33 / 44
王家からの招待状編 六話
しおりを挟む
豪華絢爛な王宮の舞踏会は、第一王子が王太子となる祝いの席である。その会場には王子の目に一目でも留まろうと気合を入れて朝から美しく着飾ってきた令嬢達の姿があるが、一様に、噂を耳にして顔色を悪くしている。
会場内にいるご夫人方の中で最も目を今引いているのは、戦場の悪魔アンシェスター家に嫁いだミラ・アンシェスターその人である。
会場内は賑わっているがその中心にいるのはミラであった。
貴族社会を束ねているご夫人方がこぞってミラに挨拶に向かい、そして楽しそうに、親しそうに会話に花を咲かせている。
気難しいといわれるご夫人までもが、ミラをまるで自身の娘のように、いやそれ以上に会えた事を喜び、会話している姿を見た者達は、ごくりと息を飲む。
「美しいわねぇミラ様。」
「そりゃあそうよ。私達の代で最も輝いていたご令嬢でしたもの。」
「そうですよねぇ。はぁ、ミラ様であれば、ラクト殿下のお気持ちを攫ってしまうのも無理はありませんわ。」
「連日続けてお茶をご一緒したそうよ。」
「ラクト殿下も気難しい方だと話をお聞きしたけれど、ミラ様・・さすがですわねぇ。」
ほんの数日前までは、戦場の悪魔の元へと嫁いだ哀れな令嬢として名高かった彼女であったが、今回、ラクトの目に留まった事からその印象はがらりと変わり、自ら愛を勝ち得た素晴らしき女性として注目を集めている。
元々、上流階級のご夫人方の中では評判の良かったミラである。若い世代の令嬢達は噂ばかりを耳にしていた為に勘違いをしていたが、現実を今目の前に叩きつけられている。
所作一つ、会話一つ、ミラと対峙すれば洗練された淑女であることはすぐに分かるものだ。
ラクトの目に留まると意気込んでいた令嬢達だが、そんなミラの姿に自信がごりごりと削られていく。
会場の中には煌びやかな令嬢達が可愛らしく着飾っていると言うのに、注目はミラへと集まる。
流行をさりげなく取り入れた、落ち着いたデザインのドレスはミラにとてもよく似合っており、エヴァンに幸せそうにエスコートされる姿は令嬢達の心を動揺させる。
「ミラ様は幸せそうね・・・」
「えぇ・・私・・もう少し婚約者と向き合ってみようかしら。」
「私も。」
ラクトに婚約者が決まっていないと言う事実から、婚約者よりも少しでも可能性があれば王子と親しくなりたいと願っていた令嬢達は、自分達の過ちに気付く。
「・・・ミラ様のように幸せになれるかしら。」
そんなつぶやきが会場のそこかしらから聞こえてきた時、会場内に王族が入場し、場は盛り上がる。
そして、国王の挨拶の後に第一王子であるラクトは国王に王太子に指名され、皆が拍手を送る。
ラクトは王太子となり始めての挨拶を行い、その場で、微笑を浮かべるとミラの方へと視線を向けて口を開いた。
「王太子となり、私もいずれ婚約者を得たいと考えています。ですが、それは今すぐにと言うわけではありません。私の婚約者となる人はこの国を支えていく為にたくさんの努力を強いられる事でしょう。知識と教養そして国を思う気持ちがなければ務まらないと考えます。」
王太子妃となる憧れを持っていた令嬢達は、その言葉に緊張した面持ちでうなずく。けれど、次の一言でほとんどの令嬢の心は砕かれる。
「私はアンシェスター夫人のように、凛と美しくそれでいて賢い、そんな女性を王太子妃へと迎えたいと考えています。いずれその出会いがある事を楽しみにしていますね。では、今日は祝いの席に来て下さり感謝いたします。今宵を楽しみましょう。」
ラクトの言葉に会場は拍手が渦巻くが、令嬢達は顔色を悪くしているものが多い。ミラがどれほどまでに優秀なのか、この数日の噂と、会場のご夫人方の会話から聞こえてくる。
それは簡単に手にいられるような優秀さではないと分かるからこそ、自分では王太子の婚約者にはなれないのだという諦めに繋がる。
国王はラクトの言葉に成る程とため息をつくと、内心で苦笑を浮かべる。
エヴァンの妻であるミラを、婚約者となる令嬢達の目標に持ってくるとはかなり酷な事である。ミラは今後簡単に舞踏会に参加することはないだろうから令嬢達からの嫌がらせや被害もないと考えてのことだろう。
自分の息子ながらに使えるものは何でも使おうと言う根性が恐ろしい。
舞踏会の会場には音楽が流れ始め、ラクトが会場へと降りると真っ直ぐに歩いていく。その目指す先にはもちろん、ミラが居る。
「ミラ夫人。どうかファーストダンスを踊る栄誉を私に下さいませんか?」
ミラはその言葉にくすくすと微笑ましげに笑うと、ちらりとエヴァンを見てから言った。
「行ってきてもよろしいかしら?」
「・・・・・今回だけです。殿下、妻を貸すのは今回だけですよ。」
ギロリと睨まれたラクトは肩をすくめて頷いた。
実の所、今回の一件についてはミラにも、エヴァンにも事前に了解を取ってあった。
ラクトはにっこりとほほ笑むとミラの手を取り、会場の中央へと進んで行く。そして、曲が始まると同時に二人は優雅に踊り始める。
難しいステップなのにもかかわらず、優雅さを崩すことなく踊る二人の姿に皆が息をつく。
令嬢達は戦意喪失している者が多い。
ミラはその様子に少しばかりかわいそうだなと思っていいると、ラクトが口を開いた。
「ミラ夫人、今回はご協力ありがとうございます。貴方のおかげで、上手くいきそうだ。」
そんな楽しそうなラクトの様子に、ミラは、この話を最初にされた時の事を思い出した。
会場内にいるご夫人方の中で最も目を今引いているのは、戦場の悪魔アンシェスター家に嫁いだミラ・アンシェスターその人である。
会場内は賑わっているがその中心にいるのはミラであった。
貴族社会を束ねているご夫人方がこぞってミラに挨拶に向かい、そして楽しそうに、親しそうに会話に花を咲かせている。
気難しいといわれるご夫人までもが、ミラをまるで自身の娘のように、いやそれ以上に会えた事を喜び、会話している姿を見た者達は、ごくりと息を飲む。
「美しいわねぇミラ様。」
「そりゃあそうよ。私達の代で最も輝いていたご令嬢でしたもの。」
「そうですよねぇ。はぁ、ミラ様であれば、ラクト殿下のお気持ちを攫ってしまうのも無理はありませんわ。」
「連日続けてお茶をご一緒したそうよ。」
「ラクト殿下も気難しい方だと話をお聞きしたけれど、ミラ様・・さすがですわねぇ。」
ほんの数日前までは、戦場の悪魔の元へと嫁いだ哀れな令嬢として名高かった彼女であったが、今回、ラクトの目に留まった事からその印象はがらりと変わり、自ら愛を勝ち得た素晴らしき女性として注目を集めている。
元々、上流階級のご夫人方の中では評判の良かったミラである。若い世代の令嬢達は噂ばかりを耳にしていた為に勘違いをしていたが、現実を今目の前に叩きつけられている。
所作一つ、会話一つ、ミラと対峙すれば洗練された淑女であることはすぐに分かるものだ。
ラクトの目に留まると意気込んでいた令嬢達だが、そんなミラの姿に自信がごりごりと削られていく。
会場の中には煌びやかな令嬢達が可愛らしく着飾っていると言うのに、注目はミラへと集まる。
流行をさりげなく取り入れた、落ち着いたデザインのドレスはミラにとてもよく似合っており、エヴァンに幸せそうにエスコートされる姿は令嬢達の心を動揺させる。
「ミラ様は幸せそうね・・・」
「えぇ・・私・・もう少し婚約者と向き合ってみようかしら。」
「私も。」
ラクトに婚約者が決まっていないと言う事実から、婚約者よりも少しでも可能性があれば王子と親しくなりたいと願っていた令嬢達は、自分達の過ちに気付く。
「・・・ミラ様のように幸せになれるかしら。」
そんなつぶやきが会場のそこかしらから聞こえてきた時、会場内に王族が入場し、場は盛り上がる。
そして、国王の挨拶の後に第一王子であるラクトは国王に王太子に指名され、皆が拍手を送る。
ラクトは王太子となり始めての挨拶を行い、その場で、微笑を浮かべるとミラの方へと視線を向けて口を開いた。
「王太子となり、私もいずれ婚約者を得たいと考えています。ですが、それは今すぐにと言うわけではありません。私の婚約者となる人はこの国を支えていく為にたくさんの努力を強いられる事でしょう。知識と教養そして国を思う気持ちがなければ務まらないと考えます。」
王太子妃となる憧れを持っていた令嬢達は、その言葉に緊張した面持ちでうなずく。けれど、次の一言でほとんどの令嬢の心は砕かれる。
「私はアンシェスター夫人のように、凛と美しくそれでいて賢い、そんな女性を王太子妃へと迎えたいと考えています。いずれその出会いがある事を楽しみにしていますね。では、今日は祝いの席に来て下さり感謝いたします。今宵を楽しみましょう。」
ラクトの言葉に会場は拍手が渦巻くが、令嬢達は顔色を悪くしているものが多い。ミラがどれほどまでに優秀なのか、この数日の噂と、会場のご夫人方の会話から聞こえてくる。
それは簡単に手にいられるような優秀さではないと分かるからこそ、自分では王太子の婚約者にはなれないのだという諦めに繋がる。
国王はラクトの言葉に成る程とため息をつくと、内心で苦笑を浮かべる。
エヴァンの妻であるミラを、婚約者となる令嬢達の目標に持ってくるとはかなり酷な事である。ミラは今後簡単に舞踏会に参加することはないだろうから令嬢達からの嫌がらせや被害もないと考えてのことだろう。
自分の息子ながらに使えるものは何でも使おうと言う根性が恐ろしい。
舞踏会の会場には音楽が流れ始め、ラクトが会場へと降りると真っ直ぐに歩いていく。その目指す先にはもちろん、ミラが居る。
「ミラ夫人。どうかファーストダンスを踊る栄誉を私に下さいませんか?」
ミラはその言葉にくすくすと微笑ましげに笑うと、ちらりとエヴァンを見てから言った。
「行ってきてもよろしいかしら?」
「・・・・・今回だけです。殿下、妻を貸すのは今回だけですよ。」
ギロリと睨まれたラクトは肩をすくめて頷いた。
実の所、今回の一件についてはミラにも、エヴァンにも事前に了解を取ってあった。
ラクトはにっこりとほほ笑むとミラの手を取り、会場の中央へと進んで行く。そして、曲が始まると同時に二人は優雅に踊り始める。
難しいステップなのにもかかわらず、優雅さを崩すことなく踊る二人の姿に皆が息をつく。
令嬢達は戦意喪失している者が多い。
ミラはその様子に少しばかりかわいそうだなと思っていいると、ラクトが口を開いた。
「ミラ夫人、今回はご協力ありがとうございます。貴方のおかげで、上手くいきそうだ。」
そんな楽しそうなラクトの様子に、ミラは、この話を最初にされた時の事を思い出した。
42
あなたにおすすめの小説
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる