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魔王様とおでかけ9
しおりを挟む大剣は勢いを殺すことなく、リナリーの方へと飛んだ。
リナリーの目の前に、大剣は迫る。
息を呑む音が響いた。
キーン!
次の瞬間、人々は目を見張る。
銀色の髪がフードから顕になる。
リナリーの眼前に迫った大剣が弾かれ、リナリーの頭上にくるくると回転しながら飛び、そして落下する。
リナリーはそれを危なげもなくパっと手で掴む。反対の手には日傘が握られていた。
「剣がこちらに飛んで来ましたもの!シバ様の優勝ですわね!すごい!、、、あ、これ咄嗟の事でお借りしてしまいました。申し訳ありません。」
そんな事をリナリーは呟いている。
横にいた魔族のご婦人は置いていた自分の日傘が剣を弾いた事に驚きを隠せなかった。
しかも、あの勢いで飛んできた大剣を日傘で弾いた子は銀色の髪の少女である。
皆が動けないでいた。
いち早く動いたのはシバであった。シバはリナリーの元へと飛ぶと、慌てて手を取りそして、魔力を使い一瞬で王城の応接室へと転移した。
それにリナリーは驚き、思わずきょろきょろと辺りを見回した。
「リナリー?とりあえず、怪我はない?」
「?、、はぃ。ありませんわ。」
それにシバは大きな安堵の溜息をもらすと、その場にしゃがみこんだ。
「良かった。」
リナリーには内緒で、シバは幾重にも守護の魔法を掛けてあった。リナリーに危険が迫った時に発動するようにしてある。
それらが発動しなかったということは、危険はなかったという事だ。
シバは顔を上げ、立ち上がった。
「リナリーは剣技をいつからされているのだ?」
先程の動きは只者ではない。
リナリーは小首を傾げながら言った。
「父から幼き頃より習っておりましたが、魔族の子らは習わないのですか?」
人間の国でも女性は剣を習うという慣習はなかったはずである。
「父から、いずれ必要になるなら励むようにと言われておりました。」
いずれ必要になる。
ガボット公爵はリナリーを初めからこちらに嫁がせるつもりだったのか?
「元婚約者の第二王子は、運動神経というものを母のお腹の中に置いてきたと言われる程でしたの。ですから、第二王子に守ってもらえる事はないと、父はため息混じりによく呟いておりました。」
それを聞き、シバは少し不機嫌そうに眉間にシワを寄せた。
「シバ様?」
「リナリーは、、第二王子をまだ思っているのか?」
その言葉にリナリーは驚いた。
「シバ様、、、幻滅しないで下さいませね?」
「なんだ?」
「私、ずっとずっと、思っていた事がありましたの。不敬な事ですから、誰にもいった事はありませんの。」
「ここは魔族の国だ。何を言ってもリナリーを裁ける者はいない。」
その言葉にほっとしたように、リナリーはいたずらっ子のような表情を浮かべると口元に人差し指を当てて言った。
「内緒ですわよ?」
「あ、、、あぁ。」
「実は私、第二王子の事を心の中でずっと、馬鹿で愚鈍な第二王子って呼んでましたの。」
「は?」
「こっちは妃教育だと言われ勉学から裁縫まで毎日毎日、夜遅くまで行っておりましたのに、第二王子のアラン様は、うまく行かないことはすぐに放り出し、それはそれはお馬鹿さんでしたの。」
「そんなにか?」
「はい。私、この国大丈夫かしら?とよく思っておりましたが、父いわく、周りがしっかりしているから大丈夫だが、だからこそお前は頑張らぬばならないと言っておりました。」
「ガボット公爵は出来た人なのだな。」
リナリーは父を思い出し、頷いた。
「はい。仕事人間ですもの。」
「いや、リナリーの事も考えているから、先を見て欲しいとリナリーにそのような事も話していたのだろう?」
「そう、、、でしょうか。」
リナリーの事も考えていたのだろうか?
考えていたら、いきなり魔王へ嫁げなどという事にはならないのではないか?
「まぁ、だが、俺としてはリナリーが来てくれてよかった。」
「え?」
「リナリーを一目見た時から、俺の心はリナリーの物だ。リナリーが来てくれた事に俺は心から感謝したい。」
リナリーを抱き寄せ、シバは言った。
「俺はリナリーを愛している。」
「シバ様。」
「だからリナリー。もう第二王子の事など名前で呼ぶな。忘れてくれ。」
リナリーは思わず小さく笑った。
「はい。もう呼びませんわ。」
「よし。ならもう一度町へいこう。きっとリナリーの姿を皆が見てしまったからな。服の色を変えよう。髪や目の色は魔族にとって変える事は禁忌とされていてな。魔法が使えず申し訳ない。」
リナリーの服は一瞬で若草色へと変わった。ポンチョも深い緑になっている。
「よし、気を取り直して行こうか?」
「はい。シバ様。」
二人は手をつなぎ、その後はのんびりと下町散策を楽しんだのであった。
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