45 / 45
四十五話 最終話
しおりを挟むココレットの庭は今日も賑わっている。
新たに新種の薬草なども生えだすものだから、魔術師達は大喜びで、小躍りしながら研究に精を出しているのである。
そしてローワンは元気を取り戻すと、ココレットと毎日のように庭で会うようになり、そして今日は大きな花束を持って現れた。
魔術師達は空気を読んで、早々にゲートを通ってその場から退散していく。
「あら、ローワン様、どうしたのですか?」
不思議そうにココレットが小首をかしげると、ローワンはその場に膝をつく。
いつもとは違う雰囲気に、ココレットは息を呑む。
「ココレット。」
「は、はい!」
ドキドキとココレットが心臓を高鳴らせていると、ローワンはゆっくりと口を開いた。
「私は君を、愛している。だから結婚してほしい」
はっきりと言われた言葉に、ココレットはぱぁぁぁっと輝かせて頷こうとしたのだが、ふと、一瞬心が冷静になっていく。
ココレットは呼吸を整えると、やはり一度ちゃんと確かめておこうと、決心する。
「ローワン様は、幼女趣味では」
「ない」
「では、聖女の力を欲して?」
「違う」
ローワンの真っ直ぐな瞳を、ココレットは疑うようにじっと見つめ、そしてぷっと噴き出した。
「ごめんなさい。つい、確認したくなっちゃって」
くすくすと笑うココレットに、ローワンは小さくため息をつくと言った。
「私は返事を待っているのだけれど、私の愛しい人は、返事をくれないのかな?」
ココレットはその不貞腐れるような表情に、また笑うと、優雅に一礼していった。
「喜んでお受けいたします。私も、ローワン様が大好きです!」
そしてローワンの胸の中へとココレットは飛びこんだ。
その瞬間、ココレットの庭にたくさんの妖精達が飛び交い、溢れ、そして光の柱を作る。
「あ」
「うわぁ……」
妖精達はココレットを祝福しようと踊り歌い、大はしゃぎである。
その様子にヴィシアンドルが慌てて訪れた。
「何をやっているのですか!」
シシリーは涙を流しながらハンカチで鼻水を拭きとっている。
「ようございましたぁぁぁ」
ローワンは妖精やら精霊やらが入り乱れるその様子を見ながら、大きくため息をついた。
「後処理が大変そうだ」
その通りである。
ローワンはその後、このココレットの庭については不可思議な力により、精霊の庭となった場所であり、王家によって保護地区と定めるとした。
そしてココレットの家にはその保護地区を守る役割を任せることとなったのだ。
「ココレット、頼むから聖女だと君がばれないようにしてくれないか」
「え? うん。そのつもりなんだけれど」
ローワンの妻となったココレットではあったが、優しさから聖女だという事実を隠しきれない。なので国中でココレットは聖女様という噂が広がっている。
国のパワーバランスを調整するローワンは大変である。
ローワンの力によって聖女にはある程度自由が認められるようになり、昔のように監禁紛いな事はしなくなった。そのことを喜んだ精霊達が、王国に聖女をよく誕生させるようになったことを知る者はいない。
「ココレット様。遊びに来ましたよ」
ヴィシアンドルがよくココレットの元を訪れるものだから、忙しいローワンとしては気が気ではない。
「また来たのか」
「はい。ここはとても空気がいいもので」
「ココレットは私のものなのだが?」
「はい。ですから、私はココレット様のお友達です」
そこへドラゴニアからダシャも内密でたまにやってくるものだからローワンはさらに気が気ではない。
ドラゴニアにはかなり慰謝料としてふっかけたものの、それでも国交が盛んになり、今では友好国としてやりとりする仲となっている。
なんだかんだとにらみ合うローワンとヴィシアンドルであるが、ココレットは気づかない。
「今日はぽかぽかいい天気ですねぇ」
ココレットの庭は今日も、賑やかである。
★★★★
最後まで読んで下さりありがとうございました。
最終話目前と言う所で、少し忙しくて間があいてしまいもうしわけなかったです。
ここまで読んで下さった皆様に感謝を申し上げます。
『婚約破棄され続けたループ令嬢は今世は諦めることにした』がミーティアノベルス様から来年度電子書籍化予定となりました。
『魔法使いアルル』はアルファポリス様にて、来年度書籍化予定となっています。
もしよろしければ、今後とも作者 かのん をよろしくお願いいたします。
36
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(50件)
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろかったです。
みんなでわいわいと楽しくお話が終わった後も続いていく様子が良いですね。
ありがとうございました。
40話
見た目を帰られたではなく変えられた
29話
なるおど?なるほどだと