【完結】可愛くない女と婚約破棄を告げられた私は、国の守護神に溺愛されて今は幸せです

かのん

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三話 落ちた瞬間

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 庭へと出ると、四月の夜風は少しばかり肌寒く感じた。

 エラは、今回が未婚での最後の舞踏会であると最後だけはジャンも自分を優先してくれるのではないかと、期待していた。

 けれどもそんな期待は一瞬で裏切られ、そして今では虚無感が胸を占めている。

「風が気持ちいい夜だ」

 ルイスの言葉に、エラは顔をあげると頬に夜風を受ける。

 大きく息を吸って吐けば、少しだけ気分が晴れるような気もするが、これからのことを思うと、ため息がでる。

「こんなことを言ってはいけないのだろうが」

 一瞬言うか迷うルイスであったが、エラは言葉を促すように返事をした。

「はい。なんでしょうか?」

 ルイスはゆっくりと空を見上げながら言った。

「あのバカと婚約破棄できたのは、今日一番の幸運だと俺は思う」

「は?」

 突然の言葉にエラが驚いたような顔を浮かべると、ルイスはすまなさそうに頭をぽりぽりとかきながら言った。

「なんというかな、毎年ああいうバカっていうのはいるんだよ。それでな、ああいうバカは将来もバカのままだ。つまり君はあのバカと結婚しなくてよかったということだ」

 どういう理屈かは分からないが、エラは静かにその言葉を胸の中で反芻すると、ゆっくりと口を開いた。

「あの、このようなことをお尋ねするのは失礼かもしれませんが、男性から見て、可愛い女性とはどのような女性なのでしょうか?」

「ん?」

「……私はずっとジャン様にお前は可愛くない、可愛くない女だと言われ続けていまして、もうどんな姿が可愛い女性なのか、よくわからないのです」

 ため息をつくようにエラがそういうと、ルイスは少し考えてから首をかしげる。

「君は可愛いと思う」

「え?」

 ルイスはまじまじとエラを見つめながら言った。

「そのすっと通った鼻も、つぶらな瞳も、かわいらしいと思う」

 至極まじめな顔でそういわれ、エラは呆然としてから、そして吹き出すように笑った。

「ふふふっ……そんなこと、初めていわれました。ふふっ。トーランド様はお優しいのですね。ふふっ。お世辞でもとてもうれしいです」

 ルイスは今まで沈んだ顔をしていたエラが、ヒマワリの花のようにぱっと笑った姿に思わず見惚れた。

 くすくすと笑う姿は可愛らしく、ルイスは自分の胸を手で押さえ、思わず首を傾げた。

 心臓がうるさいくらいにバクバクと音を立てているのである。

 生まれて二十八年、女性に対してこのように心臓がばくばくとなることは初めてであり、ルイスは自分の感情がよくわからずに頭を思いっきりかいた。

「どうかされましたか?」

 エラに顔を覗き込まれ、ルイスは一歩後ずさると、両手で顔を覆っていった。

「いや、何でもないのだ。ただなんというか」

「なんというか?」

 可愛い。

 口から出そうになった言葉を、ルイスは寸でのところで飲み込んだのであった。

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