天と地と風の祝福を~人生を狂わされた少女の逆転劇物語~

かのん

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四話 出会い

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 その少年の瞳はアメジストのように美しい色をしており、髪は赤みがかっていた。笑みを浮かべる様子もなく、ただ、こちらを伺うように見下ろしている。

 綺麗な格好をしているのから見て、恐らくは裕福な家の子なのだろう。中心街のこの公園の周りは、宝石店や洋服店なども立ち並んでおり比較的治安のよい場所だ。ちらりと周りを見ると、公園の入り口にこちらをじっと見つめる執事服の男性が見えた。

 執事がついているということは貴族なのかもしれない。

 今日はやたらと綺麗な人に会うなと、私は思いながら小さな声で答えた。

「・・・赤ちゃんを・・・お家に返してあげたいのだけれど・・・上手くいかないの。」

「・・赤ちゃん?」

 少年は眉間にしわを寄せると、私の抱いている赤ん坊の顔を覗き込んで、目を丸くすると驚いたように私の顔を見た。

「・・・この子、どうしたの?」

 こちらの様子を窺うような少年に、私は小さな声で答えた。

「・・・買ったの。路地裏で・・男達が殺すって言ってたから、それなら頂戴って・・・」

「っえ?」

 平和な世界で暮らす少年からしたら、路地裏での出来事が衝撃的だったのかもしれない。私は小さくため息をつきながら少年に言った。

「お家があるなら、返してあげたいって思ったの・・・でも・・・」

「騎士団に連れては行かなかったの?」

 私の様子を伺うようなその言葉に私はふるふると首を横に振った。

「連れて行ったのだけれど・・・門番の人が怖くって・・・逃げてきちゃったの・・・」

 声が震えて、涙が流れそうになる。

 おばさんにぶたれても、もうそんなに気にしなくなったのに、赤ん坊を家に帰してあげられないと思うと、悲しくなって苦しくなる。

 空が曇り始め、日の暖かさが感じられなくなっていく。

 少年は、私の頭をやさしくぽんっと撫でた。

 とてもぎこちない撫で方で、髪の毛がぼさぼさになっていくのが分かるけれど少年が優しい子なのだろうという事が分かった。

「頑張ったんだな。」

「・・・うん。」

 少年は小さく息をつくと、私をベンチに座らせ、自分もベンチに腰かけて言った。

「僕のお父様に相談してみよう?今、仕事でいないけれど、もうそろそろ終わる時間だから。ね?」

「・・・いいの?」

「うん。多分、僕はその子知っているかも。」

「え?」

 その言葉に驚いていると、カランコロンと近くの宝石店の扉が開き、そこから見た事のある紳士がこちらを見て目を丸くした。

「あ、父様だ。」

 先程花を買ってくれた紳士がこちらに向かって歩いてくるのが見え、こんな偶然があるのかと驚いてしまう。

「あれ?・・・君はお花売りの女の子じゃないか。えっと、どうしたんだい?」

「父様この子知っているの?それよりも、とにかく、この赤ちゃん見てくれない?」

「ん?」

 紳士がまさか少年の父親だとは思わなかった。だが、この優しい男性ならば助けてくれるかもしれないと思っていると、男性の顔が次第に険しくなっていくのを見て、少し怖くなった。

 また、殴られるかもしれない。

 衝動的にそう思って身を固め、目をぎゅっと閉じる。

 けれど、思っていた痛みは体に訪れず、目を開くと、こちらを見つめて悲しげに目を細める男性と目が合った。

「この赤ん坊の事も詳しく聞きたいけれど、その前に、その体の傷はどうしたんだい?」

「え?」

「怪我をしているし、泥だらけじゃないか。」

 少年もその事は気にしていたのか、私の返事を待っている。

 私はどう答えていいのかわからず、赤ん坊を男達から買ったところから、出来るだけ丁寧に話をしていった。話をしていくと男性の顔も、少年の顔も険しくなっていく。

 話をして、本当に大丈夫だったのだろうかと心配になってくる。

 男性は小さく息をつくと私を赤ん坊ごと抱きかかえて言った。

「一度屋敷に連れて行くよ。」

 私は連れ去られるのではないかという恐怖で悲鳴を上げそうになったが、少年の声にどうにかそれを堪える。

「心配しないで。怖い事はないよ。」

「突然ごめんね。だけど、君、手足にすごい擦り傷じゃないか。それに・・・・」

 ちらりとスカートの裾から見えた足には、今日の物ではない痣が至る所に見受けられ、少女は幼いにしてもあまりに軽かった。

「とにかく、一緒に連れて行く。ご両親に先に知らせた方がいいかい?」

「えっと・・・大丈夫。・・・夜までいつも花売りしているから・・・・」

 その言葉に男性は言葉を詰まらせ、何かを言おうとしたが黙り、私を抱きかかえて馬車に乗せたのであった。




 

 
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