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こんにちは魔王様5
しおりを挟む魔王城の庭には見事な色とりどりの薔薇が咲き誇っている。
リナリーはメイドのアンと共に楽しそうに会話しながら散歩をしているようであった。
「魔王様、それはストーキングというのですよ。」
「ぅ、、、」
少しショックを受けたかのようにシバは胸を抑えた。
生け垣に身を隠しながらリナリーの様子を隠れて見る姿はまさにストーカーであった。
「正面から会いに行けばいいではないですか。」
シバはわざとらしく大きく溜息をつくとロデリックを睨みつけた。
「倒れた次の日から避けられている。」
「なんと、、、」
リナリーが城に到着してからすでに二週間が経とうとしてきる。
食事はさすがに一緒に取ってくれるが、それ以外はシバが近寄ろうものなら全力で逃げていってしまうのだ。
さすがのシバも悲しくなってきていた。
「やはり、俺のこのおぞましい見た目が駄目なのだろうか、、、」
「たしかに、メイドのアンとは、すでにうちとけていますね。ちなみに私も昨日は一緒にお茶をいただきました。リナリー様は大変お可愛らしく、とても楽しいお茶会となりました。」
シバは死んだ魚のような瞳でロデリックを見た。
「、、、、それは嫌味か?」
「いえ、、、、、自慢です。」
シバの殺気が一瞬にして魔王城全体に広がり、空が闇に包まれた。
「男の嫉妬は醜いですよ。ほら、リナリー様が怖がられていますよ。」
その言葉にシバは殺気を霧散させるとリナリーに慌てて目を向けた。
リナリーは不安げな表情で空を見上げ、空がまた青空に戻った事にほっとした様子であった。
「貴方はすぐに天候に心が反映されるのですから、気をしっかり持ってください。ほら、ちゃんと青空になるように、心を強くもって!」
リナリーが魔王城に来た日はシバの不安から雷がいくつも落ち、大変であった。
「どうすれば仲良くなれるのだろうか。」
いつもは自信家のシバの言葉とは思えなかった。
「リナリー様をお気に召したようでなによりでございます。」
「夫婦になるのだ。政略結婚とはいえ、相手を愛そうとするのは魔族として当たり前だろう。それに、、、、、、」
「それになんですか?」
「あれほど可愛らしく見える存在が、この世にいるとは思わなかったのだ。」
「はぁ?」
独り言のように、自分の感情を確かめるようにシバは続ける。
「いや、ちゃんとリナリーについては人間の国側の思惑も含め調べある。リナリーの産まれてから今までの事も把握済だ。だからなんだ、、最初は情のようなものを抱き、リナリーにも自分を少しずつ知って欲しいなと思っていた。自分を愛してくれるだろうかと不安もある、、だが、、」
「だが?」
少し飽きてきたロデリックであったが話を途中で聞かないわけにもいかない。
「お前だって一目見て分かるだろう。あんなに可愛らしい人間、そうそういないだろ?」
まぁ、リナリーは確かに美しい女性だ。
可愛らしいよりは美しいが当てはまりそうだが。
「可愛らしい。いや、一目見て、世界にはこんなにも愛らしい人がいるのかと、驚いた。」
あ、これはあれか。と、ロデリックは気付いた。
「いきなりこんな魔王に嫁げと言われ、ほぼ無理やり連れてこられたというのに、それを見せない淑女の鏡のような姿。」
たしかに。リナリーの肝は座っている。
結婚とは言いつつ、とりあえず魔王城に慣れるようにと配慮し、結婚の儀自体は先延ばしにしてある。それであっても、普通はこんなにもあっさりと婚姻を受け入れるものだろうか。嫌、普通の人間ならば泣き叫び逃げようとするのではないだろうか。
では、何故リナリーは?
ロデリックは疑問に感じてリナリーのいたほうに視線をむせた。
なるほど。
アンはこちらに気づかれないように魔力をつかい、すぐ側まで移動し、リナリーにシバの気持ちが聞こえる所まで誘導してきていた。
さすが城の全てを任されているメイドアン。こちらに気づかれないように移動するなど、なかなか出来る事ではない。
リナリーは顔を真赤に染め、ふるふると感情を抑えるように震えていた。
「魔王様、リナリー様がお越しです。」
バッと、シバはリナリーへと視線を向けた。
「リ、、、リナリー?」
リナリーは踵を返し、シバに背を向けると足早にその場から逃げるように立ち去ってしまった。
シバは呆然とその背中を見送る。
あぁ、これは一目惚れを拗らせているな。と、ロデリックは大きく溜息をついた。
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