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第九話

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 夏の日差しが和らぎ始め、木々が少しずつ色づき始めた。

 季節が巡るのが早いなと感じるのは、自分が大人になったからなのだろうか。

 スーパーにはいると、秋茄子が売られており、今日はなすの味噌焼きだなと頭の中で決めた。

 木綿の豆腐は冷奴用、つまみに冷凍の枝豆をカゴに入れる。

 肉のコーナーを見ると、ステーキ肉が安売りしていたのでたまにはいいかとカゴに入れ、ついでに売り子のおばちゃんお薦めのステーキソースも買った。

「アイスとってきたー。」

 蓮は当たり前のようにカゴにチョコレートアイスを2つ入れた。

「お~。今日は肉だ。嬉しー。」

「すこしずつ寒くなってきたし、カフェオレでも買っとくかー?」

「そうしよ。夜寝る前にのもーぜ。」

「そうだな。」

 こうやって、当たり前のように買い物を二人でするのにも慣れてきた。

 最初はしばらくしたら新しい家を紹介すればいいと思っていたが、居心地が良くて、このままでもいいのではないかと思う。

 だが、その反面、このままでいいのかとも思う。


 家に帰り着き、スマホを見ると姉から久しぶりに着信があり、料理を蓮に任せると電話をかけた。

「もしもし。なんだった?」

『いや、蓮とどうなったかなと思って。』

 その言葉に、どう答えるべきかと悩む。

「同居という意味ならうまく行ってるよ。」

『そう。』

 歯切れの悪い声色に、思わず本音をぶつけてしまう。

「姉さんはどう思ってるの?」

 すると、小さな笑い声と、はっきりとした声が帰ってきた。

『本当は、孫が見たかった。でも、妹の梨花に期待するから、まぁいいわ。一番は、蓮が幸せになれればいい。』

 すでに覚悟は決めていたのか、そのいいようにこちらがため息をつきたくなる。

『最初は、何度も何度も説得したの。あなたにも会わせなくしたし。でもね、あれは本気だわ。あれには勝てない。だからよろしく。』

「えー。まるなげかよ。」

『嘆くなら、そんな蓮に好かれた自分の運命を嘆きなさい。』

「ははっ!俺の運命ってそうなの?」

 一瞬、シンとなる。

 姉が、言葉を選んだのがわかる。

『運命に、、、なりそう?』

 どうなのだろうか。
 本当にいいのたろうか。

「ふぅ。さぁてね。もっかい蓮と話してみる。」

『ええ。ありがとうね。それじゃ。』

「うん。またね。」

 しばらく電話を見つめていたが、体は正直でお腹がなった。

 まずは腹ごしらえだ。

 キッチンに戻ると既に肉は焼かれ、冷奴なども準備がされていた。

「ビール?」

「あぁ。明日は休みだしな。」

 肉は肉汁がいい感じに滴り落ちていて、ソースと絡めて食べると美味い。 

 ビールを喉に流し込むと最高である。

「うまー。」

「美味いなー。」

 のんびり食べ進め、後半は枝豆と日本酒に切り替える。

 縁側の窓を開けているからか、虫の音が聞こえてける。

「なぁ、蓮。」

「なぁに?」

「ちょっと真剣な話をしようか。」

 その言葉に、蓮は枝豆に伸ばした手を止めた。

 そして、まっすぐにこちらを見てくる。

「俺は今年で三十のおっさんで、俺達は男同士だ。付き合うのは、無理じゃないか?」

 傷つけるような言葉だが、必要な言葉だ。

「ごめん。それでも諦められない。」

「だが、俺は女が好きだ。」

 その言葉に蓮の顔は歪む。

「これは、俺の告白が断られているの?」

 虫の音がやんだ。

「あぁ。そうだ。」

「どうしても、だめ?俺のこと、好きになれないの?」

 ゆっくりと首を横に振る。

「違う道もある。」

「、、、どんな道だよ。」

「俺以外の女の人を愛する未来だ。」

 えぐるような言葉に、蓮は立ち上がり、上着を羽織った。

「頭冷やしてくる。先に寝ていて。」

「わかった。」

 蓮は、静かに玄関からでていった。

 夜遅くに大丈夫かと心配になるが、いい大人だ。大丈夫だろうと考えると、皿の片付けをする。

 時計の針の音だけが、異様に響いて聞こえた。
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