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五話 やってきた運命
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帰りの馬車の中で、私は大きくため息をつく。
馬車は町へと走らせてもらっていた。
婚約破棄を嫌がるアベルの姿を思い出しながら、自分はなんと都合の良い女だったのだろうかと、最後のアベルの言葉で思い知る。
アベルもわかっていたのだ。
私以外の人と婚約すれば遊んだり浮気三昧をしたりできなくなると。
自分の気持ちを利用されていたことに腹が立った。
そして、こんな嫌な気持ちのまま屋敷に帰るのが嫌で、町へと馬車を走らせてもらっているのである。
こういう時には甘いものと買い物が特効薬となる。
町につくと、私はお気に入りのカフェへと足を向ける。後ろから侍女がついてきており、心配そうに私の様子をうかがっているのが分かる。
「あら?」
いつのもカフェの前に、一人の騎士がうろついているのが見え、私はなんだろうかと小首をかしげてしまう。
そのまま無視してお店に入りたいところなのだが、どうやら数人の女性が彼がいるためにカフェに入ることをためらっている様子である。
アベル様と別れを告げたことで、その時の私は勢いがあったのだろう。
「失礼ですが騎士様。こちらのカフェに何かご用ですか?」
振り向いた騎士の顔を見て、私は目を丸くした。
白銀色の髪と瞳は珍しく、騎士団の中でもかなり有名な人物であった。
今までアベル様しか見てこなかった私でも知っている。
「まぁ……第二王子殿下筆頭護衛騎士のロラン・ランドット様……ですか?」
思わず名前を告げると、ロランは慌てた様子で恥ずかしそうに顔を赤らめると、うなずいた。
「も、申し訳ない。邪魔だったな……えっと……」
私はその場で一礼すると名前を述べる。
「侯爵家のセリーナ・ヴィットでございます。あの、どうなさいましたか?」
ロランは頬をポリポリと掻くと、小さな声で言った。
「実は、第二王子殿下のベルタ様がどうしてもここの苺のタルトが食べたいと……おっしゃっていて、お使いに来たのはいいのですが……入るのに勇気が……」
ベルタ様といえばかなりの甘党で知られている。
だが、筆頭護衛騎士のロラン様がお使いとは。何故従者や使用人に頼まなかったのか。
私は驚きながらも、ロラン様が子犬のように困ったような顔を浮かべているので思わず口が開いた。
「あの、よろしければ買ってきましょうか?」
「え!? いいのですか!?」
「えぇ。かまいませんわ。少しお待ちになってくださいませ」
ロラン様は慌てて財布を私へと手渡してくる。私はこのくらいならばいいのにという思いと、財布ごと渡されたことにおかしさを覚えた。
私は侍女と共にお店に入ると、苺のタルトと、期間限定のケーキ、それに甘さ控えめの手軽に食べられる菓子を買うと店を出た。
店に入ろうとしている女性たちを邪魔しないようにロラン様は店の前から離れた建物の隅に待機しており、私はその様子が可愛らしいなと思いながら買った品物と財布をロラン様に手渡した。
「こちらの箱には、苺のタルトと期間限定のケーキが入っております。あと、こちらの袋には甘さが控えめな騎士様でも食べられるような菓子が入っていますので、どうぞ食べてみてくださいね。あ、期間限定のケーキとお菓子は私からの差し入れですから、お財布のお金は使っていませんからご安心を」
ロラン様は驚いたように顔をぱっとあげると、袋と私のことを何度も見比べてそれから、恥ずかしそうに言った。
「あ、ありがとうございます。お気遣いまで……」
「いえ。いつもお仕事ご苦労様です。では、これで失礼いたします」
「は、はい」
私は人にいいことをしたことで心が軽くなっていた。
その後はカフェに入りなおして季節のケーキを侍女と共に食べ、買い物を済ませて幸せな気持ちで帰ったのであった。
馬車は町へと走らせてもらっていた。
婚約破棄を嫌がるアベルの姿を思い出しながら、自分はなんと都合の良い女だったのだろうかと、最後のアベルの言葉で思い知る。
アベルもわかっていたのだ。
私以外の人と婚約すれば遊んだり浮気三昧をしたりできなくなると。
自分の気持ちを利用されていたことに腹が立った。
そして、こんな嫌な気持ちのまま屋敷に帰るのが嫌で、町へと馬車を走らせてもらっているのである。
こういう時には甘いものと買い物が特効薬となる。
町につくと、私はお気に入りのカフェへと足を向ける。後ろから侍女がついてきており、心配そうに私の様子をうかがっているのが分かる。
「あら?」
いつのもカフェの前に、一人の騎士がうろついているのが見え、私はなんだろうかと小首をかしげてしまう。
そのまま無視してお店に入りたいところなのだが、どうやら数人の女性が彼がいるためにカフェに入ることをためらっている様子である。
アベル様と別れを告げたことで、その時の私は勢いがあったのだろう。
「失礼ですが騎士様。こちらのカフェに何かご用ですか?」
振り向いた騎士の顔を見て、私は目を丸くした。
白銀色の髪と瞳は珍しく、騎士団の中でもかなり有名な人物であった。
今までアベル様しか見てこなかった私でも知っている。
「まぁ……第二王子殿下筆頭護衛騎士のロラン・ランドット様……ですか?」
思わず名前を告げると、ロランは慌てた様子で恥ずかしそうに顔を赤らめると、うなずいた。
「も、申し訳ない。邪魔だったな……えっと……」
私はその場で一礼すると名前を述べる。
「侯爵家のセリーナ・ヴィットでございます。あの、どうなさいましたか?」
ロランは頬をポリポリと掻くと、小さな声で言った。
「実は、第二王子殿下のベルタ様がどうしてもここの苺のタルトが食べたいと……おっしゃっていて、お使いに来たのはいいのですが……入るのに勇気が……」
ベルタ様といえばかなりの甘党で知られている。
だが、筆頭護衛騎士のロラン様がお使いとは。何故従者や使用人に頼まなかったのか。
私は驚きながらも、ロラン様が子犬のように困ったような顔を浮かべているので思わず口が開いた。
「あの、よろしければ買ってきましょうか?」
「え!? いいのですか!?」
「えぇ。かまいませんわ。少しお待ちになってくださいませ」
ロラン様は慌てて財布を私へと手渡してくる。私はこのくらいならばいいのにという思いと、財布ごと渡されたことにおかしさを覚えた。
私は侍女と共にお店に入ると、苺のタルトと、期間限定のケーキ、それに甘さ控えめの手軽に食べられる菓子を買うと店を出た。
店に入ろうとしている女性たちを邪魔しないようにロラン様は店の前から離れた建物の隅に待機しており、私はその様子が可愛らしいなと思いながら買った品物と財布をロラン様に手渡した。
「こちらの箱には、苺のタルトと期間限定のケーキが入っております。あと、こちらの袋には甘さが控えめな騎士様でも食べられるような菓子が入っていますので、どうぞ食べてみてくださいね。あ、期間限定のケーキとお菓子は私からの差し入れですから、お財布のお金は使っていませんからご安心を」
ロラン様は驚いたように顔をぱっとあげると、袋と私のことを何度も見比べてそれから、恥ずかしそうに言った。
「あ、ありがとうございます。お気遣いまで……」
「いえ。いつもお仕事ご苦労様です。では、これで失礼いたします」
「は、はい」
私は人にいいことをしたことで心が軽くなっていた。
その後はカフェに入りなおして季節のケーキを侍女と共に食べ、買い物を済ませて幸せな気持ちで帰ったのであった。
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