【本編完結】妹に婚約者を奪われた私は、戦場の悪魔と呼ばれる辺境伯へと嫁ぎます。

かのん

文字の大きさ
22 / 44

おまけ 二話

しおりを挟む

 ローレン家に到着したミラは、久しぶりの実家を見上げて大きくため息をついた。

 昔のような美しさが薄れているように感じ、また、自分の家という感じがしない。自分の家はもうエヴァンの傍なのだなと改めて思う。

「ロナウド。ヘレン。いい?馬車の中でも話したように、おりこうさんにね?あと、もし何かされたり、嫌な事があったら、すぐに言うのよ?」

 双子の手をぎゅっと握りながらミラがそう言うと、二人はミラをはさんでぎゅっと抱き着くと天使のような笑顔で言った。

「分かったよ。お母様。」

「お母様だーいすき!」

「ちゃんとおりこうさんにするからね?」

「私も!」

 そんな可愛らしい二人の頭を撫で、ミラは温かい気持ちになりながら屋敷の門をたたく。

 中から現れた執事は見覚えのないものであり、服装も少しばかり粗末なもので、何と言うか、ローレン家の衰退を感じざるを得ない。

 屋敷の中に入ると客間へと通され、ミラは少しばかり緊張する。

 あの頃の自分ではないと思ってはいるが、やはり、昔に引き戻されそうで不安がよぎる。

「お母様?大丈夫?」

「気分悪い?」

 しかし、そんな不安も双子を見れば吹き飛んでいく。

「大丈夫よ。お母様は、大好きなあなた達が一緒にいてくれれば、強くなれるの。」

 その時であった。

 扉が開いたかと思うと、入ってきた人物を見て、ミラは目を丸くした。

 そこには、両親とロンの姿があった。

「・・なんで・・」

 思わずミラがそう口にすると、父と母はミラを睨みつけて言った。

「お前のせいで、我が家はおかしくなったというのに、なんでとは・・」

「本当に・・なんていう女かしら。」

 ミラは震えそうになるのをぐっと堪えると、まっすぐに両親を睨みつけて言った。

「それは、自業自得と言う物でしょう。私には関係のない事です。」

 挨拶もなしに、睨み合いが始まり、ロンは慌てて声を上げた。

「お義父さんお義母さん、落ち着いて下さい。今日は・・そんな話じゃないでしょう?」

 二人は大きくため息をつくと頷いた。

「サマンサが、お前に会いたいと言っている。」

「私は嫌だけれど・・あの子のお願いは聞いてあげるべきでしょう。」

 二人の言葉に、ミラは小さくため息をついた。何だかんだと言ってやはりサマンサの事は可愛いのであろう。最初からサマンサのお見舞いに来たのだから会うに決まっているのだが、何故わざわざ来たのだろうか。

「分かっています。それで、サマンサは?」

 ミラの質問には、ロンが答えた。

「今、病院に入院しているんだ。王立病院だから、明日サマンサを見舞ってやってくれ。」

 ミラはその言葉にうなずくとすぐに席を立ちあがり、三人に向かって言った。

「明日サマンサを見舞ったらすぐに帰ります。では、つかれているので失礼します。部屋は、どこを使えばいいですか?」

 ミラが尋ねると、ロンは執事へと視線を向けた。

 執事はミラを先導するように扉の前へと立ち言った。

「客室へとご案内します。どうぞこちらへ。」

「ええ。」

 結局、挨拶することも、子どもを紹介することもなくミラは部屋へと下がり、ソファへと座ると大きくため息をついた。

「はぁ・・もう、家へ帰りたいわ。」

 双子はそんな母の様子を見て、お互いに顔を見合わせると、にやりと笑ってこっそりと喋る。

「ねぇ、あいつらだよね。」

「うん。あいつらだね。」

 疲れているミラは気づかない。二人の天使が、悪魔のような笑顔でおしゃべりしている事に。


しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

処理中です...