12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

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第6章 アーカウラの深き場所

第3話 迷宮都市

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6-3

「ただいまー!」

 前を歩いていたスズがその木のドアを開け、元気に挨拶します。

「「お帰りなさいませ」」

 それに続いて私とブランが扉をくぐれば、聞こえてきたのはアリスとコスコルの声。
 どうやら帰ったのは暫く前のようですね。コスコルは武具の手入れをしていたみたいです。

「ただいま。もう昼食は食べた?」
「いいえ、そろそろ帰って来られると思いましたので」

 正確な時間は言ってませんでしたが、だいたい、いつもこのくらいの時間に迷宮から出ていましたからね。

「それじゃ、何か食べに行きましょうか。屋台でいいかしら?」
「私はいーよ!」

 スズはオーケー。

「私どもも構いません」

 アリスと目配せをしてからコスコルが答えます。

「ブランは?」
「うん、私もいい。焼き鳥、食べたい」

 焼き鳥ですか……。

「そうね……、なら『やしろ』の辺りの屋台に行きましょうか」

 二つの空間に仕切られたその宿屋の一室を出て、先ほど帰ってきた道を逆に辿ります。

 迷宮へ向かうこの道には余り民家は無く、宿屋や武具店、薬屋などの商店が多いです。屋台もチラホラ出てますね。

 今のうちに少し迷宮の事を話しておきましょうか。

 今向かっている辺りにある『社』こと『荒ぶる祖霊の社』を始め、この迷宮都市には四つの迷宮があります。

 一つは古今東西のあらゆる知識が収められた書庫型Aランク迷宮、『禁じられた知識の園』。

 一つは猛毒を持った野獣が闊歩する森型Bランク迷宮、『猛毒滴る野獣の森』。

 そして四つ目が、様々な薬草や毒草が群生する沼型Cランク迷宮、『魔女の潜みし沼地』。

 アリスたちが行っていたのは森の所ですね。

「それで、そっちはどうだったの?」
「はい。今日で四十階層まで進めましたので、次回で攻略できるでしょう」

 草原地帯で時間を取りましたから、だいたい予想通りのペースです。

「毒を受けてもアリスが完璧に解毒してくれましたから、今回も安心して攻略できました」
「コスコルが守ってくれると信じていますから、いつも安心して攻略できます」
「アリス……」
「コスコル……」

 ……いや、イチャイチャするのはいつもの事ですが、往来で急に見つめ合わないでくださいよ。

「あははは、ほんとラブラブだねー」
「うん、ラブラブ」

 まったく……。

「さて、屋台が増えてきたわね。この辺りで探しましょうか」
「うん」

 どこの焼き鳥が美味しそうですかね……。

 ん? あれは……。

「あそこの店、行ってみましょうか」
「ん? おっけー」

 向かった先にあったのは、屋根にバラの模様が描かれた串焼きの屋台。店主は見た目三十歳前後の『兎人族』の女性です。獣人なので、実際にはもっと歳をとっているかもしれませんが。

「この辺りを人数分ずつお願い」
「あ、火虎も一本食べたい!」
「15,000Lルルよ。……うん、ちょうどね。もう少しで焼けるから、待ってて」

 その長い耳をピコピコさせながら火を見ている店主さんは、胸元にバラの飾りがついた暗い緑色のエプロンを着ています。少し話を振ってみましょうか。

「可愛いエプロンね。バラが良い感じ」
「あら、ありがとう。貰った物なのよ」
「きっと素敵な人なのね。旦那さん?」

 彼女の顔には、『兎人族』の既婚者の証である刺青が彫ってあります。

「いいえ、違うわ。迷宮にいってばかりの旦那がそんな気は使えないわよ」

 そう言って笑ってますが、旦那さん、酷い言われようですね。

「じゃあ、このお肉って旦那さんが取ってきたやつ?」
「そうよお嬢ちゃん」
「へぇ、なかなか強いんだね。この辺とか、結構ランク高い魔物だよ」
「そうよー」

 耳のピコピコが激しくなりましたね。可愛らしい方です。

「そうだ。バラといえば、リベルティアの王都にはバラ園があるって聞いたんだけど、冒険者のお姉さんたちは行ったことあるの?」

 来ましたね。

「えぇ、なかなか綺麗な所よ」

 本当はそんなバラ園はありません。

「へぇ。私も行ってみたいんだけど、あの辺り、最近騒がしいみたいでね」
「騒がしい?」

 何かあったようですね。

「騎士さんたちが忙しそうにしてたり、訓練が激しくなったりしてるみたいでね。戦争の準備でもしてるんじゃ無いかって話よ」

 ……なるほど。

「だとしても暫く先かしら」
「ええ、そうだと思うわ。……はい、これ。何本かおまけしておいたから」
「あらありがと。また来るわ」

 追加でいくつかの食べ物を買った後は、宿に戻って食べました。
 その時にいくらかこれからのことを話しましたが、アリスとコスコルは今の迷宮を攻略してから『禁じられた知識の園』に挑戦するとの事です。
 アリスの修行になって良いでしょう。

 二人がその迷宮を攻略した頃には、私たちの攻略も終わってると思われます。その後は急ぎリベルティアに戻ることにしましょう。
 
 さてさて、少し攻略ペースも上げるべきですかね。

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