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アンシェスター家の双子 一話
しおりを挟むアンシェスター家には、双子の兄妹がいる。
兄をロナウド、妹をヘレンと言う。今年で五歳になる双子はそれはそれはアンシェスター家で大切に育てられており、母のミラは双子に毎日たくさんのキスを送る。
「ロナウド、ヘレン、愛しているわ。」
双子の部屋で、夜眠る前、おでこに母からキスを送られた二人は、嬉しそうに微笑む。
「僕もお母様を愛しているよ。」
「私も、お母様を愛しているわ。」
そんな二人は、夜の七時にはいつもベッドにはいる。
本当は夜更かしをしたい二人であるが、ミラは子どもはたくさん寝るのも仕事だと早々にいつもベッドへと二人を入れてしまう。
「また明日たくさん遊びましょうね。」
そう言ってミラが去った後に、二人はベッドの中でこそこそと話を始めた。
「ねぇヘレン、もうお母様行ったかな?」
「ええ。ロナウド。行ったようよ。」
いつもは母の言いつけをきちんと守る双子であるが、今日はにやりと笑みを浮かべるとさっとベッドから飛び降りて、まるでどこかのスパイのように扉へと張り付く。
「足音もしない。」
「大丈夫ね。さぁ、行きましょう。」
扉を少しあけ、辺りを見回して誰もいない事を確かめると、双子は蝋燭の灯る薄暗い廊下を足音を出来るだけさせないように走って行く。
階段を下りて目指すのは中庭の奥にあるエヴァンの個人用の稽古場である。
この時間はエヴァンは最後に一人そこで稽古をし、屋敷へと帰って来る。
それを知っている二人は、稽古場にて剣を振るう父の姿を確認すると、ゆっくりと物陰から近づいていく。
「よし、気づかれていないな。」
「ええ。気づかれていないわ。」
そのこしょこしょ話に、エヴァンは剣を鞘へと戻すと頭をぽりぽりと掻いてから言った。
「いやいや、ばれているに決まっているだろう。なんだ、二人とも、また来たのか?」
エヴァンに気づかれていることに、双子はびくりと肩を震わせると、おずおずと物陰から出て、父の前へととてとてと歩いて行った。
「お父様、こんばんは。」
「お父様、御稽古ご苦労様です。」
へらりと笑みを浮かべた二人の頭を、エヴァンは仕方がないとばかりにため息をついてから、少し乱雑に撫でくりまわした。
「いたずらっ子の可愛い子らめ。さぁ、今日は一体どうしたんだい?」
その言葉に双子はぱっと表情を明るくする。
「お父様!お願いがあるんだ。」
「と~っても大事なお願いなの!」
瞳を潤ませてお願いのポーズをとる双子に、エヴァンは少し考えると言った。
「そうだな。とりあえず、どんなお願いかは聞くが、この前のようなお願いならきかないぞ。」
「え?あれは、あの王都からやってきた男が悪いんだよ。」
「そうよ。お母様のことを、いやらしい目つきで見たあの男が悪いと思うわ。」
「ふむ。俺もそれには同意だが、だからといって、王都から来た王家の使者である騎士の男性に、精神的かつ肉体的苦痛を与えたのは感心しない。あの男、帰り際は青ざめてふらふらだったぞ。」
その言葉に、可愛らしく双子は小首をかしげる。
「僕はただ、手合わせをして、あまりにも弱いから鼻で笑っただけだよ?」
「あら、私だって子どもに負けるなんて軟弱すぎるから、お父様の行っている訓練のメニューを伝えて応援しただけよ?」
さも当たり前のように呟かれた言葉に、エヴァンはため息をつくと言った。
「はぁ、それで、今回は一体何をしでかすつもりだ?」
双子はにっこりとほほ笑むと、王都から母をたずねてやってきたロンという男性が街に泊りに来ているらしいので明日会いに行ってもいいか尋ねた。
エヴァンはそれに顔を歪めた。
「会う必要はない。門前払いしたのは、お前達も知っているだろう?」
双子は頷くと言った。
『お礼をしようと思って。だって、その人のおかげで、お母様とお父様は結婚できたのでしょう?』
天使のような笑顔で、悪魔のような考えを持つ双子を、止めるべきか否か、エヴァンは顎に手を当てて考えるのであった。
★★★★
おまたせして申し訳ありません。
双子の番外編書いていこうと思います。よろしければ、どうぞ!
☆お知らせ☆
以前、児童書大賞に応募し、読者賞を頂いた『魔法使いアルル』がありがたい事に書籍化を進行していくこととなりました。現在はまだ無料で読めますので、よろしければそちらもお楽しみいただけたら嬉しいです。
作者 かのん
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