4 / 17
四話 出会い
しおりを挟む
その少年の瞳はアメジストのように美しい色をしており、髪は赤みがかっていた。笑みを浮かべる様子もなく、ただ、こちらを伺うように見下ろしている。
綺麗な格好をしているのから見て、恐らくは裕福な家の子なのだろう。中心街のこの公園の周りは、宝石店や洋服店なども立ち並んでおり比較的治安のよい場所だ。ちらりと周りを見ると、公園の入り口にこちらをじっと見つめる執事服の男性が見えた。
執事がついているということは貴族なのかもしれない。
今日はやたらと綺麗な人に会うなと、私は思いながら小さな声で答えた。
「・・・赤ちゃんを・・・お家に返してあげたいのだけれど・・・上手くいかないの。」
「・・赤ちゃん?」
少年は眉間にしわを寄せると、私の抱いている赤ん坊の顔を覗き込んで、目を丸くすると驚いたように私の顔を見た。
「・・・この子、どうしたの?」
こちらの様子を窺うような少年に、私は小さな声で答えた。
「・・・買ったの。路地裏で・・男達が殺すって言ってたから、それなら頂戴って・・・」
「っえ?」
平和な世界で暮らす少年からしたら、路地裏での出来事が衝撃的だったのかもしれない。私は小さくため息をつきながら少年に言った。
「お家があるなら、返してあげたいって思ったの・・・でも・・・」
「騎士団に連れては行かなかったの?」
私の様子を伺うようなその言葉に私はふるふると首を横に振った。
「連れて行ったのだけれど・・・門番の人が怖くって・・・逃げてきちゃったの・・・」
声が震えて、涙が流れそうになる。
おばさんにぶたれても、もうそんなに気にしなくなったのに、赤ん坊を家に帰してあげられないと思うと、悲しくなって苦しくなる。
空が曇り始め、日の暖かさが感じられなくなっていく。
少年は、私の頭をやさしくぽんっと撫でた。
とてもぎこちない撫で方で、髪の毛がぼさぼさになっていくのが分かるけれど少年が優しい子なのだろうという事が分かった。
「頑張ったんだな。」
「・・・うん。」
少年は小さく息をつくと、私をベンチに座らせ、自分もベンチに腰かけて言った。
「僕のお父様に相談してみよう?今、仕事でいないけれど、もうそろそろ終わる時間だから。ね?」
「・・・いいの?」
「うん。多分、僕はその子知っているかも。」
「え?」
その言葉に驚いていると、カランコロンと近くの宝石店の扉が開き、そこから見た事のある紳士がこちらを見て目を丸くした。
「あ、父様だ。」
先程花を買ってくれた紳士がこちらに向かって歩いてくるのが見え、こんな偶然があるのかと驚いてしまう。
「あれ?・・・君はお花売りの女の子じゃないか。えっと、どうしたんだい?」
「父様この子知っているの?それよりも、とにかく、この赤ちゃん見てくれない?」
「ん?」
紳士がまさか少年の父親だとは思わなかった。だが、この優しい男性ならば助けてくれるかもしれないと思っていると、男性の顔が次第に険しくなっていくのを見て、少し怖くなった。
また、殴られるかもしれない。
衝動的にそう思って身を固め、目をぎゅっと閉じる。
けれど、思っていた痛みは体に訪れず、目を開くと、こちらを見つめて悲しげに目を細める男性と目が合った。
「この赤ん坊の事も詳しく聞きたいけれど、その前に、その体の傷はどうしたんだい?」
「え?」
「怪我をしているし、泥だらけじゃないか。」
少年もその事は気にしていたのか、私の返事を待っている。
私はどう答えていいのかわからず、赤ん坊を男達から買ったところから、出来るだけ丁寧に話をしていった。話をしていくと男性の顔も、少年の顔も険しくなっていく。
話をして、本当に大丈夫だったのだろうかと心配になってくる。
男性は小さく息をつくと私を赤ん坊ごと抱きかかえて言った。
「一度屋敷に連れて行くよ。」
私は連れ去られるのではないかという恐怖で悲鳴を上げそうになったが、少年の声にどうにかそれを堪える。
「心配しないで。怖い事はないよ。」
「突然ごめんね。だけど、君、手足にすごい擦り傷じゃないか。それに・・・・」
ちらりとスカートの裾から見えた足には、今日の物ではない痣が至る所に見受けられ、少女は幼いにしてもあまりに軽かった。
「とにかく、一緒に連れて行く。ご両親に先に知らせた方がいいかい?」
「えっと・・・大丈夫。・・・夜までいつも花売りしているから・・・・」
その言葉に男性は言葉を詰まらせ、何かを言おうとしたが黙り、私を抱きかかえて馬車に乗せたのであった。
綺麗な格好をしているのから見て、恐らくは裕福な家の子なのだろう。中心街のこの公園の周りは、宝石店や洋服店なども立ち並んでおり比較的治安のよい場所だ。ちらりと周りを見ると、公園の入り口にこちらをじっと見つめる執事服の男性が見えた。
執事がついているということは貴族なのかもしれない。
今日はやたらと綺麗な人に会うなと、私は思いながら小さな声で答えた。
「・・・赤ちゃんを・・・お家に返してあげたいのだけれど・・・上手くいかないの。」
「・・赤ちゃん?」
少年は眉間にしわを寄せると、私の抱いている赤ん坊の顔を覗き込んで、目を丸くすると驚いたように私の顔を見た。
「・・・この子、どうしたの?」
こちらの様子を窺うような少年に、私は小さな声で答えた。
「・・・買ったの。路地裏で・・男達が殺すって言ってたから、それなら頂戴って・・・」
「っえ?」
平和な世界で暮らす少年からしたら、路地裏での出来事が衝撃的だったのかもしれない。私は小さくため息をつきながら少年に言った。
「お家があるなら、返してあげたいって思ったの・・・でも・・・」
「騎士団に連れては行かなかったの?」
私の様子を伺うようなその言葉に私はふるふると首を横に振った。
「連れて行ったのだけれど・・・門番の人が怖くって・・・逃げてきちゃったの・・・」
声が震えて、涙が流れそうになる。
おばさんにぶたれても、もうそんなに気にしなくなったのに、赤ん坊を家に帰してあげられないと思うと、悲しくなって苦しくなる。
空が曇り始め、日の暖かさが感じられなくなっていく。
少年は、私の頭をやさしくぽんっと撫でた。
とてもぎこちない撫で方で、髪の毛がぼさぼさになっていくのが分かるけれど少年が優しい子なのだろうという事が分かった。
「頑張ったんだな。」
「・・・うん。」
少年は小さく息をつくと、私をベンチに座らせ、自分もベンチに腰かけて言った。
「僕のお父様に相談してみよう?今、仕事でいないけれど、もうそろそろ終わる時間だから。ね?」
「・・・いいの?」
「うん。多分、僕はその子知っているかも。」
「え?」
その言葉に驚いていると、カランコロンと近くの宝石店の扉が開き、そこから見た事のある紳士がこちらを見て目を丸くした。
「あ、父様だ。」
先程花を買ってくれた紳士がこちらに向かって歩いてくるのが見え、こんな偶然があるのかと驚いてしまう。
「あれ?・・・君はお花売りの女の子じゃないか。えっと、どうしたんだい?」
「父様この子知っているの?それよりも、とにかく、この赤ちゃん見てくれない?」
「ん?」
紳士がまさか少年の父親だとは思わなかった。だが、この優しい男性ならば助けてくれるかもしれないと思っていると、男性の顔が次第に険しくなっていくのを見て、少し怖くなった。
また、殴られるかもしれない。
衝動的にそう思って身を固め、目をぎゅっと閉じる。
けれど、思っていた痛みは体に訪れず、目を開くと、こちらを見つめて悲しげに目を細める男性と目が合った。
「この赤ん坊の事も詳しく聞きたいけれど、その前に、その体の傷はどうしたんだい?」
「え?」
「怪我をしているし、泥だらけじゃないか。」
少年もその事は気にしていたのか、私の返事を待っている。
私はどう答えていいのかわからず、赤ん坊を男達から買ったところから、出来るだけ丁寧に話をしていった。話をしていくと男性の顔も、少年の顔も険しくなっていく。
話をして、本当に大丈夫だったのだろうかと心配になってくる。
男性は小さく息をつくと私を赤ん坊ごと抱きかかえて言った。
「一度屋敷に連れて行くよ。」
私は連れ去られるのではないかという恐怖で悲鳴を上げそうになったが、少年の声にどうにかそれを堪える。
「心配しないで。怖い事はないよ。」
「突然ごめんね。だけど、君、手足にすごい擦り傷じゃないか。それに・・・・」
ちらりとスカートの裾から見えた足には、今日の物ではない痣が至る所に見受けられ、少女は幼いにしてもあまりに軽かった。
「とにかく、一緒に連れて行く。ご両親に先に知らせた方がいいかい?」
「えっと・・・大丈夫。・・・夜までいつも花売りしているから・・・・」
その言葉に男性は言葉を詰まらせ、何かを言おうとしたが黙り、私を抱きかかえて馬車に乗せたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。
木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。
不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。
当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。
多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。
しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。
その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。
私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。
それは、先祖が密かに残していた遺産である。
驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。
そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。
それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。
彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。
しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。
「今更、掌を返しても遅い」
それが、私の素直な気持ちだった。
※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。
三月べに
恋愛
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。
帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!
衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?
何故、逆ハーが出来上がったの?
【完結】私を無知だと笑った妹は正真正銘のバカでした(姉はため息を吐くだけです)
花波薫歩
恋愛
ブリジットの妹メリザンドは、お金欲しさにペラ新聞に貴族の暴露話を書いている。そのことは家族の誰も知らなかった。もちろんブリジットも。
その記事を読んだブリジットは眉をひそめた。人の小さなミスをあげつらい、鬼の首を取ったかのように偉そうに見下す記事には品性のかけらもなかった。
人を見下して笑うのはそんなに楽しい?
自分がされたらどんな気持ちになる?
ブリジットの幼馴染みで婚約者でもあるクロードは現在辺境伯の地位にある。ふざけて彼を「田舎貴族」と呼んだブリジットの言葉を真に受けて、メリザンドは姉をディスる話を新聞に書く。やがてそれを書いたのがメリザンドだと父にバレてしまい……。
短編。全12回。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さくら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる