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二話
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ソフィアは、初めて穏やかな朝を迎えた。
時間をかけて侍女に支度を整えてもらい、ゆっくりと朝食を食べる。
そして窓を開けると、胸いっぱいに自由な空気を吸い込んだ。
「ふふ。爽やかな朝。とってもいいお天気ねぇ。お日さまおはよう!小鳥達もおはよう!ふふふ!朝の風が気持ちいいわぁ。」
空はどんよりとしていて、小鳥というか、黒い鳥が『ぎゃぁぉぉ』と鳴き声を不気味にあげ、生暖かな風が吹く。
どこが爽やかな朝なのだろうかと執事のレスリーは思いながら、自分の使えているお嬢様であるソフィアに声を掛けた。
「お嬢様、ご主人様が十時頃に一度自分の書斎へと来てほしいとおっしゃっておりました。」
ソフィアは小首をかしげる。
栗色の髪の毛が風でふわりと舞い、エメラルドの瞳から何故自分が書斎に呼ばれるのだろうかと考えているのが伝わってくる。
昔からソフィアは感情がそのまま表情や仕草に出るため、レスリーは使えていてとても心配していた。令嬢達のお茶会は常に腹の探り合い。そんな中、ソフィアはいつも感情がそのまま外に出る。
本人は必死に隠しているつもりでも、表情に全て出ていた。
「何かしら?・・・あぁ。もしかして、私の婚約者でも決まったのかしら?」
ぴょんぴょんと子ウサギのように嬉しそうに飛び跳ねるソフィアは、にこにことした明るい笑みをレスリーに向けた。
「ふふふ。私もお年頃だもの。そういうお話が出てもおかしくないわよね。むしろ今まで出てこなかったのが、おかしいのよー。ねぇ?レスリー?」
その言葉に、レスリーは言いよどむ。
アレイスター男爵家は、男爵家であってもかなり金銭的には豊かな家であり、確かに婚約話が出てもおかしくない。
ソフィア自身も、可愛らしい外見と、駆け引きは出来ないながらも素直で明るい性格はかなり人の眼を引き、庇護欲をそそる。
だから本来であれば、婚約の話がいつきてもおかしくない。そう、いつきてもおかしくなかったはずなのだ。
それなのにもかかわらず、在学中にソフィアには婚約話は一切浮上しなかった。
それが何故なのか、レスリーは知っている。
そして、主人であるアレイスター男爵のソフィアへの話が婚約話ではないことも、うすうす感じ取っている。
おそらくは、動き出したのだろう。
「ふふふ。心配そうな顔をしなくても大丈夫よ?もし私がお嫁に行くとしても、レスリーは絶対に連れて行くから。」
そうではない。
自分が心配しているのはそうではないのだと、レスリーは内心で呟く。
「はぁ~。素敵な人と結婚できたらいいなぁ。」
夢心地でふふふっと笑うソフィアに、レスリーは遠い目をしてその様子を見守った。
時間をかけて侍女に支度を整えてもらい、ゆっくりと朝食を食べる。
そして窓を開けると、胸いっぱいに自由な空気を吸い込んだ。
「ふふ。爽やかな朝。とってもいいお天気ねぇ。お日さまおはよう!小鳥達もおはよう!ふふふ!朝の風が気持ちいいわぁ。」
空はどんよりとしていて、小鳥というか、黒い鳥が『ぎゃぁぉぉ』と鳴き声を不気味にあげ、生暖かな風が吹く。
どこが爽やかな朝なのだろうかと執事のレスリーは思いながら、自分の使えているお嬢様であるソフィアに声を掛けた。
「お嬢様、ご主人様が十時頃に一度自分の書斎へと来てほしいとおっしゃっておりました。」
ソフィアは小首をかしげる。
栗色の髪の毛が風でふわりと舞い、エメラルドの瞳から何故自分が書斎に呼ばれるのだろうかと考えているのが伝わってくる。
昔からソフィアは感情がそのまま表情や仕草に出るため、レスリーは使えていてとても心配していた。令嬢達のお茶会は常に腹の探り合い。そんな中、ソフィアはいつも感情がそのまま外に出る。
本人は必死に隠しているつもりでも、表情に全て出ていた。
「何かしら?・・・あぁ。もしかして、私の婚約者でも決まったのかしら?」
ぴょんぴょんと子ウサギのように嬉しそうに飛び跳ねるソフィアは、にこにことした明るい笑みをレスリーに向けた。
「ふふふ。私もお年頃だもの。そういうお話が出てもおかしくないわよね。むしろ今まで出てこなかったのが、おかしいのよー。ねぇ?レスリー?」
その言葉に、レスリーは言いよどむ。
アレイスター男爵家は、男爵家であってもかなり金銭的には豊かな家であり、確かに婚約話が出てもおかしくない。
ソフィア自身も、可愛らしい外見と、駆け引きは出来ないながらも素直で明るい性格はかなり人の眼を引き、庇護欲をそそる。
だから本来であれば、婚約の話がいつきてもおかしくない。そう、いつきてもおかしくなかったはずなのだ。
それなのにもかかわらず、在学中にソフィアには婚約話は一切浮上しなかった。
それが何故なのか、レスリーは知っている。
そして、主人であるアレイスター男爵のソフィアへの話が婚約話ではないことも、うすうす感じ取っている。
おそらくは、動き出したのだろう。
「ふふふ。心配そうな顔をしなくても大丈夫よ?もし私がお嫁に行くとしても、レスリーは絶対に連れて行くから。」
そうではない。
自分が心配しているのはそうではないのだと、レスリーは内心で呟く。
「はぁ~。素敵な人と結婚できたらいいなぁ。」
夢心地でふふふっと笑うソフィアに、レスリーは遠い目をしてその様子を見守った。
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