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第1章 大海の一滴
第1話 グッバイ俺の日常
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1-1
「次元の歪みを確認。…修正完了。
……第4エリア、M78地区にて超新星爆発を確認。」
何もない場所で声が響く。
「次元壁の摩耗を確認。修復用ルートを接続。…完了。終了予想時刻、第三世界時間32年3ヶ月05秒後。通常作業へ移行。」
機械的な、感情を感じさせない声。
何億年、何兆年と、もはや人には理解できない時間、繰り返されて来た。
そこにわずかな変化がもたらされる。
「…イレギュラー発生。判断を仰ぎます。………了解。対処に向かいます。」
『声』が何者かへ話しかけた後、その声は消えた。
◆◇◆
「やっと終わった…」
高校から帰ってきた少年、川上弘人は疲れきった声を出し自宅の玄関で靴を脱ぐ。
推薦で大学の合格が決まっていた彼はしかし、高校側の都合で卒業式後の二次試験対策授業に出席していたのだ。
冬場の乾燥した怜悧な空気が満ち、穏やかな日差しが降り注ぐ。言ってしまえばいつもと変わらない放課後だ。
弘人は気づかない。近づいてくる、いつもと違う日々の気配に。
◆◇◆
高校から帰った俺は、いつも通り自室でネット小説を読んでいた。冬の寒さから逃れるために付けたエアコンは、同時に部屋の湿度を奪っていく。喉の渇きを感じて、お茶でも取りに行こうかと部屋のドアを開けようとした――
――直後、俺はなぜか、真っ白で何もない場所にいた。
……いや、ちょっと待て、落ち着け、落ち着こう。俺は飲み物を取りに行こうとしてドアノブに手をかけた。そこまではいいよな?
「はい、間違いありません」
だよなだよな。で、そこで何があった?
なぜ? はい? あいはぶのぉあいでぃーあ。誰か教えてくんない?
「あなたは死にました」
そーかそーか。なるほど。…………はぁ!?
死んだ!? 俺が?
言われて気づく、自分の手足が無いことに。いや、手足どころか顔も、胴体も、あるように感じられない。
とそこまで考えて、俺はようやく自身の問いに応える何者かを認識した。
少し冷静になった俺は、その何者かに誰何することにする。
自分が死んだという事は、まぁ、ちょっと受け入れ難いが、もし本当なら、この機械のような声の主は一体何者だろうかと。こんな状況にも拘わらず、持ち前の好奇心が仕事をしていた。
「えっと、すみません。取り乱していました。それで、あなたは誰ですか? どこにいるんですか?」
「私は主より世界の管理を仰せつかった【管理者】の一個体です。どこにいるか、と聞かれれば、この空間のどこにでもいる、と答えることになります」
「管理者の主って神? 一個体って他にもいるの? というか、姿見えないって話しづらいからどうにかできない?」
その状況に舞い上がっていたのだろう。敬語も忘れて質問しまくっていた。その結果次のようなことがわかった。
・主はやはり人の言う神、それも創造神
・いくつかの個体がおり、それぞれ役割が違う。
・今の個体は時空間の管理
・主はもっと高い次元にいる
・分体が作れるらしい
・………etc.etc,
聞いた感じ、俺たちが想像する時空神とか太陽神っていうのは彼女ら管理者たちと重なるようだ。仕事も、俺が目覚めた後は分体が対応しているから問題ないらしい。
あ、ちなみに途中からは綺麗な、生まれたままの姿をした女性になってくれました。眼福だったと言っておこう。
ここにきてようやく俺は一番大事かもしれない事を聞いた。
「それで、俺はなんで死んだの?」
……いや、忘れてたというか、アハハハ……。
「次元の歪みに落ちて転移した先で超新星爆発、スーパーノヴァに飲み込まれたからです。」
……何それ。ある意味幸運? 一周回ってリアクションが取れない。
とりあえず、それが俺が管理者の空間にいる事と関係あるっぽいな。
「はい、その通りです。」
あ、やっぱり心読めたんだ。そういえば最初パニックになってる時返事があったな。
さっきまで普通に話してたから忘れてた。……あれ? 今更そっちで返事してきたってことは面倒になってきた?
「いえ、違います」
「そう言われてもなぁ……」
というのも彼女、初めは機械の自動音声のようで無機質だったのが、だんだんと感情らしきものを感じられるようになっていったのだ。人型をとったあたりからだろうか?
「説明を続けます。先程その通りと言いましたが、正確には他にもいくつかの偶然が重なりました。まず、次元の歪みがあなたの家の中にできたこと。転移先がちょうど爆発する恒星付近であったこと。爆発で生じた素粒子が満遍なくあなたの魂に当たったこと。爆発で緩んだ次元壁の修復用ルートに紛れ込んだこと――」
つらつらと説明してくれたが、結論だけを言うと、どうやら俺の魂が陽子から受けたエネルギーで高エネルギー状態になったことで、この管理者の空間に存在できるだけの強度を得られたようだ。
高校物理の範囲内でも、辛うじてなんとなくは理解できる内容だった。
本来高エネルギー状態になったとしても、すぐにエネルギーは放出されてしまうのだが、修復用のルートがすぐそばにつながったことでその前にそこに紛れ込んだらしい。この空間で、魂がむき出しにもかかわらずエネルギーが放出されないのは、濃度差の関係だそうだ。
更にこのことが、管理者がわざわざ対応してくれている理由に関係してくる。
輪廻に戻せないらしいのだ。
魂というのは本来繊細なもので、輪廻の輪の中で俺の魂がエネルギーを放出してしまったら、膨大な量の魂が崩壊してしまうらしい。
さらに下手に直接転生させるのも問題ありだ。魂のエネルギーに耐えられず、肉体が即破裂する可能性が高いとのこと。運良く生き残れても母体が耐えられない。
加えて周囲にどんな影響をもたらすか。ではどうするかというのが次の言葉。
「川上弘人さん、異世界転生、しませんか?」
「次元の歪みを確認。…修正完了。
……第4エリア、M78地区にて超新星爆発を確認。」
何もない場所で声が響く。
「次元壁の摩耗を確認。修復用ルートを接続。…完了。終了予想時刻、第三世界時間32年3ヶ月05秒後。通常作業へ移行。」
機械的な、感情を感じさせない声。
何億年、何兆年と、もはや人には理解できない時間、繰り返されて来た。
そこにわずかな変化がもたらされる。
「…イレギュラー発生。判断を仰ぎます。………了解。対処に向かいます。」
『声』が何者かへ話しかけた後、その声は消えた。
◆◇◆
「やっと終わった…」
高校から帰ってきた少年、川上弘人は疲れきった声を出し自宅の玄関で靴を脱ぐ。
推薦で大学の合格が決まっていた彼はしかし、高校側の都合で卒業式後の二次試験対策授業に出席していたのだ。
冬場の乾燥した怜悧な空気が満ち、穏やかな日差しが降り注ぐ。言ってしまえばいつもと変わらない放課後だ。
弘人は気づかない。近づいてくる、いつもと違う日々の気配に。
◆◇◆
高校から帰った俺は、いつも通り自室でネット小説を読んでいた。冬の寒さから逃れるために付けたエアコンは、同時に部屋の湿度を奪っていく。喉の渇きを感じて、お茶でも取りに行こうかと部屋のドアを開けようとした――
――直後、俺はなぜか、真っ白で何もない場所にいた。
……いや、ちょっと待て、落ち着け、落ち着こう。俺は飲み物を取りに行こうとしてドアノブに手をかけた。そこまではいいよな?
「はい、間違いありません」
だよなだよな。で、そこで何があった?
なぜ? はい? あいはぶのぉあいでぃーあ。誰か教えてくんない?
「あなたは死にました」
そーかそーか。なるほど。…………はぁ!?
死んだ!? 俺が?
言われて気づく、自分の手足が無いことに。いや、手足どころか顔も、胴体も、あるように感じられない。
とそこまで考えて、俺はようやく自身の問いに応える何者かを認識した。
少し冷静になった俺は、その何者かに誰何することにする。
自分が死んだという事は、まぁ、ちょっと受け入れ難いが、もし本当なら、この機械のような声の主は一体何者だろうかと。こんな状況にも拘わらず、持ち前の好奇心が仕事をしていた。
「えっと、すみません。取り乱していました。それで、あなたは誰ですか? どこにいるんですか?」
「私は主より世界の管理を仰せつかった【管理者】の一個体です。どこにいるか、と聞かれれば、この空間のどこにでもいる、と答えることになります」
「管理者の主って神? 一個体って他にもいるの? というか、姿見えないって話しづらいからどうにかできない?」
その状況に舞い上がっていたのだろう。敬語も忘れて質問しまくっていた。その結果次のようなことがわかった。
・主はやはり人の言う神、それも創造神
・いくつかの個体がおり、それぞれ役割が違う。
・今の個体は時空間の管理
・主はもっと高い次元にいる
・分体が作れるらしい
・………etc.etc,
聞いた感じ、俺たちが想像する時空神とか太陽神っていうのは彼女ら管理者たちと重なるようだ。仕事も、俺が目覚めた後は分体が対応しているから問題ないらしい。
あ、ちなみに途中からは綺麗な、生まれたままの姿をした女性になってくれました。眼福だったと言っておこう。
ここにきてようやく俺は一番大事かもしれない事を聞いた。
「それで、俺はなんで死んだの?」
……いや、忘れてたというか、アハハハ……。
「次元の歪みに落ちて転移した先で超新星爆発、スーパーノヴァに飲み込まれたからです。」
……何それ。ある意味幸運? 一周回ってリアクションが取れない。
とりあえず、それが俺が管理者の空間にいる事と関係あるっぽいな。
「はい、その通りです。」
あ、やっぱり心読めたんだ。そういえば最初パニックになってる時返事があったな。
さっきまで普通に話してたから忘れてた。……あれ? 今更そっちで返事してきたってことは面倒になってきた?
「いえ、違います」
「そう言われてもなぁ……」
というのも彼女、初めは機械の自動音声のようで無機質だったのが、だんだんと感情らしきものを感じられるようになっていったのだ。人型をとったあたりからだろうか?
「説明を続けます。先程その通りと言いましたが、正確には他にもいくつかの偶然が重なりました。まず、次元の歪みがあなたの家の中にできたこと。転移先がちょうど爆発する恒星付近であったこと。爆発で生じた素粒子が満遍なくあなたの魂に当たったこと。爆発で緩んだ次元壁の修復用ルートに紛れ込んだこと――」
つらつらと説明してくれたが、結論だけを言うと、どうやら俺の魂が陽子から受けたエネルギーで高エネルギー状態になったことで、この管理者の空間に存在できるだけの強度を得られたようだ。
高校物理の範囲内でも、辛うじてなんとなくは理解できる内容だった。
本来高エネルギー状態になったとしても、すぐにエネルギーは放出されてしまうのだが、修復用のルートがすぐそばにつながったことでその前にそこに紛れ込んだらしい。この空間で、魂がむき出しにもかかわらずエネルギーが放出されないのは、濃度差の関係だそうだ。
更にこのことが、管理者がわざわざ対応してくれている理由に関係してくる。
輪廻に戻せないらしいのだ。
魂というのは本来繊細なもので、輪廻の輪の中で俺の魂がエネルギーを放出してしまったら、膨大な量の魂が崩壊してしまうらしい。
さらに下手に直接転生させるのも問題ありだ。魂のエネルギーに耐えられず、肉体が即破裂する可能性が高いとのこと。運良く生き残れても母体が耐えられない。
加えて周囲にどんな影響をもたらすか。ではどうするかというのが次の言葉。
「川上弘人さん、異世界転生、しませんか?」
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