様の"顔"は、二度と戻らん。』

 
 「なにぃっ!!!貴様ぁ……私は……
 貴様に…貴様らに奪われたと言うのか!?神に…私は神だと言うのか…!」

 『貴様は悪神。災いの神。
 マガツヒノカミ。もう良い。眠れ。』

 そう言い残し、老人は姿を消しました。

 白い空間は、端からひび割れ、砕け出し、キノクニを闇に沈めようとしてきます。
 

 そしてキノクニは…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「キャンキャン!」

 「シラヌイ!!
 お前だけでも逃げるんや!!
 キノクニは絶対大丈夫やさかい!」

 老人は消え、石櫃も消えました。

 洞窟は徐々に天井が剥がれ始め、崩れていきます。

 キノクニは沈黙し、目覚めません。

 「オレは…
 …オレは信じとるからなキノクニ…
 魔力操作を教えてくれるんやろう!?
 オレは諦めへんぞ!
 お前のグリモアなんやから…!!」

 ガラガラガラ!!

 グリモアが、岩の下敷きになってしまいました。

 その衝撃で、グリモアは気を失います。

 「クーン…キャンキャンキャンキャンキャンキャン!…クーン…」    

 シラヌイはキノクニを引っ張りますが、ビクともしません。

 「キャインッ!」

 落ちてきた破片は、シラヌイを容赦なく痛めつけ、白い毛並みを真っ赤に染めます。

 「キャンキャンキャ…」

 ドガッ!

 突然キノクニの腕が動き、シラヌイを突き飛ばしました。

 出口まで吹き飛ばされながら、シラヌイはキノクニに期待の視線を送ります。

 しかし…

 動いた腕には意識が無く、ただの脊髄反射でした。

 ガラガラガラガラガラガラ…!!!

 洞窟は崩れ、キノクニとグリモアは埋もれていきます。

 シラヌイはそれを黙って見ていることしかできませんでした。

 キノクニの正体は悪神…

 ならば何故、キノクニは、消極的ながらも、人との絆を築いたのでしょう。

 何故己が記憶を欲したのでしょう。

 本当にキノクニは、根っからの悪神なのでしょうか。

 全ては土と岩に埋もれて、眠らされて行きます。

 この先どうなるのか?

 キノクニは目覚めるのか?

 シラヌイはどうなったのか?

 海賊達は?マリアンは?メールは?



 それら全てについては…

 


 

 また別のお話。






 それではまた。さようなら。










 
 

 
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