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王家からの招待状編 一話
しおりを挟む国王ヴィクター・エバ・スピリアと妃シェリー・エバ・スピリアとの間の第一子ラクト・エバ・スピリアの十歳の誕生日、ラクトを王太子とする事が発表され、その祝いとして、辺境のアンシェスター領にも招待状が届いた。
国王から直々の招待状であるから、今回ばかりはエヴァンも一緒に王都へと行くこととなり、ミラとエヴァンは揃って王都へと向かう運びとなった。
ただし、今回はロナウドとヘレンは社交界に出た事もないため留守番となり、二人の出立直前までミラにしがみついて駄々をこねていた。
「嫌よ。お母様。」
「お母様が美しすぎて、誰かに攫われたらどうするです!?」
目を真っ赤にして訴えるロナウドとヘレンの頭を優しくミラが撫でていると、エヴァンはにっこりとほほ笑みを浮かべて言った。
「お前達はこの父が、ミラを誰かに攫われるようなミスをするとでも?」
その一言に双子はうっと言葉を詰まらせた。
そして小さく息をついた後に、呟く様な小さな声で言った。
「お父様、くれぐれもお母様を頼みます。」
「お父様、お母様をしっかりと守って下さい。」
その言葉に深々と頷くエヴァンを見て、ミラは苦笑を浮かべると言った。
「貴方達は母を何だと思っているんですか?そんな簡単に攫われませんし、そんな事は起こりませんよ。」
ミラは苦笑ですらも美しく見えるのだから、三人は同時にため息をついた。
「お母様は、分かっていないわ。」
「お母様は、もう少し危機感を持つべきだと思う。」
「あぁ、それは俺も同感だな。ミラ、王都では絶対に一人になるな。」
過保護すぎる家族の姿にミラは大きくため息をつくと、双子の頭を撫でてからエヴァンと共に馬車へと乗り込んだ。
「行ってくる。レン。双子と領を頼んだぞ。」
エヴァンがそう声をかけると双子の後ろに控えていたレンはしっかりと頷いた。
「では行ってきます。良い子でね?」
ミラの言葉に双子は潤んだ瞳で頷き、手を振った。
『・・・はい。いってらっしゃい。気を付けて。』
ミラも手を振り返し、馬車はゆっくりと動き出す。その途端、双子の悲鳴のような泣き声が聞こえ、それをレンガ宥めている声も聞こえる。
その様子にミラははらはらとした様子でエヴァンに言った。
「大丈夫かしら?」
「大丈夫だろう。」
まだまだ五歳児だと思うミラと、もう五歳児だと考えるエヴァンとではそもそもの感覚が違う。
ただ一緒なのは、双子と離れて少しばかり寂しいと思う気持ちである。
「お土産いっぱい買ってきてあげましょうね。」
「あぁ。」
ミラとエヴァンはそっとお互いの手を繋ぎ、向かい合うと軽いキスを交わした。
そして小さく笑いあう。
「二人きりも、久しぶりですね。」
「あぁ。・・・たまには、ゆっくり二人の時間も楽しもう。」
頬を染め可愛らしく微笑むミラの姿に、エヴァンは結婚をして出産もし、子育てにも積極的に参加しているのにミラは出会った頃とその美しさは変わらないなと感じた。
「・・・双子の不吉な言葉が真実にならないように、俺は気を引き締めなければいけないな。」
「まぁ、心配性ですこと。」
ミラは楽しげに笑うが、内心笑い事ではないと思うエヴァンであった。
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