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こんにちは魔王様7
しおりを挟むリナリーの自分にしがみついて泣く姿に、シバは不安になった。
リナリーは、帰りたいのではないのだろうか。
政略結婚とはいえ、リナリーは元々は第二王子と結婚するはずだったのだ。
そう考えると胸が苦しくなってくる。
返したほうがいいのだろうか。
だが、自分の思いは返したくはない。
以前は、結婚など利があれば良く、どんな相手であっても、魔族らしく愛せばいいと思っていた。しかし、リナリーに出会ってしまった今ではリナリー以外は考えられない。
今更他の者を愛せと言われても無理な話しだ。
そう、シバが考え、悩んでいた時であった。部屋をノックする音が聞こえた。
「はいれ。」
「失礼いたします。」
「リナリーの様子は?」
シバからリナリーの様子を報告するように命じられていたアンは静かな口調で話し始めた。
「今は落ち着いておられます。先程は魔王様にも迷惑をかけてしまったと仰っておりました。」
「迷惑など!夫婦になるのだからいくらかけてもいいというのに、、、」
その言葉に、ピクリとアンの眉が釣り上がった。シバはアンのこの癖をよく知っている。何故ならばこれはアンが怒っているときの合図だからである。小さな頃はよく、眉が釣り上がった瞬間に急いで逃げたものだ。
だが一体何にアンは怒っているのか。
「僭越ながら魔王様。」
「、、、なんだ?」
思わずゴクリとつばを飲み、覚悟してしまうのは昔からの癖だ。
「魔王様はもうすこしリナリー様のお気持ちを考えて発言するべきです。まぁ、愛情が重たくて少しばかりストーカーのような所はまだリナリー様が恋愛において初級者であってもよしとしましょう。気持ちを伝えるのは大切ですからね。ですが、不用意なお言葉が、リナリー様を傷つけないとは限りません。」
言葉の端々に毒を感じながらも、リナリーの事となれば聞かないわけには行かない。
「どの、、言葉の事だ?」
「『魔族とは、政略結婚でも愛情を求めてしまうのだ。』という発言でございます。リナリー様は落ち込んだご様子でこの言葉を呟いておりました。この言葉では結婚相手がリナリー様以外であってもいいと言っているものではありませんか!」
「どうしてそうなる!?そんな事は言っていないだろ!」
「いいえ、リナリー様のように恋愛初級者の者は不意に言われた言葉の裏を読んでしまうことがあるのです!このアンは、嘘はつきません!」
「う、、、本当にそう、リナリーが思っていると言うのか?」
「御本人にも私の考えをお伝えすると、涙を流されながら頷いておられました。アンは不確実なことは主に伝えません。言質もとっております。『シバ様は素敵なお方ですもの、、私でなくてもきっと良かったのですわ。』と、おっしゃっておりました。」
「くっ、、!、、なんと可愛い、、リナリーがそう言ったのか、、アンのモノマネではなく、本人から聞きたかった、、、。」
「そんな事を言っている場合ではございません。一度愛は拗れると修復するまでに時間がかかってしまいます。お早めにリナリー様の誤解を解き、リナリー様のお心を手に入れて下さいませ。」
シバはそう言われたものの、どうすれば良いのかと頭を抱えた。
女心とは難しい。
アンはわざとらしく大きく咳をすると、すっと窓の方を見つめ呟いた。
「明日は城下町にて、剣技会や屋台の催しがあるそうですよ。」
それを聞き、シバは目を輝かせた。
「アンは素晴らしいな!ありがとう。リナリーに手紙を書くから渡してくれるか?」
アンは満足そうに頷くとニコリと笑みを浮かべた。
「お忍びデートは乙女の憧れでございます。しっかりとリナリー様のお心をお掴み下さいませ。」
アンはシバから手紙を預かると、そう言って部屋から出て行った。
シバは明日の事を思い描き、笑みを隠せない。しかし、まずは、目の前の仕事を終わらせなければ明日を楽しむ事もできない。
リナリーの事を考えていたばかりに溜まってしまった書類の山を、シバは嬉々として、高速で処理して行くのであった。
明日の剣技会ではリナリーに良いところを見せ、自分に好意を抱いてもらおう!そして、自分が他の誰かではなくリナリーを求めているのだという事を伝えようと息巻く、シバであった。
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