虐げられ魔物の国に救われた少女は、恩を返すために人間の王国へと嫁ぐ!?

かのん

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三話

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 ガリレア王国では、魔物の姫君を誰に嫁がせるかで問題になっていた。

 それはそうである。

 国王であるアレックスは魔物の国の王ザンと対面したことがあるが、それはそれは恐ろしい外見をしていた。

 戦場でその姿を目にした者は、それを悪魔のようだ獣のようだとよくたとえる。

 だが、結婚相手は必要なのである。

 ガリレア王国は、隣国に魔物の国、そして魔物の国の先にはリフレ帝国がある。数年前リフレ王国はクーデターが発生し、王座は空のまま、緊迫した状態が続いている。

 本来ならば王族が王位につくはずだが、リフレ帝国には独自の国王の選出方法があるとのことで、それ故に王座は空のままなのだそうだ。

 そんな状況だからこそ、先にリフレ帝国と魔物の国が手を組んだらやっかいだと、今回の友好条約が結ばれる事となった。

「誰が・・・適切であろうか。」

 アレックスは宰相であるロドロフに視線を向けると、ロドロフは二重あごに手を当てて、ふむと唸り声を上げた。

 王子は二人いるが、どちらもまだ若く、十二と、十である。魔物の国の姫君なのだから王子に嫁ぐのが普通ではあるが、まだ若く幼い王子らに魔物の姫君を上手く立てて生活することが可能だとは思わない。

「王子らは無理でしょうなぁ。」

「そうだな。私の側妃にすることも考えたが・・・正妃が泣いて嫌がった。」

「そりゃあそうでしょうねぇ。それに、この国に魔物の王子や姫君が産まれたら・・・それはそれは大変なことになりそうですな。」

「あ・・・あぁ。」

 アレックスとロドロフはしばらく無言の後に、同時に口を開いた。

『騎士団長のジャックフォッド・・・。』

 二人は顔を見合わせたのちに、お互いに頷いた。

 騎士団長ジャックフォッド。別名を戦場の死神。

「ジャックフォッドは、侯爵家の三男坊であったな。」

「はい。しかも功績は数知れず。これを期に爵位を与えましょう。」

「そうだな。そして、功績を評して魔物の姫君を嫁がせる相手としよう。彼ならばもし魔物の姫君が暴れても抑えられるであろう。」

「そうですな。それに、魔物の姫君であれば、ジャックフォッドのあの外見も受け入れる事でしょう。」

「そうだのぉ。あの顔を受け入れられる人間の乙女はなかなかおらんであろうからな。ちょうど良かったやもしれん。」

「はい。ジャックフォッドも、喜ぶ事でしょう。」

 二人はやっと話の執着地点が見えてほっと胸をなでおろした。

 そしてその事はその日のうちにまとめられ、そしてジャックフォッドを呼び出し、伝えられる運びとなった。

 呼び出されたジャックフォッドは、王の言葉が信じられずに目を丸くした。

「国王陛下。申し訳ございません。もう一度、お聞かせ願えますか?」

「うむ。ジャックフォッド騎士団長には、これまでの功績を讃え、公爵位を与え、その誉れ高い活躍故に、この度友好の証として嫁いでくる魔物の姫君の夫となる事を命じる。」

「魔物の・・・姫君を、嫁に娶れと?」

「その通りだ。そなたも、嫁をそろそろと考えておっただろう?」

「い、いえ。俺、いや私は三男坊ですし、継ぐ家もないので未婚のまま剣に一生を捧げようと思っておりました。」

「素晴らしき志。まさに姫君の夫にふさわしい。引き受けてくれるな?」

 有無を言わせないその言葉に、ジャックフォッドは目を細めながらも頭を垂れた。

「国王陛下の命ならば、もちろんでございます。」

「では頼む。褒章として素晴らしき館を用意しよう。そちらに姫君と住まうと良い。」

「っは。ありがたき幸せ。」

「うむ。」

 ジャックフォッドは、その後国王の前から下がると、執務室に戻ってから机に項垂れた。

「魔物の姫君を妻に・・・・俺に・・・妻・・・どうすればいいんだ。」

 ジャックフォッドは大男であった。騎士団長として恐れられており、そればかりではなく、顔面には大きな切り傷があり、それを隠すために顔はけむくじゃらの髭でおおわれていた。

 かすかに見える瞳は、忌み嫌われる赤であり、それもありジャックフォッドは戦場の死神と呼ばれているのである。

 こんな外見の自分は一生結婚など出来るわけがないと思っていた。

 だからこそ、ジャックフォッドから大きなため息が漏れた。

「女性の扱いなど・・・俺は知らんぞ。」

 これまで女性と付き合った事どころか、半径一メートルにさえ近づけてもらえない巨漢の男である。

 それ故に、ジャックフォッドは外見とは似合わず初心であった。

「っは。そうだ。ドレスや小物、贈り物も準備せねばなるまい。あぁ、明日、新しい館には案内してくれると言っていたから、部屋の準備もしなければ。大変だ。女性に好まれる館をどうやって仕上げればいい?あぁ・・・誰か助けてくれ。」

 魔物の女性。

 ジャックフォッドはもちろん魔物を目にした事もある。戦った事もある。そして時として魔物と話したこともあった。

 それ故に、魔物も人と変わらぬことを知っていた。

 だからこそ、悩むのだ。

「嫌われないようにしなければなるまい。」

 もう一度言っておこう。

 この男は、外見に似合わず、初心な男であると。











 
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