12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

文字の大きさ
123 / 145
第6章 アーカウラの深き場所

第5話 第二次人竜戦線~一日目~

しおりを挟む
7-5

 懐かしい面々と夕餉を共にした翌々日です。
 私達が居るのは、竜魔大樹海の境。以前オーガジェネラルが率いるスタンピードを迎え撃ったのと同じ場所の上空です。
 足元では見覚えのある冒険者たちがそれぞれ武器を構えています。

「さて、まずは前哨戦ね」
「うん」

 横にいるのはスズとブランだけ。アリスとコスコルは屋敷で待っているそうです。

「あなた達まで来なくても良かったのよ?」

 屈伸運動をしているスズと樹海の中層辺りをじっと見つめるブランにそう声をかけます。

「うーん、屋敷にいても暇だし?」
「私は、姉様と一緒が良い……」
「あらそ」

 ブランの天使力で力が漲ってきましたが、今日は軽く流す程度にしなければいけません。
 私達の役目はこの広大な樹海の最奥にいるレテレノを討つこと。不用意に消耗するわけにはいけません。
 さらに、今日迎え撃つ相手は竜の群れではなく、それに追われて出てくる魔物達です。
 竜のランクを考えれば、ここにいる殆どの者は後方支援がやっとになるでしょう。
 つまり最初で最後の活躍の機会。稼ぎ時です。それを邪魔するのは悪いですからね。

「ん、来た」

 ブランがそう言って前方を指差しました。
 ふむ、このままならあと一時間程で接敵する事になりますね。
 最初は以前同様魔法の一斉掃射になる筈です。

 なんて思いながらぼんやり眺めていると、先頭集団が樹海の入り口から姿を見せました。
 次の瞬間には沢山の魔法で消し飛んでましたから一瞬しか見ていませんが、ノーマルゴブリンやオーク、その他各種獣型という表層魔物フルコースだったようです。
 深層レベルが出てくるまでは見物してましょうかね。でないと準備運動にもなりませんから。

 それから更に数時間後、辺りが夕闇に包まれた頃になって、漸く深層レベルの魔物が出てきました。懐かしの強襲虎アサルトタイガーもいます。

 街壁の方では篝火も焚かれ始め、冒険者は夜目のきく種族中心となっていますね。

「そろそろ行きましょうか」
「……んあ? オッケー! 待ちくたびれたよ!」

 ……スズ、寝てましたね?
 まぁいいですけど。

 私は翼を、スズとブランは足場にしていた障壁をそれぞれ消し、宙へ身を踊らせます。
 スイッチは……入れなくても良いでしょう。目的は準備運動と、進化してしまった愛剣『シュブ=ニグラス』の試し斬りですから。

 まずは、刀形態です。
 落下する速度のままに、ちょうど良い所にいた虎の首を斬り飛ばします。

「た、助かった!」

 あら? どうやら誰かやられかけてたみたいですね。運が良かったです。
 ……嘘です気付いてました。

 その冒険者の男が移動するのを見届けてながら、逆手で後ろへ刀を突き刺します。
 そして下向きの半月を描けば、残るのは頭が縦に割れた狼の魔物。

 ふむ、こいつら程度じゃあ前との違いが分かりづらいですね。
 まぁ良いでしょう。

 しかし、ずっと思ってましたが、一瞬で刀身の脂を処理できるのは本当に素晴らしいです。
 地球でこの数を相手にするなら、持てるだけの刀を持っていても間に合わなかったでしょう。

 そんな事を考えながら目につく魔物を斬っていきます。
 袈裟、横薙ぎ、逆袈裟、唐竹……。
 うん、使い勝手は前と同じですね。

 そろそろ大剣形態でいきましょうか。

 ……あそこにしましょう。

 [短距離転移シヨートジヤンプ]で前線を押し込まれている辺りの魔物の中心へと跳び、大剣を一回転させて薙ぎ払います。

 ……ますね。
 大剣状態の斬れ味は増しているようです。

 ここを担当していた連中はっと……あら、損耗が大きそうですね。

「暫く受け持つから、体勢を整えなさい!」
「は、はい!」

 魔物達が私を警戒して足を止めた隙に指示を出します。
 今のグループ、Cランクくらいの人が多かったです。
 そして押し寄せていた魔物の半分はAランク。
 寧ろよく保たせていましたね。

 音もなく足元へ近づいていた蛇の魔物を蹴り上げ、頭部を真っ二つにします。
 更に大剣に神聖属性を〈付与〉して地面に叩きつけ、冒険者の鎧を纏ったスケルトン達を土に返しました。
 過去に樹海で死んだ冒険者達の成れの果てです。

 続けて[炎の矢ファイアアロー]を斜め後方へノールックで放ちます。

「うわっ!?」

 何やら驚きの声が聞こえました。やはり気付いていなかったようですね。
 私を迂回して後ろの彼らを狙った暗殺蜘蛛アサシンスパイダーがいたんです。

「嬢ちゃん! ここはもう良いぜ!」
「シンじゃない。それじゃ、任せたわよ!」

 常識人モードのシンが来たので、私は別の所へ移ります。

 さて、スズとブランは……。
 いました。既にそれなりの数を狩っているようです。
 もうそろそろ退散しましょうかね。

 明日の早朝には竜が姿をみせる筈だと聞いています。
 この夜を担当する冒険者達は最深奥の魔物達の相手をする事になるのですが、Sランク相当は数える程しか出てこない筈。
 そいつらはシュテンやシン、それに他のAランク達が相手をするでしょう。

 衛兵隊の実力上位者も参加するそうなので、戦線が崩れる事はない筈です。
 魔境に接する辺境だけあって、騎士や兵達も精強ですからね。

 竜が姿を見せ始めたら、私達はそれを迂回してレテレノを目指す事になります。
 今夜は、しっかり休みましょう。
 何やら嫌な予感もしますから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...