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十三話 届けられた手紙
しおりを挟むジークは届いた手紙に目を通すと、深々と大きなため息をついた。
「手紙にはなんと書かれていたのですか?」
ジャンに尋ねられ、ジークはこめかみのあたりをトントンと叩きながら、考えた様子で口を開いた。
「そうだなぁ・・書かれていたことは、明日我が屋敷に伺いますということだが・・何と言うか、どこをどう考えれば、この考えに至るのかが分からなくてな・・。」
「といいますと?」
「手紙の内容からするに、ナタリア嬢はどうやら俺がナタリア嬢の事を気に入っていると勘違いしているらしい。なんとも、厚かましいな・・」
「えぇ・・あれほど、はっきりとジーク様はナタリア嬢に伝えたのにですか・・・」
「あぁ。だが、まぁ、いい機会か。今後のルチアーナ嬢の為にも、色々とはっきりとさせる必要があるだろう。ルチアーナ嬢の両親も一緒に招待し、明日、決着をつけよう。」
ジークの言葉に、ジャンは頷くと口を開いた。
「では、今日のうちに、奥様にもしっかりとジーク様のお気持ちを伝えてはどうですか?もう少しゆっくりと時間をかけてと思っていましたが、そうも言っていられないようですし。」
その言葉にジークは眉間にしわを寄せると、大きく息をついた。
「そう・・だな。うん・・そう。だなぁ。」
いつもは堂々としているジークが何やら弱腰なその様子に、ジャンは首を傾げた。
「どうしたのですか?」
「いや・・ちょっとな、勇気がな・・足りないんだ。はぁ。これまでこんなに悩んだ事が無いからな・・」
主のへたれた言葉にジャンは目を見開いた。戦場では悪魔だなんだのと呼ばれている男が、恋する乙女のように息をつく姿など、あまり見たいものではない。
ジャンはお茶の準備をすると、ジークの前に少しばかり苦みの強いお茶を準備して、そして言った。
「ご武運をお祈りいたします。」
ジークは大きく息をつき、そしてお茶を一気に飲み干すと、眉をしかめた。
「・・苦いな。」
「甘い感情に浸っておいでのご様子だったので、それで丁度いいかと。」
「・・そうか。」
ジークは目の前の書類を片付けると、立ち上がった。
「ルチアーナ嬢の所へ行く。今、彼女はどこに?」
ジャンは時計を確認すると手帳を開いて言った。
「今の時間ですと、中庭でティータイムかと。」
「そうか。」
ジークは中庭を目指して歩きはじめ、そしてジャンはその後をついていく。
その頃、中庭でのティータイムを楽しんでいたルチアーナは、ナタリアのあの、胸をジークの腕に押し当てると言う姿を思い出していた。
あれが、誘惑するという事。
そう思うと少し顔が熱くなるが、自分ももう少し頑張ろうと意気込む。
その時であった。ジークがジャンと共に姿を現したのだが、その表情はなにやら硬い。
何かがあったのだろうかと、ルチアーナもジークにつられて表情を硬くした。
「ルチアーナ嬢。二人で話をしたいのだが、いいだろうか?」
「はい。どうかされましたか?」
ジャンや他の侍女らは下がり、二人は中庭のベンチへと場所を移すと、横並びで座り、そしてしばらく沈黙が流れる。
ルチアーナは一体何の話だろうかと思いながらも、横にいる、ジークの腕が気になる。
ナタリアが胸を押し当てた、腕。
ルチアーナはごくりと喉を鳴らし、そしておもむろに、腕にぎゅっと抱き着いてみた。
出来るわ。ナタリアにだって出来たのだもの。私にだって出来るはず。
だが、ルチアーナには、胸を押し当てるのは、さすがに憚られた。
腕を組むのが限界だわ。ナタリア・・すごいわ。私には、私には恥ずかしくて出来ない。
ルチアーナはそう思いながら、ジークの様子を伺おうと視線を向けると、ジークは顔を真っ赤に染め上げて固まっていた。
「え?」
誘惑・・成功なのだろうかと、ルチアーナは小首を傾げた。
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