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二話 クズ王子との思い出
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十歳の婚約した時から今までの事を、ルナは静かに思い出していた。
婚約した時に言われた一言は、今でも忘れない。
「ふーん。まぁ、いいよ。可愛いし」
二人の結婚は政略結婚なので、いいでも悪いでもないのだが、そう言われた時は、可愛いと言われたことだけが嬉しくてルナははしゃいでいた。
そう。
ルナはサイラスに憧れを抱いていたのである。
王子様が自分の婚約者になったということは夢のようで、この人と自分は幸せになるのだと瞳をキラキラとさせながら乙女の妄想は広がっていった。
一緒に花を摘み、花冠を作ったルナはサイラスの頭にかぶせた時はルナはその美しさに見惚れた。
「ふふっ。サイラス様は天使のように美しいですね」
「ん? 当たり前だろう?」
「はい!」
帰り、サイラス様はルナの作った花冠をもう萎れて汚いからと、あっさりと捨てた。
ルナは胸は痛んだものの、萎れてしまったのだから仕方がないと自分に言い聞かせた。
その後も色々なことがあった。
王家御用達の料理店にて食事をしていたところ、別の家の令嬢とたまたま出くわしたことがあった。その令嬢は美しい銀色の髪に、青空のように澄んだ瞳をしていた。
サイラスの姿を見て頬を真っ赤に染めると、ルナの方をうらやましそうに見つめた後に一礼して去っていった。
可愛いと言うよりも、綺麗な子だった。
そんな子を見てから、サイラスはルナへと視線を向けると唇をとがらせて言った。
「やっぱり、可愛いより綺麗なほうがいいな。それに僕は緑より青の方が好きだしなぁ」
「え?」
「あー。でも仕方ないかぁ」
ルナはその時何を言われているのか分からなかったけれど、家に帰り、鏡に映る自分の姿を見て涙が一筋流れた。
はちみつ色の波打つ髪の毛と、新緑のような鮮やかで大きな瞳。
両親にそっくりなその外見をルナは不満に思ったことは一度もなかった。けれど、今はその外見が嫌で嫌で仕方がなかった。
どうして私はお母様のような青い瞳じゃなかったの?
どうして私はお父様のように真っ直ぐな髪じゃなかったの?
父親似の緑の瞳が嫌になり、母親似のはちみつ色の波打つ髪が嫌いになった。
それからはサイラスに少しでも綺麗だと言われるように、サイラスの好みに合うような色と髪型、化粧をするようになった。
周囲はそれを心配したけれど、ルナは少しでもサイラスに気にいられたくて、本来の自分を消してまでもサイラスの好みに合わせようと躍起になった。
少しでもサイラスによく見られたかった。
だから、サイラスが自分と約束した日に来なくても、文句を言うようなことはしなかった。
サイラスが嘘をついても、それを知らないふりをするようになった。
けれどそれでも悲しくないわけがない。
恋に恋するルナにとっては、真剣の恋だった。
けれど、十五回目。
サイラスが現れず、いつものように何がいけなかったのだろうかとしくしくと泣いていた時、あれ?と思い出したのだ。
「これ、乙女ゲームの世界? あれ? サイラスって、クズ王子じゃない?」
思い出したのは、前世の自分のことであった。
婚約した時に言われた一言は、今でも忘れない。
「ふーん。まぁ、いいよ。可愛いし」
二人の結婚は政略結婚なので、いいでも悪いでもないのだが、そう言われた時は、可愛いと言われたことだけが嬉しくてルナははしゃいでいた。
そう。
ルナはサイラスに憧れを抱いていたのである。
王子様が自分の婚約者になったということは夢のようで、この人と自分は幸せになるのだと瞳をキラキラとさせながら乙女の妄想は広がっていった。
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「ふふっ。サイラス様は天使のように美しいですね」
「ん? 当たり前だろう?」
「はい!」
帰り、サイラス様はルナの作った花冠をもう萎れて汚いからと、あっさりと捨てた。
ルナは胸は痛んだものの、萎れてしまったのだから仕方がないと自分に言い聞かせた。
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「やっぱり、可愛いより綺麗なほうがいいな。それに僕は緑より青の方が好きだしなぁ」
「え?」
「あー。でも仕方ないかぁ」
ルナはその時何を言われているのか分からなかったけれど、家に帰り、鏡に映る自分の姿を見て涙が一筋流れた。
はちみつ色の波打つ髪の毛と、新緑のような鮮やかで大きな瞳。
両親にそっくりなその外見をルナは不満に思ったことは一度もなかった。けれど、今はその外見が嫌で嫌で仕方がなかった。
どうして私はお母様のような青い瞳じゃなかったの?
どうして私はお父様のように真っ直ぐな髪じゃなかったの?
父親似の緑の瞳が嫌になり、母親似のはちみつ色の波打つ髪が嫌いになった。
それからはサイラスに少しでも綺麗だと言われるように、サイラスの好みに合うような色と髪型、化粧をするようになった。
周囲はそれを心配したけれど、ルナは少しでもサイラスに気にいられたくて、本来の自分を消してまでもサイラスの好みに合わせようと躍起になった。
少しでもサイラスによく見られたかった。
だから、サイラスが自分と約束した日に来なくても、文句を言うようなことはしなかった。
サイラスが嘘をついても、それを知らないふりをするようになった。
けれどそれでも悲しくないわけがない。
恋に恋するルナにとっては、真剣の恋だった。
けれど、十五回目。
サイラスが現れず、いつものように何がいけなかったのだろうかとしくしくと泣いていた時、あれ?と思い出したのだ。
「これ、乙女ゲームの世界? あれ? サイラスって、クズ王子じゃない?」
思い出したのは、前世の自分のことであった。
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